表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DECIDE YOUR DESTINY:ZETA  作者: 北村タマオ
第2章 大京反乱事件篇
20/30

0020 一瞬と永年

 信用を無くすのは一瞬で、これを取り戻すのには永年の努力が必要である。そして、信用は1度無くしてみなければ、その有り難みが分からない。何でもそうであるが、大事なものは失ってからでなければ、その価値に気が付かない事が多い。

 彼らは、あまりにも長い間、それに気が付かなかった。その代償は、あまりにも高くついた。


 桐沢之カツミ。今年より作戦少佐を拝命した男は、これを口にするべきか否か、悩み抜いていた。陸軍軍人として、否、この国にて暮らす1人の「大人」として、これだけは言わねばならない。桐沢之カツミ作戦少佐は、上申書と言う形でこれを訴えていた。

「あの盤土戦争より25年、我が国、レイド・サム公国はヴィクター大陸の列強国とも渡り合える力を備えつつあり、アスラン大陸にて最も強大な国となりました。しかし、その一方で政府・官僚・役人・軍人・財閥、所謂「高級国民」同士での癒着と迎合は日に日にその悪質化を増しており、「低級国民」と呼ばれる国民の内の7割は、「高級国民」の3割に対して怒りを抱いております。政治不信は、もはやその枠を大きく飛び越えて、軍部にまで広がっています。特に盤土戦争に置いて功績を立てて復員した、在郷軍人なる退役者の振る舞いは目に余り、市民はこれを「盤土様」と呼んで煙たがっている次第であります」

「しかし、より重大なのは、軍内部、特に若手の作戦将校や士官レベルの指揮官の間にて、「高級国民」に対する不平不満もまた高まっている点にあります。「低級国民」の間にて高まっている政治不信・軍部不信に対して、これに共感以上の感情を抱くに至っております」

「その証拠に、あの「2・01事件」により発覚した、一部の作戦将校によるクーデター計画と思しき図上演習は、このレイド・サム公国の首都・大京の機能を如何に少数兵力で奪うかと言う主題に置いて作成されており、これは彼らがクーデター計画を実行する意志を抱いており、それを具体的な形として作り出そうとしている事の証明でもあります。しかも、その図上演習を行った作戦将校は処罰されて居らず、未だに軍務に就いております」

「信用を得るのは難しく、またこれを失うのは一瞬であります。既に過ぎ去った一瞬については仕方がありませんが、これから先、信用を取り戻す為にも、クーデター計画を事前に阻止しなければなりません。その為ならば、如何なる手段を取っても不足ではありません」


 どうやら、勘の良い連中は気が付き始めている。我々「革命軍」の目的は勿論、その規模についても探りを入れはじめている。

「この間の「2・01事件」が原因ですね。あの間抜けが先走った事をしでかしたお陰で、こちらの手の内が半分以上漏れてしまいました。お陰で、こちらは1から計画を練り直さなければならなくなりました」

 だが、そのお陰で幅広く「仲間」を集める猶予も得られた。

「隊長、犠牲は少ない方が良いです。「高級国民」の資産や株券が幾ら燃えても構いませんが、「仲間」達の資産や職場を破壊してしまえば、我々もまた信用を無くすのです。慎重に行わなければなりません」

 確かに、大京を戦場にしたら、我々は未来永劫、国民から許されないだろう。

「ええ、ですから、投入兵力も絞りたいところです。「敵」のスパイが潜り込んでいる可能性もあります」

 「敵」か。同じ公国に仕える身として、同胞を「敵」と呼ばなければならないのは辛いな。

「これも、7割の「低級国民」の為です。軍部に対する不信感を拭い去り、合わせて政治の腐敗を正す軍事政権を樹立させるべく、我々は起たねばならぬのです」

 3割の「高級国民」の中でも、協力者はいるのか。

「いません。いない方が何かとやり易いかと思います」

 公国の未来の為に、共に起とう。

「公国の未来の為に、共に起とう」


 公国海軍最大の軍港「益」に錨を下ろしているのは、これまた公国海軍最大・最強の戦艦「なぐる」は、海運国の持つ海軍力の中でも最強の存在であり、同級艦「むぬ」と共に、世界最大の主砲41㎝砲連装4基の合計8門の主砲が、周囲を圧する抑止力となっている。レイド・サム公国海軍の総司令部も、この艦の中にある。

 そこには、海軍だけで無く、陸軍・空軍・戦姫軍・巨神軍・機甲軍でも、若手エリートが集まっており、全員厳つい表情を浮かべつつ、総司令部のテーブルの上に広げられた地図を睨み付ける。

「状況は最悪です。賊軍は、戦車や機甲は勿論、旧式とは言え戦艦も備えており、首都・大京にて「訓練」を名目にして部隊を展開中であります。事前に賊軍の首謀者を捕らえて処理すべきでしたが」

「上層部の失敗だ。馬鹿どもが」

 鞍馬之マスオ作戦中佐が、海軍軍人らしからぬ粗暴な態度でバッサリと言い放つ。

「無能で怠惰を絵に描いた様な上層部はさておいて、我々の役割は決まっている。賊軍を説得し、これに応えなければ戦う。無論、戦わない方が良いのは言うまでも無い。大京の中心部で砲弾の1発でも炸裂すれば、どんな被害が出るのか想像に難くは無い。超法規的な活動ではあるが、連中に天下を取らせたら、この公国は軍事政権により軍閥が支配する国になる。それこそが最悪なシナリオだ」

「そんなになるくらいならば、内戦上等で立ち向かうしかありませんな」

 寺瀬之エイキチ作戦少佐は、創立間もない空軍に置ける若きホープらしく言う。

「それは、この公国の進化と進歩を50年遅らせる思想です。そんな事になるくらいならば、改革・開放路線なんてしなければ良かったのです。文明国でいる為ならば、そうするべきです」

 桐沢之カツミ陸軍作戦中佐は、この場にいる「仲間」達の顔を見回す。全員、覚悟を固めている。

「今年も、美しい花が咲く春先の大京の街を、血で汚すわけにはいかない。しかし、いざとなれば血を流す覚悟は決めなければならない」


 樹南11年4月6日。アスラン大陸の東にある島国、レイド・サム公国に置いて、「大京反乱事件」と名付けられる戦いが始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ