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DECIDE YOUR DESTINY:ZETA  作者: 北村タマオ
第1章 メロス・ベクトルスタン戦争篇
14/26

0014 黙示録の始まり

 こいつは参った。まさか、この自分が、戦姫として産まれて、戦ってきた自分が、悪夢で全身から汗を流して起き上がるとは。

 いや、戦姫かどうかは問題じゃ無い。トラウマは誰であろうと抱えるものだ。しかし、最前線から日常に戻るのが、これ程までに辛いとは思わなかった。あの「生か死か」の、緊張と恐怖の連続の日々に慣れてしまうと、平穏な銃後の生活が逆に辛くなる。

 エミリー・プラスは、ベッドから起き上がると、鏡に映る自分の顔を見る。今は軍務から外されて、3日の休暇を挟んでから仕事に移れと言われて、取り敢えずホテルにて一息つくかと言う軽い気持ちで、ここで食っちゃ寝の生活を始めて、今日が3日目だ。その間、何度も過去の、あのセントラル・イースト地方での体験が、身に染みついてしまっている現実を目の当たりにしていた。

 出来れば、3日では無く1年は休みたかったものだ。そうでもしなければ、このトラウマは癒えそうにはない。身体は比較的安全な銃後に移っても、魂はまだあの砂漠の街にある。目を閉じると、またあの何処に敵が潜んでいるか分からない、ジャングルの中に迷い込んだ羊の気分。その気分から逃れる為に虎になろうとして、動くもの全てに注意を払い続け、いざ虎になると、女子供と雖も斬り捨てなければならない。でなければ、自分の命か、あるいは戦友の命か、どちらかを天国へ献上しなければならない。

 別にそれで銃後の人間を馬鹿にするつもりは無い。曰く「前線の苦労を知らず」「戦場のイロハを知らず」「命のやり取りを知らず」と言うが、銃後の人間もまた感じている、この戦争の暗い行く末について、彼ら・彼女らもまた、その肌で感じているのだ。何処の他の誰でも無い、自分達自身が支持して始めた戦争である。自国の戦死者は勿論、敵国の犠牲者についても、全ての責任が肩にのし掛かってくる。「全部政府が悪い」と言っても、その政府は自分達が投票して選んだ人間である。何の言い訳にもならない。

 これが、亡国の空気とでも言うのだろうか。政府も軍も当てにならない。とは言っても、自分の支持政党は何だか頼りない。何処を突いても、自分達が求める「正義」が無い。しかも、現在進行形で自分の国の兵隊は勿論、他国の人間も犠牲にしているのだ。

 10年戦争になると紛争省の作戦課にて批判されたこの戦争、早く手を引かなければ、今のボス、ゼータ商工会の代表エンバーデル・ハスミトンの言う通り、この国のあらゆる分野が100年遅れる事態にもなりかねない。映画とファーストフードで世界征服は出来るかも知れないが、かつて並み居る列強国を相手に武力で勝ち抜いた、あの頃の栄光はもう戻ってこないかも知れない。

 と、そこまで考えを巡らせて、エミリーは不意に気が付いてしまった。ソメリト合衆国の元軍人の自分が、ここまで思い詰めているのだから、「敵」であるメロスとベクトルスタンの混乱と未来への絶望、そして政治への失望はより巨大なものになっているに違いない。より面倒な流れに歴史という大河が向かっているのを、エミリーは感じていた。


「三日間、銃後の空気を吸ってどうだった?」

「最悪でした」

「最前線の方がマシだったか?」

「ハッキリ言って、最前線の方がもう少しマシな空気です」

「と言うと、何処が問題なのかな」

「士気が低いです。戦意もありません。未来に対して暗い見通ししかありません」

「つまり、厭戦気分が蔓延しているというのか」

「そんな言葉では生温いです。このままでは、我々は後世に暗い世代を残す結果になりかねません」

「そうか、まぁ広報課に抗議させてもらうよ。もっと明るいニュースを流す様に、な」

「それは情報の検閲ではありませんか」

「しないよりやった方が良い場合もある。連中の二の舞になるくらいならな」

「何か前線で動きでもあったのでしょうか」

「元メロス国大統領、マゼラス・フェルダムが遂に逮捕された。民間の地下室に潜んでいたそうだ。暫く拘禁した上で、軍事法廷にて裁かれる手筈になっている。これでメロス国にて民主化が進むと政府筋は喜んでいるらしいが」

「絶対に止めるべきです。代わりの「大統領」を据え置いて、後は全部任せて、我々は帰還するべきです」

「そうだな、それが一番良いのだろうが、もう遅すぎたらしいな」

「遅いも早いもなく、それが最終的なゴールじゃないのですか」

「我々の文化圏では、そう言う事になっているのだが、あそこは文化は勿論、言語も異なる地域だからな。我々の常識は通じない。議員からは「何であんな所で戦争なんか始めたのだ」と、身も蓋もない愚痴が出て来ている」

「……何があったのですか」

「先程、「デザートイーグル」と言う組織が、国家として独立宣言を出した。声明はネット経由で盛大に行われて、広げられている。ネット検閲が追いつかないと、宣伝部が泣き言を漏らしている」

「その「デザートイーグル」とは」

「どう言う組織なのかは、これからオフィスに来てブリーフィングを受けて説明を聞け。この戦争、まだまだ荒れるぞ。マゼラス元大統領を処刑する程度では、収まらない展開になりつつある」


 何故、テロ組織「ヘルベルダー」へと支援を行ったのか。

「そんな組織とは関係を持っていない。我が国はテロリストに支援していない」

 貴殿が製造したと言う「大量破壊兵器」は何処にあるのか。

「そんなものは造っていないし、造るように命じた覚えも無い。我が国に攻め込む口実を得る為の言いがかりだ」

 「511」テロに際して、「ヘルベルダー」に対して資金援助を行った記録があるが、これについて何か言うことは無いか。

「我が国は「511」テロに支援した覚えは無い。でっち上げだ」

 判決を言い渡す。被告を死刑に処する。

「こんな裁判で私を殺しても、また「次」が出てくるぞ。私は地獄へは落ちない。地獄へ落ちるのは貴様らだ。これが本当に「正義」だと思っているのか」

 これにて閉廷。

「まて、話を聞け。私は大統領だぞ。大統領の命令が聞けないのか」


 「デザートイーグル」は、その指導者の顔を、何なら自分達の顔を徹底的に露出させずに、セントラル・イースト地方の一角で勢力を強めていた。「いずれはヴィクター大陸まで攻め込む」として、彼ら・彼女らは、これまで微妙な均衡にて保たれていたセントラル・イースト地方のバランスを完全に崩された中で、新しい指導者の元にて、自分達の国を作ろうとしていた。

 何なら、世界征服だって目指してもいい。もう上も下も真ん中もない。階級が完全に崩壊した今、誰が上に行っても良いのだ。取ってやる。この世界で、全部を自分の意のままにする。そして、ソメリト合衆国と戦って勝てる国にするのだ。

 「デザートイーグル」のシンボルマークの下に、声明文が並ぶインターネットのホームページには、その様な文句が並ぶ。最後は、この一文字で締め括られていた。

「いずれは世界をこの手に」

 それは、映画やファーストフードではなく、暴力と恐怖による世界征服の宣言であった。


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