0012 棺が並ぶ
メロス・ベクトルスタン戦争と後世に言われる戦争は、両国の政府が機能を停止して後から、戦況がより激しくなると言う結末を齎しており、ただでさえ複雑で繊細な地域であったセントラル・イースト地方にて、共通の敵としてソメリト合衆国が出現した結果、構図は単純化していた。
この状況に油を注ぐ事になったのは、インターネットである。メディアというフィルターを通さないで、発信者の「独断」と「偏見」がそのまま「悪意」として流布されていく中で、グロテスクでセンセーショナルな映像が広く拡散された。
こうして、ソメリト合衆国とセントラル・イースト地方の各国は、お互いを「敵」として認識されて、「憎悪」を抱いていた。
エミリー・プラス戦姫曹長とマロニスティラ・ズィークト戦姫上等兵は、次々とメロス国の道に増え始めた戦友の姿を見て、次いで住民の顔を見る。誰も彼も、こちらの目線を避ける様に顔を背けて、急いで道を歩いて行く。
エミリーは、この光景を見て、これからこの国が直面する状況に対して、想いを馳せる。結局、組織的抵抗が終わってから1年近く経つが、大統領は未だに見つかっていない。それどころか、戦争の目的であった「大量破壊兵器」すら見つけられていない。国内では政治不信と反戦気運が渦を巻いており、これから軍に対する風当たりは強くなり続けるだろう。
メロス国での状況がこれなのだから、ベクトルスタンの状況も過酷なものである。テロ組織「ヘルベルダー」の残党を相手に「対テロ戦争」と言う錦の旗を掲げてはいたが、「民主化」と言う「衛星国」化は遅々として進まず、テロ活動により腕や脚を、そして時には命を失う兵士は増え続けていた。
エミリー・プラス戦姫曹長は、この現況について胸が痛む事は無かった。あの時、グラウンドゼロのデルタ・ビルにて剣を捨ててテロリストに良心で訴えた時から、自分は一体何か出来ただろうか。棺に入れられて祖国に冷たくなって帰還していく戦友と、いつの間にか日常を壊されて望まない民主化をする様に強要されているメロス国の市民、一体どちらかが「正義」で「悪」なのか、誰にも満足のいく答えが導かれはしないだろう。
熱い日差しが差すセントラル・イースト地方の砂漠に造られた街の中で、今月で何度目かの爆発音が響き、爆炎と煙が濛々と立ちこめる。今度は誰が犠牲になったのか、あるいは自爆テロか、誰かがロケット弾で機甲ロボットか車両を狙って攻撃したのか。
マロニスティラ・ズィークト戦姫上等兵を連れて、現場に行くと、軍用トラックが勢いよく燃えている。その隣に、やはり燃えているレイド・サム国製の乗用車が、軍用トラックの横っ腹にめり込む形で燃えている。全てのガラスが吹っ飛んで無くなっており、シートやエンジンも原形を留めていない。
軍用トラックの近くに、戦友の骸が幾つか転がっている。その内1人は、自分で拳銃で頭を撃ち抜いていた。火傷の苦しみから自分を解放したのだ。また棺が祖国に送り返される事になる。それだけでなく、自爆テロで自分の命と引き換えに「敵」を殺したテロリストに対しても、残された人間が何を思うのか。心痛極まりないままに、現場の調査と遺体の収容を行うと、こんな時、何処の誰に祈れば良いのか、答えは見出せなかった。
メロス国の隣国であるダロス国は、今まで何度か戦争した歴史を持つ国であるが、まさかの場外からの乱入者により、メロス国は一方的にボコボコに殴られてダウンを食らっていた。このままでは、こっちもやられるのは時間の問題だ。「大量破壊兵器」を持つべきなのは、今こそだ。あんないい加減な根拠を元に攻め込まれるとは、ダロス国でも想像は出来ていなかった。
あの「ヘルベルダー」とか言うテロ組織のしでかした事は、セントラル・イースト地方に置いて、大きなリスクとなって広がり続けていた。全く、本人達は目標達成で満足しているだろうが、関係のない国まで次々と巻き込んで、「テロリストを産んだ地域」と言う理不尽なレッテルを貼られて、何処へ行っても白い目で見られている。ヴィクター大陸の国の中には、セントラル・イースト地方出身者に対して、「必ず髭を剃れ」と言う、偏見剥き出しの法律が制定されていた。
それ以上に問題なのは、ゼータ商工会を筆頭に、産業界はメロス国やベクトルスタン国の復興事業に全くと言って良い程投資していない。それどころか、現職の大統領に対する弾劾に積極的に協力しているらしい。少なくとも、ヴァベル・タチウス大統領は残りの任期をつつがなく過ごし、あわよくば2期目を狙うのは不可能になった。この流れを止めるのには、強力なウルトラCを決めなければ、どうにもならない。
この時代、惑星「テラース」は、正しく「暴力」と「憎悪」に支配されていた。
エミリー・プラス戦姫曹長とマロニスティラ・ズィークト戦姫上等兵は、棺を安置所に運び込んでいた。スペースは充分あるのだが、既に今月いっぱいで半分は埋まっている。こうなる事は充分に理解出来ていた筈なのに、どうしてこうなってしまったのだろうか。
いや、今更そんな事思っても仕方が無い。単純な数だけならば、より大勢のメロス国やベクトルスタン国の民が、「テロリスト」として殺されているのだ。中には大した根拠も無いままに、「怪しいから」「狙われていると思ったから」と言う理由にて、何の罪も無い市民を殺しているのだ。
矢張り、あの時、炎上するデルタ・ビルを背にして、剣を捨てるべきでは無かったかも知れない。いや、あの時、あの旅客機をハイジャック犯ごと斬り捨てたとしても、2機の旅客機が激突した時点でデルタ・ビルは火災と破損でに耐えきれずに、結局倒壊しただろう。
レンヴェル・マニスト。あの時に見た、テロ組織「ヘルベルダー」のリーダーを捕らえる事は、まだ出来ていない。尻尾を掴むどころか、その影すら見えていない。一度見たら、絶対に忘れられない顔立ちと、あの不気味な無表情は、雑踏の中に紛れ込んでも、すぐに分かるビジュアルである。なのに、諜報機関や治安当局は、レンヴェル・マニストを捕まえられていない。もしかして、あれは偽装であったのだろうか。
そしてもう1人、元メロス国大統領であるマゼラス・フェルダムもまた、行方不明のままだ。「隣国に亡命した」「既に死んでいる」「地下シェルターに籠もっている」等々、様々な憶測が飛び交っていた。
開戦の直接的理由となっている大量破壊兵器については、存在は愚か、開発計画すら記録されていない。何処を探っても、見つかるのは通常兵器ばかりである。
「正義」と「悪」の戦い、「対テロ戦争」、「独裁体制打破」、色々とプロパガンダ活動にて様々な美辞麗句が使われていたが、次々と本国に骸になって戻ってくる、手足を無くして戻ってくる、そして敵国とはいえ自分達と同じ血の通った人間が大勢理不尽な死を迎えているこの現状に対して、ソメリト合衆国国内にて、厭戦気分が蔓延し始めていた。




