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第7話:『異能の混線、絶望の寿司食べ放題』

「……いい? 重ねて言うけど、今日からメロもいるんだから、三人で仲良く……いえ、せめて()()()()でお願いね。家が残ってれば、帰りにアイス買ってくるから!」


茜は、半分祈るような気持ちで玄関のドアを閉めた。

残されたリビングには、重苦しい沈黙が流れる。


中央のエリンギソファ(元・高級ソファ)にメロが偉そうに鎮座しており、クローゼットの隙間からはミクの銀色の瞳が光る。リエルはそんな二人を交互に見て、楽しそうに笑った。


「ねぇねぇ、ミク! メロ! 茜がいない間、何して遊ぶ?」


「……遊び? 馴れ馴れしいわね。私はこれから、この低俗な居住空間を魔導城レベルにまで『最適化』する仕事があるのよ」


メロが杖を振ると、洗濯機が「キュィィィン!」と異次元の回転を始め、雑巾が命を宿したように走り回り、さらにはポーションの瓶が自動生成され始める。


一斉に魔法で家事を「最適化」するメロだったが、静かに過ごしたかったミクには少々耳障りだった。


「……うるさい。……ボクのクローゼットまで、振動がくる……。……やめて……」


「はあ? 効率を上げれば騒音が出るのは道理でしょ。これだから無知は……。だいたい超能力? か何か知らないけど、その力も気に入らないのよね。私への対抗心かしら?」


「……! うるさい……ボクはただ、静かにいたいだけなのに……能力のことだって、関係ない……!」


ミクの周囲で重力が歪み、メロが魔法で浮かせていた洗濯物や雑巾が、バサバサと床に叩きつけられる。

まさに一触即発。そこにリエルが、悪気のないガソリンを投下した。


「あ、ミクの力、メロの魔法よりすごそう! 浮かせたり、沈んだり、あと大きくなったり! 面白いよねー!」


「……っ! リエル、あなた今なんて言ったかしら? 私の至高の術式が、その得体の知れない根源も分からない力に劣るとでも!?」


メロのプライドに火がついた。


「見てなさい! 全ては魔法を使えば一瞬なんだから!」


メロが更なる魔法を展開しようとした、その時。リエルがとある物を見つけた。


「あ、虫さんだー!」


小さな蜘蛛が床を歩いているのを、リエルが指さす。


「……。…………!!!? ……あ。……これは、やばい……」


ミクの【未来視】が発動。その瞳には、蜘蛛を見たメロがパニックになり、このマンションどころか近隣数百キロを極大魔法で「更地」にする光景が映し出された。


「………あ、……そっちはダメ、見ちゃ……」


一足遅かった。メロの視界に、その「黒い点」が入り込む。


「……っ!! ひ、ぎゃあああああ!? ゲ、ゲド・ザードよ! 異界の邪悪な多脚魔獣スパイダーよ!! 極大消滅魔法で灰にしてやるわぁぁ!!」


終焉の紅蓮ジ・エンド・オブ・イグニッション】!!


メロの背後に幾重にも重なる魔法陣が展開される。その中心に凝縮された熱量は、太陽の表面温度に匹敵する。

ミクの瞳が銀色に染まり、間一髪で空間を切り取る。


「……【虚数空間・隔離(ゼロ・アブソリュート)】」


極大魔法が発動した瞬間、空間が歪み、全ての熱量を「存在しない次元」へと飲み込ませた。リビングの空気が一気に奪われ、強烈な耳鳴りが走る。


間一髪、この周辺の大地は救われた。

メロは身を小さく屈め、大きな帽子をギュッと押さえるようにしてプルプルと震えている。


「あはは! 食べられちゃったー! 虫さんもどっか行っちゃったよー!」


「……!。…………悪かったわね。」


「…………。」


メロは不服そうに口を開き、ミクは隠れるように再びクローゼットに閉じこもった。

さらに気まずい空間が出来上がったが、そんなことはお構いなしにリエルは二人に駆け寄る。


「ねーねー! 一緒に遊ぼうよー!!」


「………。」「…………。」


沈黙を打ち破ったのは、リエルの腹時計だった。


「ありゃりゃ。二人ともお腹痛いのー? リエルはお腹空いてきたなー! 茜が作ってくれてたごはん食べよう!」


リエルはご機嫌でキッチンへ向かう。

ふと、そこにあった「出前寿司のチラシ」がリエルの目に留まった。


「これ、美味しそう! いっぱい食べたいな!」


リエルの【全能の願望(ウィッシュ・コード)】が発動。

チラシの「寿司」が実体化し、さらに無意識に放たれた「増殖エクスポネンシャル」のコードが空間に浴びせられる。


異音に気づいたミクがクローゼットから覗く。


「あ。……なに……ボクの砦が……」


リビングを侵食し始める「寿司」の海。

米とネタの香りが、2LDKを物理的に埋め尽くしていく。


「わあ、食べ放題だね! いただきまーす!」


「笑ってる場合じゃないわよ! どうするのよこれ!」


「……無理。……ボクは逃げる……」


       *


数時間後。茜が「アイスの詰め合わせ」を手に帰宅すると、玄関の隙間から「ガリ」と「米粒」が漏れ出していた。


「…………嘘でしょ」


ドアを開けると、天井まで届きそうな寿司の山の中で、三人がそれぞれ孤立していた。

メロはマグロに埋もれながら「しつこいわよ、この生魚!」と叫び、ミクは天井付近で重力を操作して避難し、リエルは寿司の山に潜って、もぐもぐと食べている。


「……私の、癒やしの2LDKが……寿司の海になってる……家が残っていれば良いとは言ったけど…」


茜は、手に持っていたアイスの袋を落とした。


三人はまだ、お互いの力を認め合っていない。それどころか、力の「混ぜ方」を間違えて、日常を大惨事に書き換える「歩く特異点」の集合体だった。


「あなたたち……。今すぐ、これ全部……食べなさい!!」


その夜、茜の家からは、幼女たちの「もう食べられない! (よ……) (わよ!)」という悲鳴と、茜の「無かったことにするの禁止! 一粒残らず完食しなさい!」という怒号が深夜まで響き渡ったという。

著者あとがき


お読みいただきありがとうございました!

「みずいろドロップ」です。


三人揃ってのお留守番でしたが、結果は「2LDKが寿司の海に沈む」という、茜さんの胃痛が加速する展開となりました。

最強の能力が組み合わさると、一歩間違えれば世界が滅び、一歩間違えれば(?)寿司が無限増殖する……。一ノ瀬家の明日はどっちだ。


物語もここからさらに賑やかになっていきます。

「この三人なら、次はどんなトラブルを起こすのか?」

「茜さんの年収がゼロになるのが先か、家が消滅するのが先か」

など、温かい(?)目で見守っていただければ幸いです。

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