0013 任務部隊
三顧の礼。やる方はとてもとても、屈辱的で嫌な形ではあるが、やられる方もまた気まずいおもてなしである。しかも、相手はソメリト合衆国大統領、ヴァベル・タチウス大統領である。ゼータ商工会の会長であるエンバーデル・ハスミトンのプライベート空間だろうと、職場だろうと、訴えたら勝てるレベルで、何度も何度も協力を要請していた。
既にヴァベル・タチウス大統領の2期目の可能性は消滅している。だからこそ、その前に、落選する前に何か残しておかなければならない。
「紛争省や中央情報局によらない、大統領府直属の特殊部隊が欲しい。そのパトロンになって欲しい」
と言うのが、ヴァベル・タチウス大統領の申し出である。大統領府直属、即ち責任者は1国の指導者であり、この特殊部隊は大統領の代弁者として活動するのだ。その部隊創設を支持して欲しい。と言うのだ。ついでに全世界での活動の為の協力態勢も整えて欲しいというのだ。
「つまり、軍隊も、インテリジェンス機関も、みんなあてに出来ないから、ビジネスで天下を取った我々を頼らざるを得ない、と言うのですな」
こいつは弱った。三顧の礼に応じてあって話を聞いてみれば、儲からない儲け話をふっかけられたのだ。面白い筈も無く、興味深いわけも無く、こんな話の為に三顧の礼に答えたのかと思うと、頭が痛くなり、相手をぶん殴りたくなる気持ちを抑えながら、エンバーデル・ハスミトン代表は、一考する。戦争は儲からない。だが戦争に備えないともっと儲からない。そんな格言があるが、今こそその時では無いか。
ゼータ商工会は、ポケットティッシュから金銀財宝まで扱っているが、1つだけ、進出していない部門がある。軍需産業である。そして、もう1つの新興勢力も抑え忘れていた。今現在、世界に「憎悪」と「偏見」を無邪気にばら撒いているインターネットだ。軍需産業にインターネット事業、次の波が来ているのではないか。
「波」に乗って儲けるだけ儲ける。それがゼータ商工会の社訓である。この「波」に乗るのも悪くは無い。インターネット事業は、まだ産まれたばかりの分野である。もっと熟れてから手を出すつもりであったが、それでは遅い。しかも、今回は大統領の、この国の最高指導者からのお墨付きでやりたい放題出来るのだ。
この際、失敗した場合の状況までは考えない。失敗しないようにすればいい。少しでもその兆候が見えたら、その瞬間にこの件から手を引くだけだ。
「ZETA任務部隊」
と言う正式名称も頂いた、その新しいインテリジェンス機関の主軸には、インターネットが置かれるのは、この時の交渉の時から決まっていた。しかし、幾ら武力による敵の制圧を前提としない諜報機関と雖も、いざと言う時の為の武力は必要であった。何しろ、大統領府直属である。紛争省や中央情報局、それに治安当局を当てにする訳には行かない。普通であれば、大統領権限でもってこれらの機関を手足のように使っても良い。それが正解なのだが、「ゼータ商工会」は全部自前で揃える事に拘った。もし表の事業であれば、独占禁止法に違反する行為であるが、エンバーデル・ハスミトン代表は構わずに押し切った。
軍はゲームなら勝てるが戦争には勝てない組織になってしまった。インテリジェンス機関もまた、「511」を事前に察知できずに、今日の混乱を招いていた。「ZETA任務部隊」は、いずれにも属さない強権的な組織で、縦割り・横割りのごちゃごちゃした組織の上下関係、馴れ合い、全てから解放された組織だ。
そして、この「ZETA任務部隊」には、あの2人の戦姫が相応しい。
ヴァールトン・カシミリア作戦中佐と、ギガント・クルス作戦大佐。本来、同じ部屋にて一緒に居たら、お互いに大激論に発展するだろう、慎重派と報復派の代表が、ここでは一時停戦とするほか無い。
嫌な噂が流れているのだ。大統領府直属の諜報機関が創設されようとしている。この数日、各部署から殆ど理由も無く、優秀な人材が引き抜かれているのは、それが理由だ。
「どうする、大統領に詰め寄るか。あるいは、サボタージュでもするのか」
「どっちも駄目だ。我々にはお声がかかっていない所を見ると、大統領は我々を信用していない。紛争省の作戦課には頼らないという意味だよ」
「しかし、我々を差し置いてこの様な話をでっち上げるとは、確かにヴァーモント戦隊構想は「ゲーム感覚」と呼ばれても仕方が無い結果になったが、だからと言って大統領権限でもって動く諜報機関は、存在自体が危険だ」
「信用の無い人間の進言は聞かれないだろう。ここは大人しくしているほか無い」
「クソ、で、どの様な人物が引き抜かれている」
「最初に、とびっきりの戦姫が2人、バスク政治特区に呼びつけられたようだ。超有名人が2人、な」
エミリー・プラス戦姫曹長とマロニスティラ・ズィークト戦姫上等兵、2人は「ZETA任務部隊」の責任者として紛争省情報課から引き抜かれた男、メック・ダンク作戦少佐は、状況を把握していない2人に言い放つ。
「今日限りで軍務から外れてもらう。その代わりに、「ZETA任務部隊」の実働部隊に任命する。階級も剥奪させてもらう。表向きには、君達2人は「事故死」扱いだ。そのド派手な戦姫の衣装も、より地味な格好になってもらう。何なら武器も銃にして欲しいのだが、それはやり過ぎなので却下だ。これからはあまり目立たない様に、それでいて暗い感じには見えない様に、要するに普通の市民に近い形で活動して欲しい」
エミリー・プラスとマロニスティラ・ズィークトは、色々と質問したい事があったが、この場では全て呑み込んでいた。これから説明されるだろうに、説明を求める必要は無い。
「ZETA任務部隊」。名前負けする組織にはしたくないものだ。しかし、大統領府直属とは、大きく出たものである。要するに、それだけ切羽詰まっていると言う事だ。今後は無茶な命令や要求がドシドシ出されるだろうが、全部に答えなければならない。そうでなければ、本当に無一文になってしまうだろう。




