第31話 マリンの戦い
エヴァという魔族と一対一になったマリン。霞ノ杜の里で魔法の実践経験は豊富だが、上位の魔族と一人で戦うこと初めてのことだ。
「見くびられたものだな、この魔影のエヴァリストがお前のような小娘一人で相手になると思われたというのは」
エヴァリストは不敵な笑みを浮かべた。
「ここから先へは行かせません」
「それはどうかな?」
そうこうしている間にも〈バリアブレイク〉の攻防は続いていた。マリンの〈バリア〉の張り直しよりも破壊される速度のほうが速く、〈バリア〉は破壊されてしまう。間髪入れずにエヴァリストの魔法が放たれて当たり、マリンは吹き飛ばされてしまう。森の木々にぶつかりながら地面に落ちていく。致命傷を負ってはいない、装備品もリーリエルの計らいで上質なものに変わってはいるが、それよりも魔力操作が上がっているおかげで相手の攻撃をなんとか防げているといえた。
エヴァリストはマリンが態勢を整えている間に、先に行った魔族のほうへ向かおうとしていた。しかし再びマリンが〈バリア〉を張ってエヴァリストの進行を阻もうとするが〈バリア〉を張った場所は何もない空白の場所だった。〈バリア〉が張られるとエヴァリスト姿かたちをしていたものが消えていき、何もなかったはずの空白の場所から次第にエヴァリストの姿が現われてきた。
「何! 私の幻影魔法が見破られただと」
「もともと視覚を重視していない私に幻影魔法は効きません」
「おとなしく私を通していればよいものを、よほど無残な死を望んでいるようだな。これでもくらいな」
〈シャドウクラッシュ〉
直後に青紫色の大きな閃光がマリンに向かって放たれる。
マリンはすぐさま〈バリア〉を張ってその魔法を防いだ。
「さあ、いつまでもつかな」
放たれた〈シャドウブレイク〉は〈バリア〉に当たっても消えることなく押し続けている。しかし、マリンも負けまいとエヴァリストの魔法を少しずつ押し返す。
「ちっ、しぶといやつだ。人間のくせにどれだけ魔力を持ってるんだい。だが、これならどうかな」
〈シャドウブレイク〉
エヴァリストはもう一方の手で別の魔法を放った。見た目は同じように見えるが、この魔法に当たると〈バリア〉が破壊され始めていた。
しばらくは耐えていたがそれも限界を迎えて〈バリア〉が完全に破壊されてマリンに魔法が直撃してしまう。地面に転がったマリンから微かに呼吸のための体の収縮運動が見て取ることができる。致命傷は避けることができたようだ。だが地面に突っ伏したまま動くことができない。服が破れてボロボロになっている。特に上半身の損傷が激しい。
「やっと終わったか。最後にこれでとどめを刺させてもらうよ」
そういって次の魔法の構えをとったところに別の青白い閃光が走った。
一瞬の出来事でエヴァリストは全く反応することができなかった。放とうとしていた魔法が消えるどころか自分の片方の肩から先がなくなっていた。
「何!私の腕が……。ぐっ」
魔王に匹敵するといわれるほどの魔族の体の一部を一瞬で消し去るほどの威力の攻撃を一体だれが放ったのか。
エヴァリストは混乱しながらも防衛本能からか、痛みに耐えながら声を押し殺して魔法で姿をくらませた。
「マリン!」
近づいてきたのは魔導着を身にまとって長身の銃を持ったゲーデルだった。足元を見ると人が二、三人ほど乗れそうな板状の魔導具らしき乗り物に乗っていた。
攻撃が命中した魔族の行方を探そうとしたが魔力でものを見ることができないゲーデルにはエヴァリストがどこにいるのかわからなかった。それよりも今はマリンの救助が最優先だ。ゲーデルは周囲を警戒しながらその場を離れようとしたが、魔導具からこちらに移動しくる高エネルギーの反応があった。ゲーデルは物音を立てずに身を隠していると、空に全身黒色の魔族が現われた。その魔族は何かを発見して地上に降りて行った。その先には先ほどの魔族が横たわっているのが見えた。黒の魔族は口から実のようなものを地面に吐き出した。そして別の魔族の失われた体の治療をしているように見えた。
吐き出された実は急成長して人型の木になり傷ついた魔族を抱き上げて、黒の魔族から指示された方角に向かって走っていった。
黒の魔族はそれを見届けた後すぐに来た方向に飛んでいった。
ゲーデルはその様子を、ただ息を殺して見ているしかなかった。マリンの容態も気になっていた。回復薬を飲ませることを試みたが、意識を失っているせいかほとんど飲み込めていなかったのでちゃんとしたところで診てもらわなければならない。緊張と焦りで体と手が汗ばんでいた。
「もう大丈夫だろう。急いで戻ろう」
ゲーデルは辺りを確認しながら飛行用魔導具に乗ってヴェンの街に戻ることにした。




