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DECIDE YOUR DESTINY:ZETA  作者: 北村タマオ
第1章 メロス・ベクトルスタン戦争篇
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0010 法則が乱れる

 メロス国軍もまたソメリト合衆国と同様に、6つの軍を保有していた。陸・海・空・戦姫・機甲・巨神の、6つの軍を整備しており、世界唯一の軍事大国が攻め込んできたとしても、ある程度は持久できると想定していた。抵抗して戦局我に利あれば、和平へ向けての交渉を行い、抵抗しても戦局我に利無ければ他国へ亡命する。ここまでは、通常の手順である。何なら教科書通りであるとして、評価されてもいい。

 あの理不尽かつ穴だらけな主張に基づいた宣戦布告から1週間が経ち、遂に惑星「テラース」最強の艦隊の空母から飛びだった爆撃機、あるいは駆逐艦から打ち上げられた巡航ミサイルが、ミネラヴァ海沿いの海軍拠点を虱潰しにして制圧、制海権を奪取した上で、強襲揚陸艦から次々と地上部隊が上陸してくる。

 その規模を偵察隊の目がとらえていたが、メロス国軍はその報告に驚いていた。敵の規模にではあるが、あまりにも少なかった。ザッと見で判断して、推定11000人と言う所であった。初期にメロス国が想定していた数の20分の1である。ベクトルスタンへの侵攻作戦、自由・博愛作戦と同数の戦力でなければ、メロス国軍には負けないまでも苦戦は強いられるのではないか。

 制海権を奪われたのは最初から想定していた。高度な防御システムを持つソメリト合衆国の駆逐艦には、10発や20発の地対艦ミサイルでは簡単に迎撃されてしまっただろう。はなから陸戦にて決戦する予定であったから惜しくは無いが、これからの陸地での決戦は、100000対10000だ。10対1となれば、例え装備が圧倒的に優秀であったとしても、負ける筈もない。

 かくして、メロス国軍はヴァーモント戦隊構想による最初で最後の犠牲者となったのである。


 ソメリト合衆国の第1ヴァーモント戦隊の基本は、正確な情報の収集である。その為に、偵察用に無人機を大量に用意して、あるいは偵察衛星も総動員して、メロス国軍の所在地、動向、移動先まで追跡・偵察しており、何処へどれだけ、どの部隊を派遣するべきか、作戦課の作戦士官は即座に判断して、必要な地域にて最適な部隊を派遣する。

 第1ヴァーモント戦隊1万は、次々とメロス国軍の拠点を侵食していく様に進撃していった。後に残るのは、敵の死骸と残骸だけである。


 メロス国軍の司令部では、作戦士官や司令官が顔面蒼白にて、事態の流れを見ていた。報告されるのは「敗報」のみで、こちらの軍は翻弄されるがままになっている。援軍を派遣しようとしたら、すぐに別の敵軍がこれを攻撃して、また援軍の派遣の要請が発せられる。これを延々と繰り返していたら、いつの間にか総戦力の4割が消えていた。今もまた、更に2割が消えようとしている。

 メロス国軍の司令部は、自国の大統領にこの状況を包み隠さずに全部報告していた。最後に、こう付け加えていた。

「敗北は時間の問題なり」

 マゼラス・フェルダム大統領は、焦り倒していた。そして、同時に自分達より遙かに寡兵で挑まれて負けている軍人達に、怒りも覚えていた。いっその事、自分が指揮を執ろうかと思っていたが、そんなの負ける国のやる事だ。

 負ける? 矢張り、メロス国は負けるのだ。遂に殆ど一方的な展開にて、我が国の軍隊は一兵残らず消え去るのか。

 大統領府にて、この世のあらゆる理不尽に対して怒り散らかしているマゼラス大統領は、それでも大統領にまで成り上がった人間らしく、すぐに考えを転換した。

 三十六計逃げるにしかず。他国への亡命は無理でも、何処かしらの地下シェルターを借りて、潜伏生活をおくり、10年程度はそこで過ごして臥薪嘗胆の精神の元、メロス国の真の指導者として、また返り咲くのだ。

 その前に、やれる事はやっておかなければならない事がある。放送局まで向かうと、マゼラス大統領は国民に訴えかける。


「我が国は負ける。だが、メロス国民が負けた訳では無い。残念ながら、軍部は結果を遺せなかった。しかし、国民1人1人が火の玉となって敵にぶつかっていけば勝てる。我が国の市民全てがソメリト合衆国と刺し違えれば、敵に勝てる。1人最低1人か2人は殺せば、それだけでソメリト合衆国はその総戦力を失うのである。だから国民よ、戦いはまだまだこれからだ。メロス国の誇りと共に」


 これを聞いて、真っ先に反応したのはメロス国軍であった。軍部は、これまで自分の職務を全うするのが祖国に対する義理だと解釈していた。ところが、まだ最終的な敗北を喫するより先に、「降伏宣言」ともとれる声明を発表して、自分は雲隠れである。これが命をかけて、そして命を落として、国家に忠誠を誓った軍人に対する扱いだろうか。

 司令部は自分達の居る建物の屋上に、白旗を掲げるように命じていた。それが当然の対応であった。あの演説が国民の心に訴えかけて、それが理解されていたとしたら、今後のセントラル・イースト地方はとんでもない事態に発展しかねない。木を隠すなら森の中、テロリストと市民を見分ける方法なんてものはない。

 確かに、効果はあるだろう。完全なゲリラ戦術に訴えれば、ベクトルスタンの様な状況を作り出せるかも知れない。しかし、その結末が如何なる惨禍を国に齎すのか。いや、国への信頼感が落ちるところまで落ちれば、自分達で国を造ろうと言う連中だって現れかねない。そうなれば、このセントラル・イースト地方は、いや、世界中が戦場となるだろう。テラース最終戦争以来の、危機的な状況だ。

 ソメリト合衆国は、そこまで考えて挙兵したのだろうか。いや、分かってやしない。もしそうであれば、あんないい加減な理由で、こんな無駄な戦争は起こさなかっただろう。全ては不幸な「政」が産み出した悲惨な戦いの結果である。


 エミリー・プラス戦姫曹長とマロニスティラ・ズィークト戦姫上等兵は、剣に付いた血と脂を拭き取ってから、敵国の大統領演説の中継放送を見ていた。1人1殺の精神でテロ攻撃を受ければ、なる程ソメリト合衆国は敗北するだろう。秩序の崩壊は、新しい火種を産んで、更に血と涙を流させる結果になる。

 エミリーはマロニスティラに問う。

「本当に、やると思う?」

「やりますね」

 即答であった。理由を求める沈黙が流れた後で、マロニスティラは付け加える。

「誇り云々は兎も角、あのメロス国大統領の目論みは見えています。つまり、事態を混乱させる事です。混乱すればする程、ソメリト合衆国もまた税金と人的資源を消費しなければならないからです」

 混乱させる事。即ち、民間人を巻き込んだテロ攻撃を展開して、こちらの体力を削り取る。然る後に決戦して、これに勝つ。敵が描いている今後の青写真はそんなものだろう。

「どうします? まだ軍に居ますか?」

「ええ、この日の事態を作り上げた責任は、私にもある」

 それは彼女の本心であった。



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