96. 大海龍ヴォルアトスの思惑
大陸横断便で故郷のバルダーン大陸へ向かっていたが大海龍ヴォルアトスが現れたと船員が騒ぎ出し、急いでアトレシアと共に上部甲板に出た。
周囲を見回すと甲板員と操舵手が帆の向きを変えて何とか航路を逸らそうと必死に回避作業に取り掛かっている。
「おい!もっと西に寄せろ!!」
「精一杯やってんだろ!!」
「このまま行くと直撃して沈没するぞ!気張れ!!」
俺は相手の姿を確認しようと水平線の向こう側に目を向けると巨大な龍の姿が視界に入った。
全長も幅も俺達が乗っている船よりも数倍の大きさで群青色の綺麗な鱗に包まれ長いヒゲと隻眼を光らせながら、こちらとの距離は海を切り裂くような速度で迫って来ている。
このまま船に突っ込まれたら速攻で沈没してしまうのは明らかだ。
ここで船を沈められた助かるかどうか解らない。
そう思った俺は何とかして相手の動きを止める方法はないか考えた。
水属性の敵なら雷魔法だが、爆裂雷は海面に散って威力が弱まるのは目に見えている。
杖が使えれば威力の底上げが出来るが、今は戦闘で壊れて使えない状態だ。
こうなったら一か八か、魔王覚醒時に覚えた最上級魔法を試してみるしか無い。
俺は迫りくるヴァルアトスの動きを読む。
相手の近寄る速度を見てタイミングを合わせろ。
直撃とはいかなくても近くで落ちれば影響は出るはずだ。
「いくぞ!絶界魔法!超烈雷!」
俺の詠唱により周囲一体の空が乱層雲に酷似した巨大な漆黒の塊が湧き出す。
空気が震えて雲全体に電撃が集まり始めた瞬間に目を晦ますような巨大な光と共に有り得ないほどの巨大な稲妻が海面へと落下して周辺一体に巨大な水しぶきを上げ雷撃が広がる。
不意打ちで強力な雷撃を食らった大海龍ヴォルアトスは、大きな咆哮を上げた。
「グァアアアアア!!!」
海から伝わる雷撃で体にダメージを負ったのか、ヴァルアトスはこちらから進路を変え船から離れて行き水平線側へと遠ざかっていく。
「おおおー!偶然雷が落ちて助かったぞー!」
偶然雷が落ちたように皆からは見えたのか。
実際はこちらの功績だけど、色々騒がれても困るからそういう事にしておこう。
「おい!今の雷撃はな!」
俺の功績が称えられないのみ不満があるようでアトレシアが船員に食ってかかろうとしたが手を差し伸べて静止する。
首を横に振り何も言うなと身振りだけで察したのか彼女は大人しくなった。
一旦危機は去ったようだが、また来ないとも限らない。
少し情報収集しておくべきかと思い近くにいる船員に話しかけて見た。
「船員さん、ちょっと伺ってもいいですか?」
「あんた達何でここに!?こんなとこ居たら危ないだろ!」
「我々は龍を倒したこともある冒険者です。先程のヴァルアトスが現れた理由について調査しているのですが」
「なんだって?あんた達冒険者なのか…しかも龍を倒したことがあると?」
嘘は言っていない。
なんたって過去にバルザードと戦ってある意味倒したからね。
冒険者という言葉で若干警戒心が溶けたようだ。
「ええ、過去にですが。それでちょっと聞きたい事があるんですが」
「なんだい?」
「ヴォルアトスは、本来大人しい龍と聞いています。それなのに最近船に襲いかかって来ていると、ここ最近何か異常を感じたことはないですか?」
「それがさっぱりなんだ、最初は威嚇程度だったんだが…ここ最近は船を沈める勢いで攻撃を仕掛けてきて困ってるとこなんだ」
なるほど、ヴァルアトスは最初は警告して船を止めようとしていたのか。
それでも船が航行を止めないから、これ以上やるなら沈めるぞって脅してきていると考えられるな。
という事は原因はこの船自身か、この船が通ることで何か問題を起こしている可能性がある、もう少しこの船について調査が必要かもしれない。
「よろしければ船長に船の調査をさせていただくよう交渉できないでしょうか?」
「船を調べたい?駄目駄目。船乗りにも誇りがあるから余所者に船を調べさせるような事は許可しないよ」
「そうですか、わかりました」
こうなったら皆が寝静まる夜にこっそりと調べるしかないか。
今日は早めに寝て夜に行動を起こそう。
そういえば思い出したけど、ライラに付与してもらった龍語で会話できるスキルってまだ使えるんだろうか?
ヴァルアトスは船を直接攻撃せずに、まずは警告から始めて来ているという事は、かなりの知能が高い龍族だろう。
直接龍と会話して何故攻撃してくるのか理由を聞いて問題解決をすれば、和解の道もあるかもしれない。
もし、ヴァルアトスが再度襲撃して来たら会話を試してみるか。
──深夜
アトレシアと共に深夜に起きて船内調査に出かける、
事前に何処を調べるかは幾つかピックアップ済みだ。
部屋の扉を開けて周囲を見回したが流石にこの時間は見張りも少ない。
ゲームで培った技術で見回りに発見されないように通路から部屋の間を隠れながら進んでいく。
まずは、船倉にある倉庫だ。
何か怪しいものでも積んでいないかを調べるためだ。
倉庫入口まで近づくとやはり見張りがいるようだ。
ここは騒がれても困るから静かに眠ってもらおう。
「睡眠呪魔!」
立っていた門番は、眠りの魔法により静かに地面に座り込む。
二人から鍵を奪い倉庫を開けて中に隠して中の荷物を調べ始める。
大半が食料や武器や道具類のようで、特に異変はない。
どうやらここではなかったかと思った時小声で呼ぶ声が聞こえた。
「…パルテ様こちらに」
アトレシアに呼ばれ彼女の側に近寄ると一つだけ異質な箱がある。
「なんだこれ…?」
「何かを海に流し込んでるような感じですね」
大きな箱からパイプなような物が伸びている。
アトレシアが言う通り海に何かを注ぎ込んでいるようだ。
念のため毒物感知を使ってみたら反応ありで、強力な警告が返ってきた。
「もしかして、これで何らかの毒を海に流してるのか?」
航行中に毒を海に流している?
一体何のために?
船乗りは海に敬意を払ってるはずだ。
だがこれを使って海域を汚染させているのなら、ヴァルアトスはこれが原因で襲ってきている可能性が高いな。
いきなり原因の根源らしきものを引き当てた。
しかし、コレどうしようか。
船長に報告する?
いやこっそり忍び込んだのバレたら色々問題になりそうだ。
下手したらこちらの責任にされて、捕まる可能性もあるな。
とりあえず、氷結魔法で中の液体を固めて一旦対処しておくか。
「氷結塊 (アイスピラー)…」
一旦中身は氷にして海への流出は止めた。
あとは誰がコレを仕掛けたのか犯人を調べるべきだが長居は無用だ。
早急にここから脱出しよう。
そう思い外に出ようとしたら階段を降りてくる音が聞こえたので隠れる。
「おい、入口の見張りがいねえし、扉が開いてるぞ」
「中にいるんじゃないでしょうか」
見つかるとマズイので闇の手を使い二人の姿を隠して様子をみる。
船員とは異なるきっちりした衣装に身を包んだ人物。
もしかしてあの人がこの船の船長か?
船長は先程俺が氷に固めた箱を調べている。
なんで船長があの箱を調べてる?
もしかして奴が犯人なんじゃないか。
「おい!誰か倉庫に入り込んだ形跡があるぞ!人呼んでこい!」
「わかりました!」
俺は、ヴァルアトスが船を襲う犯人の正体を見つけた。
だが二人とも狭い船倉で脱出のスキがない。
俺とアトレシアは絶体絶命のピンチに陥った。
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