80. 魔法都市国家の裁判
俺は謎の転送装置でグランディッド大陸という、見知らぬ土地に飛ばされた。
地球の世界地図で言えばイギリスとオーストラリア位の距離を転送させられた感じだ。
言葉も通じない場所で突然国家調査官ボルダックという人物が現れて、俺は裁判に掛けられると聞きとても困惑している。
裁判の話を告げられてからは食事は毒も入れられず普通に提供された。
それから三日程経過した後に、ボルダックが再訪し裁判の開始を告げられる。
「貴方の裁判を本日執り行う、大人しくついてきてくれるかね?」
「どのような裁判かは告げられないのですか?」
「先日話したとおりだよ、聖なる祠への無断侵入と防御扉の破損について罪を問われる」
「わかりました、大人しく従います」
牢屋の鍵が外されボルダックと護衛の兵士と共に外へ出ると、大量の騎士たちが左右に列をなして通路で待ち構えていた。
その中に先日食料を持ってきて助けてくれた、リックの姿を見つけた。
彼は先日の明るい表情ではなく、何故か顔全体が膨れ上がり傷だらけになっている。
彼は誰かに何度も殴られたような姿で何となく察した。
恐らく俺に隠れて食料を持ってきたのを誰かに見つかったんだ。
その事について咎められて仲間に折檻でもされたのだろう。
毒入りの食料を持ってきた人間たちは処分されずに、なぜ彼が傷だらけにならなくてはいけないんだ。
理不尽な扱いを受けた人物を見て思った俺は、彼の元へ走り出した。
周りの騎士たちが慌てて静止しようとするが、そんな物はお構いなしだ。
リックの側にやってきた俺は、彼の顔に手を触れてヒルダに習っていた低級回復魔法を使い腫れ上がった傷を癒やす。
「元体治癒」
治癒魔法で彼の顔は徐々に復元していき、傷跡が消えていく。
治療を続けて完全に元の状態に復元できた所で感謝の気持ちを伝えてあげた。
「この前食べ物をくれたお礼ですよ」
言葉は伝わっていないだろうが、心意気は伝わったであろう。
彼は以前と同じ様にこちらに笑顔を見せてくれた。
魔族が治癒魔法を使ったのを見て騎士たちに動揺が広がるが、目的を達成した俺は、先ほど連行していた騎士たちに元へ戻る。
「さあ、連れていってください」
「わかった、参考までに何故今の行為をしたのか教えてもらえないか?」
「彼は私が毒入りの食事を拒否した時に、隠れて食べ物を持って来てくれました。恐らくそれが他の騎士たちに見つかり折檻を受けたんでしょう」
「なるほど、だから彼を治療したと」
「彼は正当な捕虜の扱いを行った正しい人物ではないでしょうか?その人が理不尽な扱いを受けたら放ってはおけない。咎められるべきなのは毒入りの食事を持ってきたそこの騎士たちでしょう!?」
俺は先日毒入りの食事を持ってきた二人の騎士に対して指を差し大声で叫ぶ。
指で差された騎士たちは怒りの表情を見せて大声で叫び手に持った槍を構えて攻撃してきそうな勢いだ。
だが、周りの騎士たちに腕を捕まれ静止されて踏みとどまった。
「わかった、この件は私の方で預かろう」
長い廊下を歩きながらボルダックがこちらに彼らの行為について話し出す。
「彼らがあのような行動をおこなった理由は明白だ。彼らは家族を魔族によって殺された人達なのだ、だから魔族の貴方を見て復讐の意味も込めてあのような行為にいたったのであろう」
「魔族に家族を殺されたのか…確かにそれならば憎しみを向けるのはわからないでもない。でもそれならば人間だって理不尽に人を殺すこともあるじゃないか、魔族だから全て殺すと言うのは間違いではないですか?」
「その言葉も確かに真実ではある、だがな圧倒的な力で理不尽に家族を殺された者たちの恨みはそう簡単には晴れるものではないのだよ」
この世界で魔王になって魔族が人を殺める理由に対して考えていなかった。
堕天使も含め、魔族が人を攻撃する理由は正教国家が原因というのはわかる。
でも、信仰のためだけなら人を殺める必要は無い。
ガンギルダでやっていたような殺さず苦しめるような方法が一番信仰心を高めるのではないのだろうか。
物凄く長い通路を抜け表に出ると外の景色が見える中庭に出た。
空を見上げると何か薄くて白く光る結界のようなものが貼られている。
それを察したのかボルダックが説明してくれた。
「この都市には魔族がこの中に入ってこれないように強力な退魔結界が貼られている。魔族である貴方もここから出ることは叶わない事を知っておくといい」
退魔結界か、余り分厚くないから杖の力を使えば簡単に壊せそうだな。
あの武器は見た目ただの農具としてしか見えないから、普通に兵士が持ってきている。
ここから強制脱出する際の最終手段として考えておこう。
裁判所のような場所に到着し被告人席のような中心部に柵で囲まれた場所へ誘導されその場に立つ。
眼の前にいるのは恐らく裁判長と思われるメガネをかけて白髪白髪で年配の老人と五十代前後の濃い茶髪と白髪交じりの男性二人を加えた三人の裁判官のようだ。
周囲は高い位置で傍聴席のような物が用意されており沢山の民衆がこの裁判の結果を見守っているようだが、何だか非常に殺気立っている。
「オトネグノメド、 アルエド『パルテ』ノグジョンアル、ソラフインヌン」
中心にいる裁判長のような人物が言葉を放ち、ボルダックが喋った内容を俺に伝えてくれた。
「これから魔族パルテの裁判を行います。私が同時翻訳するので質問にそのままお応えください」
「わかりました」
「まず、質問ですが何故貴方は聖なる祠に入ったのが詳しく聞かせてください」
「私はバルダーン大陸の小さな街にあった祠を調査していたところ、突然光に包まれて、この地の同じ場所に飛ばされてきました。中から外に出ようと扉に触れたのですが開かなかったため、魔法の力で破壊しました」
「なるほど、破壊は不可抗力と?」
「はい、そのとおりです」
「では、次に何故貴方は魔族でありながら、無抵抗のまま捕まったのですか?」
「私は争いを好みません。もし私が力を行使すれば捕まえに来た騎士たちを死なせる可能性もあったため、無抵抗の意志を伝え素直に従いました」
「貴方が争いを好まないというのは本当でしょうか」
「はい、私が暮らしていた街では人間、エルフ、ドワーフ族と共に平和に共存して過ごしておりました」
ボルダックが俺の言葉を全員に伝えて周囲が動揺している。
恐らく魔族は忌むべきものとでも全員が考えているのであろう。
そのような存在が平和に暮らしていることで、困惑しているのかもしれない。
「では、次に貴方はこの国に魔族の侵入を許可されていない事をご存知ですか?
「いえ、知りませんでした」
「わかりました、では裁判結果までお待ち下さい」
裁判と言うのに随分とあっさりとしたやり取りだった。
日本とかなら弁護士とか検察官で証拠や証言等で戦いを繰り広げそうなものだが、向こうの質問と答えだけで結審するのか。
裁判長と二人の裁判官がこちらの会話の内容を聞いて何かを話し合っている。
長さにして十分程度だろうか話し合いを行い結果が出たようで、罪状について
告げられる。
「被告人パルテよ、貴殿は魔族が都市国家へ入り込み、聖なる祠へ許可なく立ち入った侵入罪、そして保護していた封印の扉を破壊した行為。これは許されるものではない」
裁判長は一息置いてから俺の罪状について大きな声で告げた。
「よって貴殿の罪状は『死罪』である!」
傍聴席で観覧していた一般民衆からは大きな歓声が沸き上がり拍手が送られる。
俺は突然飛ばされた異国の地でいきなり死刑を宣告されたのであった。
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