79. ひとりぼっちの魔王様
俺が転移装置で謎の場所に飛ばされて一日が経過した。
とりあえず、思念通話が届かないかパルテセスの全員に念波を送ったが誰も返事が返ってこない。
恐らく相当遠い場所にいるのだろう…しかし一体ここはどこなんだろう。
言葉も通じないし、看守も別の場所にある入口付近にいてこちらの様子を時折隙間から見るくらいだ。
それにしてもお腹が空いてきた、昨日から何も食べていないからだ。
こういった時、素直に捕まった捕虜には何か食料でも出さないのだろうか。
そう思って居た時、入口の扉が開き誰かが中に入ってくた。
俺をここに連れてきた騎士たちの数名がこちらに食料を持ってきてくれた。
牢の下にある隙間を開いて食べ物を牢の中に入れてきた。
トレーの上に乗っていたのは小さめのパンと何かのスープのようだ。
「ウグナム」
食べろとでも言っているのだろうか。
腹が減っているので直ぐにでも食べたいところだが、先日の遭遇からこちらはあまり歓迎されてない雰囲気を感じていた。
そんな状態で出された食べ物を直ぐに口にするわけにはいかない。
ヒルダから習っていた、毒物反応魔法を念の為使ってみよう。
「毒物視覚」
魔法を使うと毒物反応ありだった。
やはりそうか、何が入っているか不明だが毒がある状態では食べられない。
俺は、食べ物を入れてきた扉から先程の差し入れを外に出して牢の鉄格子を掴んで少し強めの言葉を使い大声で叫ぶ。
「この国は捕虜に毒入りの食べ物を食べさせるのか!?ちゃんとした食べ物を持って来いよ!」
眼の前の騎士たちは、俺が叫んだことで非常に驚いているようだ。
こちらが毒入りの食べ物を見分けて差し返したので。恐らく毒物は通用しないと思ったのであろう。
食事入りのトレーを手に持って急いで騎士は大急ぎで扉へと返っていった。
余計なカロリーを使ったので更に疲れて空腹が気になってきた。
「ああ、お腹すいたなあ…何か食べ物があれば…」
このまま兵糧攻めされたら辛いなあ、
とりあえず寝て誤魔化そうと思い固いベットの上で横になり考える、
もしこのまま何も出されないなら脱獄でも考えようかな…そう思っていた時、入口の扉が開き誰かが静かに入ってくる。
入ってきたのはまだ若々しい少年兵の様な雰囲気を漂わせている騎士だった。
彼は誰にも見つからないように気をつけながらこちらの牢に近づいて何かを差し出す。
「ノイチイチ、ウグナム」
彼の手にあったのは二つのパンとコップ一杯の水であった。
牢屋の隙間からこちらに手を伸ばして両手に握ったものを渡そうとしてくれている。
俺は、パンと水を受取り念の為魔法で毒物反応を見てみるが無反応だった。
お腹が空いていたのでとりあえず貰ったパンを急いで食べて空腹を満たす。
その様子を見て少年は満足そうな表情を見せてくれた。
どこの誰かわからないけど、とりあえず助かった。
眼の前に彼に飛び切りの笑顔を見せてお礼を伝えて感謝の意味を伝えよう。
「ありがとう、助かったよ」
言葉は通じていないだろうが感謝の言葉は伝わったようだ。
彼も笑顔でこちらを見てきてくれ、何かを伝えようとして言葉を発する。
「リック」
彼の名前だろうか、少年兵とは言えとても人柄のよい人物のようだ。
それならばこちらも彼の心意気に答えなくてはならない。
俺は自分の胸に手を当てて、彼に自身の名前を伝えた。
「パルテ」
眼の前の彼はこちらの名前を聞いて、言葉を反芻してきた。
「パルテ?」
俺はその言葉に静かに頷いた。
そした返すように相手にもう一度礼を言う。
「リック、食べ物をありがとう」
こちらの言葉はわからないだろうが、自分の名前は伝わった。
彼はとびきりの笑顔を見せながら、扉の入口へ向かい返っていった。
しかし、あの少年兵は何故こんな危険な行為を行ったんだろう。
もしかすると騎士たちが毒入りの食事を出して食べなかったのをみて、こっそりと食料を持ってきてくれたのだろうか。
ありがたい心遣いだが、誰かに見つかって罪に問われないだろうか。
こちらも助かったのは確かだが、同時に彼の身に何も起きないよう案じながらその日は眠りに付いた。
──翌日
何もやることがなく、牢屋の中で横になって眠っていると誰かが入ってきた。
見た感じ年齢は五十代前後で着用している衣服から身分が高そうな、白髪に近い茶色の髪で貴族風の渋い顔をした男性だった。
彼は牢屋にいる俺を見て話しかけてきた。
「私の言葉はわかりますか?」
話しかけてきた彼の言葉を聞いて驚いて牢屋の側に行き俺は大声で叫んだ。
「わかります!どなたか知りませんが助けてください!」
こちらの言葉を聞いた相手は若干困惑気味にこちらへ更に問いかけてくる。
「落ち着いて、まずは貴方の名前を教えて下さい」
「私の名前は、パルテと言います」
「パルテさんですが、私は国家調査官ボルダックと言います。あなたは、何故この場所に来たのか教えて貰えますか」
「私は、ある場所で石碑を調査していたら光に包まれて突然この場所にある祠に転移してきたのです。地下から脱出しようと外に出るため扉を開こうとしたのですが、開かなかったので壊したのは許していただきたい」
「では、次に重要な事を伺います。あなたは魔族なのですか?それもかなりの強さを持った人物だと思いますが如何ですか」
いきなり核心を付いてきた。
最初に騎士たちに囲まれて厳戒態勢だったのは、こちらが普通の人間じゃないと認識していたからだろう。だとすると誤魔化すのは恐らく悪手だ。
ただ、魔王である事を正直に話すと即戦いになりかねない。
少し濁した感じでこれまでの事を正直に話そう。
「はい、私は魔族です。以前は魔王軍の幹部でした。」
「魔族は人を殺すことを躊躇しない恐ろしい種族なのに、何故貴方は素直に捕まったのですか?」
「私は争いを好みません、それだけです」
「何故ですか?」
「ご認識のとおり魔王軍は人を殺すことを躊躇しない種族です。ですが私は魔王軍の行いに嫌気が差して逃げ出して来ました。そして辺境の村で人々と静かに暮らしてたのです」
相手は俺の言葉を聞いて若干困惑しているようだ。
まあ、魔王軍の要人が人間と平和に暮らしているという言葉を聞いてそう簡単に信じらないのも無理じゃない。
「では、私の質問にも答えていただけないでしょうか」
「質問、なんでしょうか?」
「ここは一体どこなのでしょうか」
「ここは魔法都市国家アルカナアークです」
「魔法都市国家…?そんな場所を聞いたことないのですが、もしかすると別の大陸だったりするのでしょうか」
「ここは、グランディッド大陸の南方にある国です」
グランディッド大陸?確か魔王の記憶では、俺が居た大きな大陸がバルダーンで、そこからかなり離れた南方にある海に囲まれた小さい大陸じゃないか。
そんなに遠くまで飛ばされたんだ。
「お願いです!私はバルダーン大陸からこちらに飛ばされてきました。できれば元の場所に帰りたいんです。力を貸していただけないでしょうか?」
「それは出来ない、貴方は裁判にかけられる」
「裁判?どういうことですか?」
「我らの神聖な祠に無断で立ち入った事、扉を破壊しこの国に危機をもたらしたことが罪となります」
「なんですって、こちらに転移してきたのは先程行った通りじゃないですか!?」
「ですが、私には決められません。数日後にまたお会いしましょう」
ボルダックが席を離れ立ち去ろうとした時に、昨日起きた出来事について真実を問いただそうとした。
「立ち去る前に最後の質問を聞いて下さい。こちらの国では捕虜に毒物を食べさせて命を奪うんですか?」
「どういう事でしょう?」
「昨日、私に出された食事に毒が混入していました。私は毒物を感知できる魔法が使えるので事なきを得ましたが、もし国家間での捕虜条約等があれば大問題だと思われますが如何ですか」
「わかりました、その件については調査いたしましょう」
こうして俺は突然別大陸に飛ばされた上で、裁判にかけられることになった。
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月曜日は投稿お休みです。




