98. 大海龍ヴァルアトスと誘拐事件
俺は大海龍ヴァルアトスが再度現れたとの情報を得て甲板上に上がってきた。
水平線より物凄い勢いでこちらへと迫ってきている。
今回は原因究明と対策については事前に打ち合わせ済みだ。
まずはヴァルアトスと対話が出来るか試してみるしかない。
あの時はリブラだったが彼女に貰ったスキルって何て名前だったっけ。
そうだ、龍 言 の調律だった。
スキル付与型だったから多分使えると思うけど発動させて会話してみよう。
「大海龍ヴァルアトスよ!我が声を聞き届けよ!」
ヴァルアトスは俺の声が聞こえたのか突如動きを止めて船を見つめてきた。
相手にわかりやすいように甲板の先端に向かい、語りかけたのは自分だと手を掲げた。
『我々の言葉が理解できるとは貴様何者だ…?』
「私の名はパルテと言う者だ。貴方が怒っていた海を汚染させていた問題は私が解決した。今後は二度と起こさせないよう貴方に誓おう」
『人間の戯言を我に信じろと?そのような言葉だけで止めることは叶わぬ』
「貴方は平穏を望む龍なのであろう?私の力なら貴方と戦い渡り合える力があるが、自身も平穏を望む魔族だ。出来るなら穏便に解決したい」
『魔族だと?たかが魔族が我と渡り合えると思うのか、その自身の根拠を示してみよ』
「私の本当の名は、魔王バルテオスだからだ」
俺の名前を聞いたヴァルアトスは隻眼を光らせ、こちらの体を見つめる。
何をやっているかは不明だが魔力や強さを調べているのだろうか。
『貴様が世界で忌み嫌われる魔王だと?確かにお主からは底しれぬ力を感じるが…』
「私は魔王を辞めて平和に暮らしている。貴方と同じ龍族である極炎龍バルザードも仲間に加わって共存している」
『あの暴れ龍バルザードが貴様の仲間にだと?』
「ああ、娘のヴァレリアと共にだ。私は龍族との調和を望む、出来れば争いたくない、その気持ちだけはわかってほしい」
『もし人間が同じ過ちを犯したら貴様はどうするつもりだ』
「その時は、私が責任を持って止めにくる。約束しよう」
ヴァルアトスは俺が見せた信念を込めた言葉を聞き静かに考えている。
長年海の平穏を守って来て、恐らく人間が色々やらかした出来事もあるのだろう。
だから今回の海を汚す件については我慢ができなくなった。
そう簡単には信じられないのかもしれない。
しばらく時間が経過した後に静かに相手は答えを返してきた。
『貴殿の進言については理解した。よかろうお主の責任で成し遂げてみせよ』
「信じてもらえて助かる、何か問題があったら私宛に連絡が欲しい。水精霊ウンディーネ経由で連絡とか可能ですか?彼女も知り合いですから」
『なんと…貴殿は水精霊とも繋がりがあるのか。わかった何か問題が起きた時には水精霊経由で伝えようぞ…では、さらばだ』
ヴァルアトスはこちらとの対話で納得したのか、船から体を翻し大海原へと姿を消していった。
これで当面の航海については安全になるだろう。
船員たちも何故かヴァルアトスが帰っていった事で喜んでいた。
──それから一週間後
船は予定通りに港町オルバステへと到着した。
船の出港は五日後だ、それまでに船長の問題を解決しないといけない。
まずは、船に積み込まれる毒物入貨物の搬入と犯人探しだ。
荷物の犯人探しはコンラッド船長と仲間たちに頼んでおいた。
俺とアトレシアは、もう一つの海運ギルド『バルタッツァ』のお偉いさんがいる屋敷の近くの宿で夜まで待機することにした。
しばらくして深夜になり二人で屋敷への潜入を開始する。
相手は余裕があるのか、入口付近も門番が二人いるだけで全体の警備は手薄だ。
睡眠魔法で入口の二人を寝かせて、門番を近くの草むらへ隠し屋敷内への侵入を開始した。
中へ入ると入口は結構な広さで大きな階段と奥に繋がる廊下、部屋が沢山ありそうな複数のドアと探すのが難しそうだ。
アトレシアと話し合い、俺は下の階を彼女は上の方に別れて捕らえれられてると思われる奥さんと子供を探しに行く。
壁伝いに廊下を歩いていくと部屋に入る扉とは明らかに違う、鉄製の扉の場所があった。
静かにノブを回すと鍵はかかっていない、音をさせないよう扉を開き中を覗き込むと地下への階段が繋がっていた。
周囲を見回し階段を降りていくと石造りの地下室で牢屋のような鉄格子で仕切られた場所に着く。
中を覗き込むと、身なりが少し綺麗な大人の女性一人と子供が見える。
牢の前に立つと女性が気配に気づいたのか上半身を起こしこちらに声を掛けてきた。
「貴方様はどなたでしょうか…?」
「お二人はコンラッドさんの奥方と娘さんでしょうか?」
「はい、そうです」
「私はパルテと申します。お二人を助けに来ました、少し牢から離れてください」
俺は闇の手を使い牢屋の鉄格子を力ずくで無理やり左右に開き人が通れる位の穴を作る。
少し大きい音がしたので気づかれたかもしれないが目的の人が見つかったのでお構いなしだ。
「パルテ様、今の力は一体…?」
「スキルみたいなものです、さあ逃げましょう。旦那様が待っています」
奥様は子供を背中に抱えて牢屋を出て俺の後に続く。
階段を上がり一階の廊下に出たところで騒動に気付いたのか屋敷内の人間が現れた。
「貴様何者だ!」
こちらに呼びかけてきたのは、隣に護衛の二人を連れた中年でブクブクと太った偉そうで少し髪の毛が後退した貴族っぽい男、恐らくだがこの人物がギルド『バルタッツァ』の頭目だろう。
ここはカッコよく決める場所だ、そう思った俺は調子にのって決め台詞を相手へ放つ。
「悪の陰謀を叩き潰しに私が現れた!そこをどけ!」
こちらの挑発に乗って頭目が顔を真赤にして怒り出す。
「そいつら全員捕まえろ、侵入者の女は生け捕りにしろ」
二人の剣士は丸腰のこちらを見て剣を抜いて襲いかかってきた。
ただの護衛兵士が繰り出す攻撃なんてこちらの相手にならない。
俺は闇の手を使って二人を壁に弾き飛ばし衝撃で動けなくした。
動揺して床に座り込んだ頭目の男を闇の手で体を持ち上げて縛り上げる。
「なっ、なんだこの不気味な奴は!はっ…話せ!」
「そうはいかない、誘拐の容疑で一緒に来てもらおうか」
入口に向かっていたところでアトレシアが戻ってきた。
「パルテ様!ご無事ですか!?」
「アトレシア遅いよ…入口まで安全確保してくれ」
「承知しました!」
彼女に殿を頼み表に出た。
どうやら先程の騒動で周囲に情報が伝わったのか、護衛の兵士たちが集まり大騒ぎになっていた。
だけど、こちらは頭目を人質として捕まえているので相手は動けないでいる。
さて、どうするか。
全員を一旦倒して、このまま脱出しようかと考えてたら外から誰かが迫ってきた。
現れたのは荷物の犯人探しをしていたコンラッドと身なりが整った貴族の重鎮みたいな方を引き連れている。
恐らくこの人が領主に違いない、状況が飲み込めず困惑している人物がこちらに何が起こったのか問いかけてきた。
「これは一体どういう事だ!?」
俺は領主の様な人物に対して事情説明をしていく。
「この男がコンラッドさんの奥方と娘さんを誘拐していたという噂を聞き、救出を行いました。抵抗されたので今は私のスキルで捕らえております」
俺は捕らえた男を領主の前で地面に下ろしていく。
奥方は自身の伴侶を見つけ駆け足で彼の下へ走っていった。
「あなた!」
二人は強く抱き合いお互いの無事を喜んでいた。
コンラッドは喜びに震えて安堵の顔を見せている。
「よく無事だった、よかった…」
「こちらのパルテ様に助けていただきました」
領主の男は眼の前に座り込んだ男に厳しい口調で問い詰める。
「ドルツァイよ!大体の事情は伺ったぞ、海運ギルドの利権狙いでコンラッドの奥方と子息を誘拐し、危険な荷物を積ませるよう脅迫していたとは断じて許さんぞ!」
「いや、その…」
ドルツァイという男は状況証拠を揃えられて何も反論が出来なかった。
奥さんも誘拐されたいた事を証言してくれるだろうし逃げ道はない。
「おって沙汰を下すまで、屋敷に待機しておれ!」
ドルツァイという男は観念したのか、寂しい背中を見せながら屋敷へと戻っていった。
「パルテ殿…この度の件、何とお礼を言ってよいか…」
コンラッドは俺の手を強く握りしめて感謝の気持ちを表していた。
「こちらにも利がある取引ですし、全力でやりましたよ!」
「それでもお礼させてくれ、本当にありがとう!」
緊張が溶けて少し眠くなってきた。
今日は遅いから、明日また海運ギルドで話し合う事にしてお開きとなった。
誘拐事件も解決したし、取引を纏めて明日には国へ戻れるかな。
そう考えて宿に戻り、慌ただしい一日は終了した。
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