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DECIDE YOUR DESTINY:ZETA  作者: 北村タマオ
第1章 メロス・ベクトルスタン戦争篇
16/26

0016 完敗

 圧勝であり、完勝である。

 ソメリト合衆国の次期大統領選挙では、野党が3分の2の州にて行われた投票に置いて勝利、次期大統領はジャッケル・クラウンに決まった。メロス・ベクトルスタン戦争による明らかな失敗を、市民は見逃さなかった。

 戦傷者22000人。当初は「ヴァーモント戦隊が1万人いれば終わる」とされていた戦争は、大勢の犠牲を出して、「511」同時多動テロよりも多くの戦傷者を出している。多額の税金も失われており、マニューバー・タイムズはこの状況を、「砂漠に水を撒く愚行」と評しており、手足を失って後方に戻った傷痍軍人、棺に納められて帰国した戦死者、そして精神を病んで後方に送られてきた兵隊、22000人の戦傷者の写真が、この記事に添えられている。

 これを政策の失敗と言わずして何であろうか。政権交代は当然の流れであったが、だからと言ってすぐに戦争は終わりそうには無い。ベクトルスタン国は「必要経費」と称して「民主化」の為の投資を要求しており、メロス国は「デザートイーグル」とソメリト合衆国軍との戦場と化している今、「民主化」なんて夢の又夢、今はこちらがおんぶに抱っこでなければ、「デザートイーグル」により制圧されているのは明白である。

 ジャッケル・クラウン次期大統領は、任命式に置いて、大衆の期待に答えるべく演説したが、観衆が最も期待しているメロス・ベクトルスタン戦争に関する言葉が、これである。

「私の任期中に必ず戦争を終わらせる。テロとの戦争を終わらせる。我が国はテロには屈しない。勝利するのは我々だ」

 観衆は大いに盛り上がって歓声をあげる。後に、「ソメリト合衆国の発展を100年遅らせた戦争」と呼ばれるこの戦争は、まだまだ終わりそうには無い。

 この就任式に列席していたゼータ商工会の会長、エンバーデル・ハスミトンは、果たしてこの次期大統領が2期まで務まるのかどうか、疑問視していた。4年で戦争を終わらせる。あるいは、8年で終わらせる。その間にも、現地住民は勿論、合衆国国民も犠牲が増え続ける。終戦工作は、やるならば、今すぐにでもやるべきだ。ゼータ商工会は、未来の無い市場には鐚一文投資するつもりは無い。同じ事は、少しだけでもビジネスを囓った人間であれば、考えている筈だ。愛国者ならば、私費でもって戦争に協力するだろうか、そんな酔狂な真似をしている間は、永遠に事業拡大だって一部上場企業にだってなれはしない。

 「正義」と「悪」と言う考え方だって同じだ。都合の良い時に使われるが、実際にそれを説明できる人間は少ない。大抵が政府のプロパガンダか、映画の脚本や構成の問題か、そのどちらかに過ぎない。つまりは、最初からそんな物は存在していない。

 しかし、ゼータ商工会にとっては、この「正義」と「悪」がぶつかり合う状況の中で、どさくさに紛れてインターネット事業と軍需産業に、大量の投資を行っている。ゼータ商工会は、この度その為の専門の部署を設立し、優秀な人材を同業者から引っこ抜いていた。札束で頬を叩く勧誘にて、専門知識を持つ者、成果を持つ者、能力のある者には、多額の報酬を乗っけて雇っている。

 これらの投資が実って、前線にてゼータ商工会の印がついた兵器が出回るまで、もう少し戦争をしてもらわなければならない。あの100年前のテラース最終戦争により、焼け野原となったヴィクター大陸の復興事業にて、大儲けしたゼータ商工会としては、今のこの「波」に乗るしかない。儲かるだけ儲けるのだ。儲けた金で、次の「波」を待ってまた稼ぐ。これの繰り返しだ。半ばギャンブルであり、生きるか死ぬのかの世界であるが、元々物事を単純化して、複雑な世界を「ストロング・スタイル」のみを頼みに生き抜いてきたのだ。怨みを買うだろうが、それ以上に優秀で使い勝手の良い商品を適正価格で売ってきた。

 あとは、「ZETA任務部隊」の活躍次第だな。これも投資の内の1つであるが、聞くところによると、まだ目立った成果は上げられていないらしい。「ヘルベルダー」の残党や「デザートイーグル」を相手に、幹部の命の1つも取ってこられないのであれば、この任務部隊も解散するか、あるいはまた札束で頬を叩いて優秀な人材を捜し直すか。

 就任式は終わり、観衆は勿論、次期大統領も去って行く中で、エンバーデル・ハスミトン会長は、暫くはその場を動けなかった。彼とて、祖国にはもう少し頭を使って戦争して欲しいのだが。それに、「軍人」と言うのはあまり信用しない方が良い。あいつらが欲しいのは「敵」と「予算」であり、実際には「愛国心」は添え物で、本音は自分達の「権限」の拡大と「武器」が欲しいだけだ。

 あの次期大統領、ジャッケル・クラウン大統領は、そこが分かっているのだろうか。下野した与党は、分かっていなかった。だから負けたのだ。そこを理解出来ているのかどうか、そこだけが不安であった。戦争には「味方」なんていないのだ。「友達」や「仲間」は出来るかも知れないが、せいぜいその程度だ。皆、生きるのに必死だ。他人の不幸を蜜にして舐めてでも生き残らなければならないのだ。

 でなければ、グラウンドゼロのデルタ・ビルの4200の魂に報いる事は出来ない。次期大統領が駄目ならば、アッシュハウスは民衆からの民意を永久に失う事になる。次に大統領になる奴は、大衆迎合のろくでなしが就任するだろう。そうなる前に、誰かが泥を被って戦争を止めるしか無い。あるいは、レンヴェル・マニストを抹殺するか。そのどちらかが出来なければ、この国が滅びるまで政治不信が存在し続ける事になる。

 その時、ゼータ商工会は何処に投資するべきか。エンバーデル会長は、暫く思索を巡らせていながら、自分達がまだ見ぬ世界の先まで、未来を見通そうとしていた。少なくとも、もうその頃には祖国の市場は痩せ細って「死」を待つのみになっている。その前に、他所の国に本社を移して、商売を続けるしか無い。

「会長殿、そろそろお帰りにならないと」

 秘書に話しかけられて、ようやく現実に引き戻されるエンバーデル・ハスミトン会長は、秘書に感謝の一礼をして後、自分の送迎の車が駐車しているところまで歩いて行く。


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