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パドマの箱庭  作者: 菌床
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01:プロローグ


視界が青天白日に染まったその時、私は思い出した。


『思い出す』という表現は相応しくないかもしれない。

まるで、初めて自分が「呼吸をしている」のだと意識するような、そんな感覚。


無意識から意識上に浮きだしたそれは、『自分が自他共に認める公爵令息のトラウマ婚約者』という事だった。



「リーシャ!」



ついさっきまでおもちゃの木剣をやんやと振り回し遊んでいた私は、何に足元を取られたのかも分からぬままずるりと思いきり体制を崩した。

重く大きな頭が振り子のように身体を後ろへ引っ張り、あ、と思った時には柔らかい地面にボゴンと派手な音を立てて仰向けに倒れていた。まるで立て直す反応をせずにひっくり返った私の元へ軽やかな足音が複数、駆け寄ってくる。


呆然とする私を覗き込む二つの愛らしい顔。

どちらも大変整った顔立ちをしており、似た色味の黄色の髪が動くたびに揺れるのが綺麗だ。

背景が青空だからか、まるで天使たちが覗き込んでいるようで、ここが天国かと錯覚する。


「だいじょうぶ?すごい音したよ?」

「ねぇねぇリーシャぁ、痛くておきれない?わたくしが分かる?」


眼を開いてはいるものの反応を示さない私の目の前でひらひらと手を振る、しっかり者の天使。

彼はそのベゴニアのような明るい赤の瞳を心配そうに曇らせ、駆け寄った大人を見上げた。


「目は手を追うけど…これって動かさない方が良い?」

「リーシャぁ!リーシャぁ!しなないでぇ!」


片や、勿忘草のような明るい水色の瞳を濡らし、ゆさゆさと私の身体を揺する非力な天使。

彼女の高い体温と声が心地良くて何だか眠くなってきた。寝て良いかな。

その揺れは起こそうとしているつもりなのだろうけど、ごめんね、その揺れが気持ちいい。眠い。


「お嬢様、大丈夫ですか?……お昼寝前みたいな顔してるんですけど」

「幸せそうだね…」

「しにがおー!?」


遊びを見守っていた護衛よ、全くその通りだ。お嬢様は眠い。

そしてアロイーズ。後は頼んだ。

さっきから人を死人扱いする双子の妹をどうにか宥めておいてくれ。

オリアーヌが心配しなくとも、私はまだ死なない。多分、今ではない。


(だってまだ、婚約とかしていないしなぁ)


とろとろとした脱力感に瞼を開けていられず、私はそのままお昼寝タイムに入った。



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