70. ガンギルダ戴冠式とこれから
ガンギルダ新国王の戴冠式を翌日に控え、俺たちは前日に王都へ到着した。
事前に手配してもらっていた宿の部屋へ荷物を置き、あとは式典に向けての準備を進めるだけだ。
とはいえ、こちらで用意できることは意外と少なかった。
クラリスの話によれば、姫様が装飾品から衣装、さらにはメイク担当の使用人まで、必要なものをほとんど手配してくれていたらしい。
俺たちが気づきもしなかった細かい部分まで、すでに抜かりなく整えられている。
まるで、こちらが慌てる隙すら与えないような、そんな完璧さだった。
やはり大きなイベントの前だからだろうか、どこか落ち着かない。
大きな行事の前というのは、どうしてこうも時間の流れが変わって見えるのだろう。
──翌日
戴冠式当日、民衆への演説を行う壇上に通された俺達は何故か注目を浴びていた。
なんとなくだが理由はわかる、自分で言うのも何だが年配の王族に混じり若々しい美少女三人が揃って式典にいるのだ。
一体何者だと思われるのも仕方がないことだろう。
指定された席に座り、全員が揃ったところで式典が始まった。
王子──いや、もうすぐ“国王”になる彼は、ゆっくりと歩みを進めていた。
彼の表情からは緊張しているようには見えない。
新国王となる威厳を既に民衆へ示している。
前国王より王子に王冠を掲げる。
金細工の縁が光を受けて、淡く揺れた。
「……ガンギルダ王国、新たなる王の誕生をここに宣言する」
その言葉が落ちた瞬間、空気がわずかに震えた。
誰かが小さく拍手を始め、それが波紋のように広がっていく。
王子は、ゆっくりと民衆の前に近寄り手を挙げた。
その動作は、威厳というより、まだ若々しい力を帯びている。
「皆の者──これまでの尽力に感謝する。
ガンギルダは、様々な問題に直面し、まだ再建の途上にある。
だが、今日から私は、この国の未来を共に歩む者として、皆と力を合わせていきたい」
周囲に響き渡るように大きな声で述べた言葉は、不思議とよく通った。
その言葉に、民衆たちの表情が少しだけ柔らかくなる。
「我らが新国王に、栄光あれ!」
「新国王誕生バンザイ!!」
誰かが叫び、続いて大きな歓声が玉国中を満たした。
王子はその中心で、民衆に向けて手を振り堂々と笑顔をみせた。
そして、ガンギルダ王国の戴冠式はつつがなく終わった。
残りは国賓を招いての懇談会だけなので、こちらは会場で立っているだけで済むだろう。
懇談会の会場に移動したら見知った顔の人物を見かけた。
あれは、ドワーフ国の七賢人『政治のボーマン』だ。
姿が変わってから顔を合わせていないので挨拶だけでも交わしておこう。
「ボーマン様、お久しゅうございます」
「はて、どちら様でしたかな?初対面のような…」
「私です、ドイラム村のパルテです」
「おお、お主がそうであったか、話には聞いていたが随分と容姿が変わりましたな」
「はい、まさか女性になるとは思ってもいなかったので…貴国のルコット殿にご助力いただいて、非常に感謝しております」
「いや、こちらこそ。国を救って貰った恩義にまだまだ報いていないと思いますぞ」
「近いうちにご挨拶にまいりますので、その際に交易や今後に付いてお話させていただきたいと存じます」
「わかりました、お待ちしておりますぞ」
硬く握手を交わしてボーマンと再会の約束を取り付けた。
しばらくすると、周囲にざわめきが広がる。
衣装を変えた王子もとい新国王が懇談会の会場に現れたようで、各国の重鎮や貴族が彼の元へ集まり挨拶や会話を行っている。
こちらに気づいた王子は、他の方たちをより優先して俺の元へ近づいて来た。
ここは彼のお祝いの場だ、先に祝意を表するのが礼儀であろう。
「王子…いや国王、即位おめでとうございます」
「ありがとうございます、パルテ殿。貴方の活躍でここまで来ることが出来ました、明日に話し合いの場を持ちたいので、お時間をいただけないだろうか?」
「わかりました、明日ご都合のよい時間にご連絡いただければ向かわせていただきます」
彼との握手を交わし、元の場所へと戻っていく。
続いて姫様が俺の元へ近づいて来てくれたので、挨拶とお礼を告げる。
「姫様、諸々お手配いただきありがとうございます」
「パルテ様は、このような場へのお呼び出しは初めてかと思い、差し出がましいようですが、手配させていただきましたわ」
「いえ、本当にこのような場へ赴くことは初めてでお気遣い感謝いたします」
「こちらこそ、貴方様には感謝しかございません、国の危機を救っていただき久しぶりにお父様とお兄様が揃い、家族仲睦まじく過ごすことができました」
「それは、喜ばしいことです。是非今後とも良い関係を築きたいと考えております」
「はい、お話は尽きませんが、他国よりお越しの方々にもご挨拶を差し上げねばなりません。私はこれにて失礼いたします」
「はい、続きはまた、宵が深まりました頃に。どうぞ、お気兼ねなく」
姫様と別れ、当面のご挨拶は済んだので宿屋に向かうことにした。
流石に慣れない儀式と王族に対する言葉選びで疲れてしまい、横になって休みたい。
宿屋に戻ってきた俺達は三人で食事や風呂を済ませ早めに就寝する事にした。
──翌日
昨日の疲れも抜け、朝日の眩しさで起き上がったところ、扉をノックする音が聞こえた。
現れたのは、近衛騎士団のクラリスであった、王子からの呼び出しで迎えに来たと言うことでリブラとライラはまだ寝ていたので留守番として残し、こちらは速攻で着替えて王城へと向かおう。
街中を歩いていると、以前と比べて人々の活気が全く違う。
新国王態勢に期待が高まり、皆が元気に商いや生活向上に励んでいる様子だ。
──王城内謁見室
謁見室には新国王が鎮座していた、昨日も面会したが一応正式な場での挨拶のため、礼儀正しく接しよう。
貴族や配下の人たちが行うように片膝を着き王子に来訪の挨拶を告げる。
「国王、要請により参上いたしました」
「パルテ殿、そんなに畏まらなくていいですよ、どうぞ普通にお立ちください」
「はい、ありがとうございます。それでお呼びいただいた理由についてお伺いできますでしょうか」
「ドイラム村の正式譲渡に関する調印書をご用意しました、こちらに貴方のサインをご記入いただけるかな」
新国王の隣りにいた人物が調印書の書類と記入台を持って来てくれた。
渡された書類に自分のサインを記入した後に国王へと書類を渡し、加えてサインを行う。
「これで、ドイラム村と周辺は貴方の領土として割譲いたしました」
「はい、正式なお手続きいただきありがとうございます」
「ひとつお聞きしたい、これから貴方はドイラム村をどのように導いて行くおつもりでしょうか?」
「新しい国名は、パルテセスと名をつけました。私達の当面の目標は精霊ドリアードと協力してアルタイルの大森林の復興と、現在生産している農産物の増産や新種の育成、また畜産を含め交易を拡大し外貨を稼いで国をよりよく住める地域に変革していこうと考えております」
「なるほど、当面は外貨収入を得るためと、そんなに村の状態は逼迫しているのですか」
「お恥ずかしながら戴冠式に出席する礼服とドレスの仕立てで貯金の殆どを無くすほどです」
新国王は、こちらの言葉を聞いて何か考えている。
そこから出てきたのは驚きの内容だった。
「それならば、我が国からパルテセス拡大のため、資金を借款いたしましょう。当面金貨一万枚程をご用意させていただきます」
金貨一万枚!?えーと…ライラがいってた年収から換算して数億円規模の貸し出すってこと?そんなに借りてもお金返せないぞ。
「国王様!そんな大金をお借りしても、こちらではご返却出来ません」
「借款と言っても返済期限は無期限、無利子でお渡しします。これは両国間で不可侵等の平和的条約と対魔王軍共同戦線含めてのお約束として交換条件です」
「それはありがたいですが…そんな金額をいただいても保管する場所もないですし、盗まれでもしたら大変です」
「では、我が国の国庫でお預かりしますので、必要に応じて引き出してください。金貨一万で貴方の防衛力を手に入れると思えば安いものだ」
「わかりました、お気遣いいただきありがとうございます」
新国王との話し合いも終わり、パルテセスが新たな国として認められた。
これから村に戻り、新しい国について皆と話し合おうと決めた。
GW期間中も更新予定です。




