89. 四天王クロバイアの正体
深淵のダンジョンで突如として魔王軍四天王の一人暗滅のクロバイアを仲間にすることができた。
後ろでやりとりを見ていた二人はこちらの説得にて仲間になったのを不思議に思っているようだ。
「この方が本当に仲間になったんですか?」
「うん、一応元部下だし現状の魔王軍に不満持ってそうだったから、それに何だか悪い奴には見えなくてですね」
「しかし、魔王軍幹部が突然心変わりするとか罠の可能性も…」
「まあ、それはこれから魔族契約の儀式するから問題ないですよ」
とりあえず、これから共に戦うことになるので色々知っておくことがあるな。
まずはクロバイアの正体だ、どういった人物なのか知りたい。
「では、クロバイアくん。私の仲間になった事だしその兜を脱いで顔を見せてくれないかな?」
「我には肉体がない、他の四天王と違い過去に存在した自分の魂を鎧に定着されて生まれ変わったのだ」
「え?そうなの…体無いと不便じゃない?」
「多少不便ではあるが、敵と戦うには支障はない」
クロバイアは鎧と魂だけの存在だったのか。
戦ってはいないが何となく雰囲気だけで強さを感じ取れる。
最初に勇者セレネと遭遇した感覚に似ているからだ。
だったら、肉体を取り戻して更に自由に動けるようにしてあげたいな。
「鎧だけだと今後色々と不便だし、肉体に魂を憑依させようか?そうすれば新たな魔族として生まれ変わって活動出来るでしょ?」
「そんな事が出来るのですが、魔王様?」
「魔王様はやめてよ、既に返上してるんだし。今はパルテって名乗ってるんからそちらで呼んで」
「承知しました、パルテ様」
「それで新たな肉体に生まれ変わるのは問題ないかな?」
「私は既に死して鎧だけの存在ですが、受肉して新たに生まれ変われるというのであれば、受け入れたく思います」
「わかった、それでは魔族召喚の儀式で新たな肉体に魂を憑依させよう、肉体のベースは本人を元に作成するんだけど過去の肉体と同じで問題ない?」
「問題ありません、少し複雑な気分ではありますが…」
なんだろう、過去の肉体で複雑な気分って。
過去に何か嫌なことでもあったんだろうか。
でも、今までの魔族召喚ではリブラしか思いつかないし、このまま過去の自分と向き合ってもらうしか無いな。
「じゃあそこに立ってもらえる?今から魔族召喚を行うから」
「承知いたしました」
魔族召喚は他の人の肉体からの影響が出る可能性があるから、二人には下がっておいてもらうか。
「マチュアさんとカトレアさんは、少し離れておいて貰ってもいいですか?魔族召喚は近くにいる人の存在が影響する事もありますので」
「わかりました」
「いいわよ~」
こちらの要請に素直にしたがい二人は離れた場所に立つ。
魔族がこの地に来れているという事は、闇の力場がどこかにあるはずだ。
恐らくだが、新たな魔族召喚もここでは可能だろう。
「ではいくよ!魔族召喚…この者の過去の姿を投影して魂を定着させよ!」
俺の言葉で魔族召喚の魔法陣が出現して、クロバイアの全身が光に包まれた。魔法陣から溢れ出る闇の力が足元から鎧の中に流れ込んでいく。
予想通りだが闇の力が流れ込む量がかなり多い。
以前、魔族に生まれ変わった勇者セレネと近い雰囲気を感じる。
しばらくして実体化が完了したのか、魔法陣が消えた。
クロバイアは動き出し、自分の中に生まれた新たな魔族としての肉体を確かめているようだ。
「懐かしいこの感覚…肉体の実感があります」
「やっぱり肉体があるのと無いのじゃ違うでしょ?それじゃあ兜を脱いで顔を見せてもらえるかな」
「わかりました」
クロバイアは自身の兜に両手を掛けて静かに上へと持ち上げる。
兜が外れて眼の前に現れた人物の顔を見て俺も含め全員が大声で驚いた。
「クロバイアって女の人だったの!?」
凛々しい眉毛に吊り上がった凛々しい目元、綺麗で高い鼻筋に丸顔で流れるような金色の長髪を覗かせた勝ち気の表情を見せる人物。
マチュアに少し似たような雰囲気だがもう少し若さが見える女性騎士。
恐らくだけど二十歳前後で、そんな娘が四天王だったとは驚きだ。
「はい、元の私は女騎士です」
「でも口調は男っぽかったじゃない」
「あれは、四天王の威厳を出すために男っぽい振りをしていました」
なるほど、会話で見せたクロバイアは威厳を保つための演技か。
しかし、彼女の容姿は誰もが見ても紛うことなき可愛らしさもあり美人系に成長中の女性である。
現れた姿を見てカトレアさんのセンサーが反応したのかあっと言う間にクロバイアの真後ろに近づいて鎧の隙間から胸元に手を入れて誘いをかけ始める。
「あっら~、クロちゃん私好みの女じゃない。国に戻ったら私と夜を共にしてみない~?」
「クロちゃんって私の事か!?確かに四天王クロバイアだったが、本当の名前はそのような名ではない!というか胸を揉むな!」
「クロバイアって本当の名前じゃないんだ。それじゃあ過去に持っていた名前があるんでしょ、教えて貰えないか?」
俺の問いかけに対してクロバイアは目を反らした。
過去の自分に触れられたくないという事だろうか。
彼女は自身の名前を答えることを躊躇した。
「そ、それは言えない…」
マチュアは、口元に握りしめた右手を当てクロバイアをじっと見つめていた。
しばらく考えていて何かに気付いたのか、彼女の口からある人物の名前が告げられる。
「もしかして、貴方様は過去に滅んだリンガハ王国で絶対的な強さを誇っていた聖騎士アトライア様ではないですか?」
「マチュア知ってるのか!?」
驚きで某マンガの解説してくれる人に聞くような口調になってしまった。
彼女はクロバイアの正体について自身の記憶を元に説明してくれる。
「百年ほど前にたった一人で千人の敵国兵士相手に戦って退けた、若干十九歳で勇者級の強さを持つ人物がリンガハ王国に居たという伝説がありました。凛々しくて誰もが憧れた人物『聖騎士アトレイア・グロウハント』様と似ています」
「じゃあ、クロバイアの本名はアトライアなの?教えて」
彼女はしばらくの沈黙の後、静かに口を開いた。
「はい、私はアトライアです…」
「でも何で名前を言いたがらなかったの?何か理由があるんだろうけど…」
「そ、それは…その…あの」
「アトライア様が名前を隠したかった理由…何となくですがアレでしょうか」
「アレってなんですか?マチュアさん教えてください」
「絶対的な強さを持っていたアトライア様ですが、一番信頼していた部下の裏切りであっけなく命を落としたんですよ。その後戦いの切り札を失ったリンガハ王国は滅んでしまいそれに責任を感じているのかも…」
「あああっ!その汚点は思い出させないで!!」
なるほど、自分自身の失敗で王国が滅ぶきっかけになっってしまったのを負い目に感じていたのか。
でもそれなら、何故魔王軍に彼女の魂が運び込まれ四天王として生まれ変わったんだろう?
もしかするとその裏切り者が魔王軍か正教国家の手先で、国を滅ぼすために暗躍した可能性もあるな。
「アレは私がやった人生最大の汚点なんだ…思い出したくない」
アトレイアは膝を抱えて地面にうずくまり何だか落ち込んでいるようだ。
しかし、どうしようか彼女は過去の名前を望まないみたいだな。
「じゃあ名前どうしようか、アトライアの名で生まれ変わるのは望まないって事だよね?」
「はい、アトライアは死にました。もしよろしければパルテ様に新たな名前をいただけないでしょうか?」
新しい名前か…アトライアでも格好良くていい響きだけど本人が望まないなら考えるか。
出来れば響きが似た名前にした方がいいよな。
そういえば、四天王クロバイアとアトライアは名前の響きが似ているな。
同じ様な響きの名前で考えて…。
「そうだ『アトレシア』ってどう?過去の名前の響きに近く別人のような名前に聞こえる響きで考えてみた」
「アトレシア…良いですね!それではこれより『魔剣士アトレシア』パルテ様に仕えさせていただきます」
「うん、アトレシアこれからよろしくね。それじゃあ先に進みますか」
新たな仲間を得て進もうとした瞬間、突如として二人に止められた。
「ちょっとまって頂戴」
彼女が先に進むのを拒んだ理由はなんだ?これから新たな戦いの幕開けの予感がした。
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