0017 座して待つより
魔女だ。金髪の魔女。巨大な剣を振り回して、次々と「敵」を葬るその姿は、正しく魔女だ。戦姫ではない。何故なら、次々と巨剣にて砕かれている「敵」と言うのは、テロ組織「デザートイーグル」に非協力的なカーディアス国の街の市民だからだ。
レンヴェル・マニスト。かつては「ヘルベルダー」のリーダーであったが、これを支援しているベクトルスタン国が事実上滅ぼされてしまい、今は「デザートイーグル」に身を寄せている。隣接するメロス国やダロス国を跨いで、その勢力圏を広げ続けている「デザートイーグル」の最大の武器は、インターネットである。自分達の成果や戦果を動画にして投稿し、支援者や支援金を募り、これに反発する勢力に対する脅しとなる。
無論、ソメリト合衆国もインターネット対策に全力を傾けていた。関連動画の削除、投稿者の特定、これらは協力者たるゼータ商工会と「ZETA任務部隊」が主に対策を行い、インターネット事業を完全に乗っ取ろうとしていた。「デザートイーグル」はあの手この手で違反動画を投稿しようとしたが、任務部隊は投稿者を特定して、そこに軍を派遣してパソコンやサーバー諸共テロリストを爆撃すると言うパワープレイにて、これを粉砕していた。
結局、「デザートイーグル」はインターネットでの攻防戦からは一旦は撤退していた。パソコンだって、これを使える人間だって、かなり高くつくこのご時世にて、こんなストロング・スタイルな対策を取られたら、完全な赤字である。
情報戦に置ける敗北は、最終的な敗北への第一歩である。「デザートイーグル」は、より安く、より巧妙に、より効果的な方法を考えつかなければならなかった。そして、1つの結論に行き着いたのである。それが、このジェノサイドである。これであれば、ジャーナリストが積極的に報道してくれる。非協力的な人間の抹殺も同時に行えて、一石二鳥である。
最後の1人をブツ切りにした後で、レンヴェル・マニストは血と脂で汚れた巨剣を街の中心部の地面に突き刺して、「デザートイーグル」の旗も突き立てる。別に可哀想だとか、精神的に辛いとか、そう言う感情の動きが一切感じられない顔のままで、自分が始末した街を眺める。
このままじゃあ、何か足りない。レンヴェル・マニストはそう感じると、何かしらの付加価値が必要だと考える。あんまり派手な内容にすると、かえってリスクが増えてしまう。余計な真似とはならない様に、考えを巡らせる。
「見て下さい。この街には、2000人近い人々が住んでいました。今はもう、ご覧の通り見る影もありません。「デザートイーグル」から「人員」と「予算」、つまり協力を求めてきたのに、これを断ったが為に行われたジェノサイドです。我が国の同時多動テロにて失われた4200よりも、多くの命がこのセントラル・イースト地方の街で失われ続けているのです。我が国の軍人の戦傷者も、遂に30000人を越えました」
「見て下さい。この旗を。これはテロ組織「デザートイーグル」の旗ですが、その上に血文字で「くたばれ」と書かれています。皆さん、我々はこの100年間、何をしたのでありましょうか。一生懸命に働いて、結婚し、子を産み、育てて、こんな形で殺し合わせる為なのでしょうか。この「くたばれ」の文字は、ソメリト合衆国の言語で書かれているのは、皆さんにも分かると思います。レンヴェル・マニスト、噂の人物は戦姫で有り、我々と同じ言語を遣う、同胞なのです」
「我々が戦っている相手は、我々と同じ言語を話し、文明生活を享受していた、我々の仲間なのです。こんな残酷な事実があるのでしょうか。我々の最大の敵は、我々の同胞だったのです」
「何処も彼処も、メディアはやっぱり画になる光景を前にすると黙っていられないのね。要らない事までペラペラ喋って、これじゃあ敵の思う壺じゃないの」
「そう腐るな、エミリー・プラス。連中だってそれで給料貰っているんだ。広報部としては、「くたばれ」の部分が無ければ検閲していたらしい」
「あら、むしろそこが良かったのね」
「分かり易くて良いじゃないか。「くたばれ」なんて、悪役が使う言葉としてもってこいだ。プロパガンダに使えると踏んだんだと」
「それが効果通りに使えるかどうか分かりません。「くたばれ」の行は兎も角、戦傷者30000人突破もやっぱり問題ですよ」
「それはいい、隠していてもいずれは分かる事だ。隠そうにも隠しきれん。それよりも、問題なのは我々任務部隊が、何一つ手柄を上げていない事だ。インターネット部門が手柄を上げたが、逆にそれがジェノサイドの引き金になった。このまま「デザートイーグル」の好きにさせていたら、周辺諸国との友好関係も崩れかねない」
「今の時代、石油無しに文明社会はなり立ちませんからね。「デザートイーグル」がいる限り、セントラル・イースト地方に住んでいる約10億の民は安心して眠れない日々が続きます。そうならない様に」
「どうするんですか? 相変わらず仮想空間でひたすら終わらない鬼ごっこを続けるのですか」
「と、言うと」
「こちらから打って出るしかありません」
「敵地は広大な砂漠や山岳地帯に身を潜めている。そうでなくても、都市に民間人を装って潜伏している連中を相手に、どうやって打って出る」
「偽の街を作って、待ち伏せするしかありません。他にも色々と方法があるでしょうけど、私は他に方法が思いつきません」
「……上出来だ。次回の会議までに、細かい部分を詰めて提出するんだ。他の部署から使える奴を引き抜いて、数日で仕上げろ。敵は待ってはくれないぞ」
「このマロニスティラ・ズィークト、全力をあげて取り組ませてもらいます」




