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DECIDE YOUR DESTINY:ZETA  作者: 北村タマオ
第1章 メロス・ベクトルスタン戦争篇
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0011 100年の後退

 混乱こそが狙い。そう言ったマロニスティラ・ズィークト戦姫上等兵の予測は、完全に的中していた。大統領府にはためいていたメロス国の国旗は下ろされて、ソメリト合衆国の旗が翻っていた。そこに至るまでの複雑な政の流れについて、知っている者は少なかったが、こんな屈辱な現状を受け入れられる人間はそこまで多くは無い。

 軍は敵の巧妙な用兵にて一方的に叩かれて負けた。でも、まだ自分達は生きている。武器を取れ。最期まで戦え。女子供も問わずに、祖国を守れ。それこそが、混乱が狙いであった。逃亡した大統領が行った最後の演説の狙いは、完全に成功していた。また、周辺諸国の反ソメリト合衆国勢力が大量の武器を提供しており、現地に駐屯しているソメリト合衆国軍の犠牲は日に日に増えていた。


 歩哨として立っていたソメリト合衆国軍の若者は、自軍の戦姫と他愛の無い会話をしていた。別に恋の話ではないだろうが、日々の激務に対する苛立ちが、その言葉に込められていた。メロス国軍を壊滅させるのには、1万のヴァーモント戦隊があれば充分であったが、広大なメロス国の領土の占領までは出来ていなかった。地域によってはまだ抵抗が続けられており、地続きにて支援国が存在しているので兵站もなかなか断ち切れず、現場の兵隊のストレスは高まっていた。

 話を終えて、戦姫が歩兵から離れていく。その直後、歩兵の身体が2つに引き裂かれる。戦姫が振り返り、敵の姿を、狙撃手の姿を探る。しかし、狙撃ポイントとして使えそうな場所が幾らでもある市街地にて、戦姫1人で探し出すのは不可能であった。

 自分も撃たれるかも知れない。そう思った戦姫は、空へと飛び上がって、自分の所属する基地に戻りつつ応援を頼む。あの歩兵には気の毒だが、仇はとれそうには無い。クソ、メロス国軍を相手にする時とは、訳が違う。

 通報を受けて、防弾処理を施された装甲車が現地に到着、遺体を収容し、近隣住民のプライバシーを土足で荒らして調査を行い、対物ライフルとその弾薬、使用済みの空薬莢を見つけ出していた。住民に対して説明を求めても、「知らない」の一点張りに頭に来た歩兵は、住民を基地に連行していき、住民は二度と戻らなかった。


 人型ロボット兵器は、より事情が複雑であった。砂漠で使う為にダストカバーを追加した砂漠戦仕様に改造されていたが、的がデカい故に市街地にて警戒任務に就くと、何処かしらからHEAT弾を用いるロケットランチャーを撃ち込まれて、腕が一本、足が一本、運が悪ければコクピットのある胴体を丸焦げにされて、残骸を市街地に晒していた。


 エミリー・プラス戦姫曹長とマロニスティラ・ズィークト戦姫上等兵は、安置所に並べられている戦友が葬られている棺の列を見て、ここから先、これが10年続くと思うと、頭が痛くなってきていた。既に数だけで計算しても、メロス国軍と戦った頃よりも死傷者の数を上回っている。パルチザン運動の恐ろしさと戦い辛さを、今更になって再認識させられていた。

 ここに並んでいる棺だけではなく、PTSD、ストレス性心的外傷でもって、心が壊されて本国へ送還される例も増え続けていた。見えない敵との戦いほど、ストレスが溜まる物は無い。ましてや、それで味方が次々と死んでいくのを見せられてしまえば、頭がいかれて使い物にならなくなっても不思議では無い。

「これ、写しますけど、良いですよね」

 傍に居る本国からの記者が、心痛極まりないと言う表情で尋ねてくる。エミリー・プラス戦姫曹長は頷いてみせる。一時は軍が報道を検閲する動きを見せて、メディアや市民から大顰蹙を買ったのを反省して、取り敢えず現場に誰か軍関係者がついて、撮影の許可を出すという形で、要するに責任を現場の兵隊に丸投げして、取材の自由を認めていた。

 自由か。エミリー・プラスは、考えずには居られない。自由、「理想」と「理性」により証明されるものであり、ソメリト合衆国の国是の1つとされる思想である。でも、今の祖国の何処を突けば自由なんて言葉が出てくるのか。誰もが責任を避けて、何かあれば部下の責任にして、功績は全部自分が独占する。そんな国の為に、ここで冷たい骸になって祖国に帰還する戦友達と、それを迎える遺族の気持ちを考えると、何とも言えない気分を味合わされる。

 ヴァーモント戦隊構想は、なる程理屈としては完璧な作戦であった。敵軍の殲滅のみを考えたら、これ程効率的なやり方はないと証明された。だが、それは同時に広大な土地を占領下には置けないと言う弱点もまた証明していた。恐らく、今頃アッシュハウスでは「撤兵」か「増派」かで、大いに揉めているであろう。そうでなければ、楽観視が過ぎる。マニューバー市のグラウンドゼロに眠る、4200人の遺族はこの状況を見てどう思うだろうか。


 エミリーの想像通り、アッシュハウスで尻が痛くなるまで硬い椅子に座らされている閣僚達は、自分達のしくじりについて猛省されている状況にあった。ベークトラス・ファンダビ紛争大臣は、潔く自分の責任は認めていたが、辞職についてはヴァベル・タチウス大統領は辞表を受け取らなかった。

「まだ終わっていない。逃亡中の敵国の大統領を逮捕して裁判にかけ、「ヘルベルダー」のリーダーであるレンヴェル・マニストを生死を問わずに捕らえるまで、辞表を受け取るつもりは無い」

「それは、あなたの任期中には無理です。次の大統領選挙でも負けるでしょう。つまり、時間の問題です」

「負けると言うのか、ソメリト合衆国が、負けると言うのか」

「合衆国ではありません、負けたのは我々だけです。あなたの演説通り、敵にはバスク政治特区にて凱旋する力はありません。しかし、我々にはまだメロス国の領土を完全制圧下に置く力もまた無いのです。ヴァーモント戦隊構想は、ゲームには勝てましたが、戦争では敗北しました。我々は、このままあの砂漠にて戦い続ける必要があります」

「では、「増派」しろ、と?」

「それしかありません。今の状況は、1万の軍が敵中にて孤立しているも同然なのです。援軍を送らなければ、この1万は消滅します。我々は一度投資した以上、今後も結果が出るまで投資し続けなければなりません。そうしなければ、これまでの犠牲は全て無駄になります」

 その場に居た閣僚達全員の顔が凍り付く。あの有名な写真、輸送機の格納庫を埋め尽くす戦死者の棺を思い出したのだ。戦死者があれだけ居ると言う事は、その数倍の戦傷者が存在している。その社会復帰を促進する福祉政策の整備もしなければならない。

 あの時、エミリー・プラス戦姫曹長は剣を捨てて、相手の「良心」に訴えた。「正義」の剣で「悪」の魂を切り裂くのを拒否したのだ。本来ならば軍法会議ものの抗命行為であるが、今思えば最も「理性的」な判断であった。このままでは、4200の魂が、天において祖国の未来を、否、今を嘆くに違いない。どうすればいいのだ、ここから先、「増派」を繰り返し続ければ、合衆国の若者が次々と戦地に送られて、身体と心を傷つけて戻ってくるのだ。


 エンバーデル・ハスミトン代表は、ゼータ商工会の各部門の責任者を集めた会議に臨んでいた。議題は無論、「今後のゼータ商工会の経営について」だ。

「我が国の事業への投資を増やすべきか、減らすべきか、それが重要だ。減らした分を、何処へ投資するのかも重要だ」

「代表、それは即ち、合衆国の経済が」

「経済だけでは無い、あの戦争はこの国のあらゆる分野の発展を100年後退させた。もっと未来を見据えた場合、合衆国が未来永劫世界一位に居られるかどうか、怪しいところだ。我々は未来に押し寄せてくる「波」に乗るべきだ」

 なんとも、大胆な発言だ。つまり、もう見込みの無い事業には投資しない。と言う事だ。見込みの無い事業というのは、このソメリト合衆国の事業、それもあらゆる事業だ。例外を1個も認めていないその態度は、正しく「資本主義の権化」である。

「ゼータ商工会は、未来に投資するべきだ。我々はビジネスマンだ、愛国者では無い。いや、両立は可能かも知れないが、少なくとも今の我々には必要ない」

 エンバーデル代表は、バッサリと言い放つ。世界最強のビジネスマン、かくありき。


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