86. 深淵の迷宮攻略 その1
強力な仲間となったマチュアさんとカトレアさん二人と組んで、俺は初めてのダンジョン『深淵の迷宮』へと挑戦を開始した。
入口から奥へと進みだし、カトレアさんが放つ照明魔法によってダンジョンでも明るく見える。
更に彼女は初のダンジョンに向けてこちらに心構えを伝えてきた。
「パルテちゃん、魔法職で初めてのダンジョン挑戦でしょ~?今から注意事項伝えるから覚えておいてね~」
「はい、わかりました」
「ダンジョン内では炎系と地形を使うような土系魔法は出来るだけ禁止ね~」
「それは何故ですか?」
「炎を燃焼させると空気が薄くなるからよ、狭いダンジョンで使うとみんな息できなくなって死んじゃうでしょ?あと土系魔法で地形を変えるとダンジョンが崩落して生き埋めになる可能性があるからよ~」
なるほど、ダンジョン攻略での作法というものか。
カトレアさんの言う通り確かに狭いダンジョン内で炎系魔法を使いまくってたら酸欠状態になって全員が死ぬ可能性もある。
土系魔法でダンジョン崩落の可能性があるというのも初めて知った。
彼女達は長年の冒険者達が積み上げた経験で攻略法を熟知しているんだろう。
ここは素直に従って使える魔法を吟味しよう。
「という事は氷、雷、風系統だけ使えばいいですね…」
「ちなみにパルテちゃん、どれくらいのランクの魔法がつかえるの~?」
「ランクですか?たしか…レベルランク9の魔法ですね」
「魔法レベルランク9!?」
マチュアさんとカトレアさんが二人揃って大声で驚きの声をあげる。
「ちなみにランク9魔法をどれくらいの回数撃てるんですか?」
「回数ですが?正確に数えたことは無いですが二十回以上は使っても魔力は尽きなかったですね」
「パルテちゃん、冗談かと思ってたけど本当にヤバイ魔王だったのね…」
「それは、どういう事ですか?」
「レベルランク9の魔法なんて普通の人間じゃまず使えないのよ、消費魔力が多きすぎて発動すら出来ないの、それを何十回も使えるなんてバケモノみたいな魔力もってるって事よ」
そういえば以前にマルガリータが言っていたな。
彼女は平然と話してたが勇者と共に戦ってたから感覚がマヒしていたのだろうか、これが普通の反応なんだと思った。
魔王に転生して何気なく使っていた魔法だけど、冒険者からしたら相当な魔力を潜在的に持っているという事なのか。
「ちなみにカトレアさんはどれくらいの魔法が使えるんでしょうか?」
「アタシは、レベルランク8よ~」
「え?それって私と変わらないんじゃ…」
「ランク8と9では消費魔力が倍になるのよ、だからヤバイって言ったのよ」
「カトレアさんは、魔法都市国家では最高レベルの治癒魔術師なんですよ。それに加えて格闘系の戦闘も出来る変態です」
「ちょっと変態はないでしょ~?強い女の方が惹かれるでしょ」
やっぱりそうだったのか。
カトレアさんの体に触れた時、筋肉質な感じだったので前衛も出来ると思っていたが予想は当たっていた。
しかしヒーラーと前衛も出来るってある意味最強じゃないか?
戦いながら傷ついても自分の治療出来るし、魔法が続く限りずっと戦えるじゃないか。
などと考えていたらマチュアさんが右手を差し出し全員を止める。
前方の影から全身白い装束を着た謎の集団がぞろぞろと現れたのだ。
聖職者みたいな衣装で顔も完全に隠し視界も見えないフードを被っている。
なんだこの感じ…まるで生気を感じない。
生きているけど、アンデッドみたいな雰囲気の不自然な人間たち、なんだコイツラは?
「正教国家の下僕たちか、雑魚だが数が多いな」
マチュアさんは背中の剣に触れ何かの金具を外と、両手剣の装飾だと思っていた部分から片手剣が現れ、右腕で振り下ろす。
なるほど、狭いダンジョンで両手剣を使うのは危険だと判断して、片手剣に切り替えたのか。
「殿を務めます、後に続いてください」
こちらにそう伝えてマチュアさんは前方に駆け出し、眼の前の白装束軍団を一刀両断していく。
相手も全力で魔法攻撃を繰り出してくるが、彼女は全く意に介さず余裕で交わしながら相手の数を次々と減らしていっている。
快進撃を続ける彼女の後方から並走して先へ進んでいく。
時折こちらに飛んでくる魔法はマチュアさんが防御魔法で軽々と消し去るため俺は全くと言っていいほど出番がない。
倒された正教国家の下僕と呼ばれる死体を見て驚いた。
体の中身が真っ白で内蔵も何もない肉体、まるで蝋人形だ。
正教国家ではこんなのに意思を持たせて操っているのか。
しばらくすると敵の攻撃が収まり、正教国家の下僕と呼ばれていた敵の存在がマチュアさんの手によって全て葬られていた。
あれだけ戦闘したのに、少し呼吸が荒い程度で彼女の表情からは疲れが見えていない。
「念のため体力回復魔法使うわね~『祝福の治癒』っと」
マチュアさんの体が大きい癒しの光に包まれ、荒かった呼吸が落ち着いた。
治癒系には体力回復というのもあるのか、これは便利だな。
「カトレアさんありがとう」
「どういたしましてよ、この後に強敵現れそうだから念のためね~」
戦闘が落ち着いたところで二人に気になることを聞いてみた。
「この正教国家の下僕って一体何者なんでしょうか?まるで蝋人形みたいな体をしていますが」
俺の疑問に対してカトレアさんが正体について説明してくれる。
「こいつらは、天使の複製体よ」
「天使の複製体?正教国家は天使を複製したものを使役しているのでしょうか」
「う~ん、簡単に言うと天使の器となる入れ物に魔力回路を組み込んで命令で動く人形にしていると言えばわかりやすいかしら?」
天使の器となる入れ物、魔力回路、どういう事だ?
天使や堕天使って他社の体に乗り移る力を持っていた。
実はそれ以外にも憑依できる器を用意して、この世界で実体化するための術があると言う事だろうか?
「よくわからないのですが、何故天使たちはそんな器を用意してるんでしょうか?」
「器に憑依した天使は、堕天使と呼ばれるのよ。だから天使も堕天使も中身は同じものなのよ~」
堕天使の中身が器に憑依した天使?どういう事だ。
つまり堕天使の中身は天使で、天使たちが魔王軍と正教国家を操ってこの世界で何かを行っていたって事なのか。
ライラは正教国家司教が堕天使と魔王軍を操り信仰の力を貯めて神の力を手に入れると言っていたが辻褄が合わない。
彼女が俺に教えた内容が嘘だったという事か?
「カトレアさん、ちょっと聞いてもいいですが?」
「なにかしら?」
「私は正教国家の司教が神の力を手に入れるため魔王軍と堕天使を使い人々を苦しめていると聞きました。その話は正しいですか?」
「誰からそんな話を聞いたの?」
「私の国にいた仲間からです。今の話と辻褄が合わないところがあって確かめたいのです」
カトレアさんは、首元に指を当てながらマチュアさんの顔を見つめている。
突如として二人はこちらにわからないアルカナ語で会話を始めた。
「オツィドラグゲドロプアルヤク、オデグロプシバアルイルプ、イロラプサツヤルイムウチ?(アビスゲートとゲートキーパーの話しは伝えていいの?)」
「イルヌクウロラプエン、オレグナエドアタルピナム、サツェイルエクエルベ サツェ(もしかすると天使に操られてる可能性があります、話さないで)」
二人が何を話しているのかわからない。
ただ少し深刻な表情でこちらを見ながら何か重要な話をしているようだ。
「ちょっと今の話聞いた後だと、細かい話は出来ないわね~」
「何故ですか?今まで色々教えてくれたのに」
「こちらにも色々あるのよね、とりあえず最深部まで行って神滅の秘宝に触れて審判を受けた後なら教えてあげるわ~」
二人の態度が、魔王軍と正教国家の話を告げた事で巌しくなった気がする。
こちらが伝えたことに何かマズイ内容があったのだろうか。
もしかしてライラが教えてくれた事が天使の話だと気づかれた?
でも、そうなら誤解を解かなければこの後の戦いにも影響が出そうだ。
どうすればよいだろう…そうだ昔見たアニメで言っていた言葉だ、二人を裏切らない覚悟を示せばいい。
「わかりました、何かマズイ事を私が言ったんですね。もし私が二人を裏切るような事があったら背中から容赦なく撃ってください」
二人は顔を見合わせて俺の顔を真剣に見つめる。
マチュアさんがこちらの覚悟について問いかけてきた。
「何故、そのような事を言うのですか?」
「実は、私はこの世界の理を知らないのです。先程話した内容も他の人から聞いただけなので真実かどうかもわからない。だからもしその事で信頼が失われたのなら二人に撃たれるくらいの覚悟を示す必要があると思ったからです」
「でも、言葉だけで信頼を回復出来るとお思いですか?」
「確かにそうですね…でも、短い間ですけど一緒に冒険して私はお二人を信頼していますし、大好きな人達ですよ」
大好きと言う言葉に反応してカトレアさんが二人の会話に突如割り込んできた、
「え?じゃあこの件が終わって国に戻ったら、私たちに抱かれても良いってことぉ~?」
「あ、それはお断りします」
「なんでよ~、本当にもう身持ちが固いんだから!」
「それはそれ、これはこれですよ。さあ先に進みましょう」
こちらが二人に撃たれる覚悟を示した会話で笑顔が戻り蟠りが少し溶けた気がした。
皆で目的であるダンジョンの最深部まで進む事にした。
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