95. 新たな旅立ち
俺達は魔法都市国家アルカナアークで見送られ港町バルジャンテへ向かうことになった。
時間短縮のため闇の手でアトレシアを抱えて飛翔魔法で一気に移動だ。
街に到着してバルダーン大陸への渡航便を手配するため海運ギルドへ向かう。
ギルドの中に入ると銀髪で大人びた雰囲気で青色の綺麗なスーツのような服を来た受付嬢が来訪の挨拶を伝えてきた。
「ようこそ海運ギルドへ、本日はどのようなご要件でしょうか?」
「バルダーン大陸への渡航便に乗りたいのですが」
「大陸横断船ですか、少々お待ちいただけますでしょうか」
受付嬢は大陸横断船の話を聞いた瞬間、少し厳しい表情を見せながら奥の部屋へと入っていった。
しばらくすると右目に眼帯をした海賊風な赤衣装を着用し立派なヒゲを蓄え口にパイプを加えた初老の人物が現れた。
「俺はここのギルドマスターをしてる『バルドラン』だ、大陸横断船に乗りたいってのは姉ちゃん達か?」
「はい、バルダーン大陸に戻るため、こちらで乗船手配出来ると聞いたのでやってきました」
「残念だが身元が知れない人物を乗せる事はできない、どちらかの貴族の紹介でもあれば別だがな」
紹介状…なるほどマチュアさんが渡してくれた書状が役に立ちそうだ。
「魔法都市国家シャルミア女王様からの紹介状を持参しております。こちらをご確認ください」
「女王からの紹介状だぁ?偽物とかじぇねえだろうな」
ギルドマスターは、こちらが渡した紹介状を受け取り中身を見る。
威厳を見せていた彼が手紙の内容を見て一気に顔が青ざめる。
彼は突然大声でこちらに謝罪をしてきた。
「たたた…大変失礼いたしました!おいリュミエル!この方たちを最上級の待機宿泊室へ案内しておけ!」
「は、はい!承知いたしました。どうぞこちらに」
女王様からの書簡に何が書いてあったか知らないが効果はバツグンの様だ。
リュミエルという名の受付嬢に連れられギルドの横にある少し大きめの扉から奥にある豪華な部屋へと案内された。
王宮の部屋ほどではないが貴族が宿泊するような上品で快適そうだな。
女王様から貰った紹介状がこれ程までの影響力があるとは思ってもみなかった、さすが何事においても抜かりがない。
「船の出発は明日です。現在準備中でございますので出航前にお呼びいたします。外出など何か用がございましたら入口の受付にお伝えてください」
「わかりました、ありがとうございます」
受付嬢は礼をして入口へ戻っていった。
しかし、部屋でずっとのんびり過ごすだけだと暇だな。
時間があるので壊れた杖が修理できないか武器屋へ相談に出向いて見よう。
受付に武器屋の場所を聞いて、二人で向かう事にした。
それ程遠くない場所にあった武器屋へと入ると立派な髭と筋肉を蓄えた店主らしきドワーフが武器をハンマーで精錬していた。
作業に夢中な店主に修理の相談をするため、大声でカウンター越しに話しかける。
「すいません、武器の修理をお願いしたいんですが!」
声に気づいた店主がこちらを見て返事を返してきた。
「おう、すまないな。武器の修理だって?見せてみな」
「こちらなんですが…」
俺は長い事相棒として使っていた農耕具兼万能変形杖を見せてみた。
「何だこりゃ、農耕具か?それなら道具屋に行きな」
「いや、これ魔法の杖なんです。伝説の鍛冶師バルガスが作ったという」
「バルガスが作ったって!?本当かそれは」
「ええ、ガヴェリア国で譲り受けたので間違いないです。物凄い強力な魔法の杖で槍に変形する機能も持っている一品です」
バルガスの名を聞いて店主が驚いていたと言うことは相当な有名人なのだろう。
店主は虫眼鏡のような物を使い、武器を隅々まで観察して内部の構造などを調べている。
しばらくして若干難しい顔を見せながらこちらに伝えてきた。
「すまんがワシにはこの杖の修理はお手上げじゃ、構造が全く理解できん。こんな複雑な構造の杖は初めてみたぞ」
「そうですか、やはり鍛冶師バルガスを探すしかないですね」
「すまんな、役にたてなかったが一つ有用な情報をやろう。バルダーン大陸の南東にあるレイモンドという小さな街に物凄い腕の鍛冶屋がいるという噂だ」
「その人がバルガスの可能性があるのですか?」
「ドワーフは自分たちの仕事に誇りを持っており、自分が一番だと自負しておる。だが他人から称えられるような技術を持つ人物なら、尊敬に値する程の凄腕を持った職人だと言うことだ」
「なるほど…行ってみる価値はありそうですね、ありがとうございます!」
「おう、今度は武器を買ってくれよ」
武器屋を後にして街をしばらく散策した。
港町だけあって市場には海産物の類が一杯売られている。
この世界に来て魚介類食べたことがなかったので、お店を教えてもらい食堂で海産物を色々食べてみよう。
焼き魚に干物がメインだったがとても美味しかった。
国に帰っても海産物が食べられるよう流通網を考えよう。
──翌日
朝日が登り目を覚まして起きたところで静かに扉をノックする音が響いた。
受付嬢のリュミエルが船の出航準備が整ったという事で迎えに来てくれた。
港へ案内されると小型の豪華客船に匹敵するような二階建ての船が停泊していた。
異世界だから木造の帆船かと思っていたがどうやら鉄製のようだ。
鉄の船を浮かせる技術がここにはあるのか、そりゃ船代も高いのも納得できる。
彼女に連れられ船へと乗り込み宿泊用の部屋へと案内された。
狭いが
「船の旅程ですが十五~十六日程の帰還がかかります、食事の時間にはお呼び出ししますが、不要な場合にはご連絡ください。また船酔いが激しい場合には奥の個室で処理してください」
初めての船旅だけど船酔い対策も考えられてるのか。
そういえば魔法都市では移動に十四日とか言ってたようだけど少し期限が違うな。
念のため伸びている期限について聞いてみよう。
「リュミエルさんちょっとお尋ねしていいですか。旅程って十四日ではないんですか?」
「はい、通常であればその日程で正しいのですが、最近航路に『大海龍ヴォルアトス』が出現して船を襲う事があり、迂回路で向かうので時間がかかるのです」
大海龍ヴォルアトス?そんな海の龍がいるのか。
もし遭遇したら厄介だな、念のため一応詳細を聞いておくか。
「その大海龍ヴォルアトスってどんな龍なのでしょうか?」
「世界に存在する五大龍の一つで、本来は海の平穏を司る大人しい龍なのですが、ここ最近何故か船を襲う事が多く何か異変が起きているのかもしれません」
バルザードは気性が荒々しかったが大人しい性格の龍もいるのか。
ここ最近暴れているって、まさか俺達の帰還を阻む勢力の仕業とかじゃないだろうな。
一人だけなら戦うことも出来るが、沢山の人が乗ってる船の上では他の人を巻き込む可能性がある。
出来るだけ大海龍に遭遇しない事を祈ろう。
そんな事を考えていたら船がバルダーン大陸へと出発して長い船旅が始まった。
──出航翌日
船酔いが凄かった。
アトレシアも俺も初めての船旅で二人揃って激しい船酔いでグロッキー状態だった。
二人で待機室に籠っては横になっていた。
もう胃からは吐き出すものが全く無い状態だったが食事も喉が通らない。
とりあえず水だけ飲んで過ごしていた。
──出航から四日後
やっと二人とも船の揺れになれて船酔いも収まってきた。
食事も喉を通るようになり、ここ数日で落ちた体力を回復させていく。
しかし、二週間以上の船旅というのは長いな。
まだ出航して四分の一だが娯楽が何もないので看板に出て海を見るくらいしか無い。
船の揺れは結構あるが海の様子は非常に静かであった。
──出航から六日後
事件は起きた。
突然船員が大声で叫びだした『大海龍ヴォルアトス』が現れたと。
全員に緊急脱出小型艇で脱出の準備をするように促している。
俺はヴァルアトスと戦いを覚悟し上部甲板へと向かうのであった。
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