57. リブラ絶体絶命の危機
──パルテ視点
突如として現れた魔王軍統括のシエルを圧倒的な力で撃退したライラ。
彼女の正体は今の姿から紛れもない天使だというのはハッキリと解った。
ライラに聞きたいことは山程あった、天使なのになぜ魔王である俺の味方をするのか。
自分に対して好意を向けてくれるのか、解らない事だらけだ。
「ライラちょっといいか?」
「解っています…聞きたいことがあるんでしょう…でも今は先に目的を果たしましょう、なんだか嫌な予感がします」
「嫌な予感ってなんだ?」
「わかりません、でも何故だか急がないといけない気がするのです」
「わかったよ、帰ったら二人だけでみっちり話し合うからな」
「私の知識と情報にある制約が掛かっていて全てはお伝えできませんが、解ってる範囲ではお話しますよ」
二人で雑談をしながら儀式場奥で以前皇女様が囚われていた場所に到着した。
彼女が寝ていた場所には巨大で黒く光る不気味な結晶体が置かれていた。
「これは暗黒結晶…こんなものまで作っていたとは」
「暗黒結晶とはなんだい?」
「これは世界に蔓延する闇の力を凝縮させて結晶体にしたもの…相当長い年月を掛けて作られたものだと思います、なるほど闇の力を繋ぐ手段としては有効なアイテムですね」
「魔王軍がこれを作ったのか?魔王の記憶にはない情報だが…」
「これは魔王軍創設以前から作られた可能性があります、恐らく堕天使が作り上げて持っていた物でしょう…」
「堕天使は、一体何が目的なんだ?闇の力を集めて闇の道を作ることか?」
「それを語るにはまだ情報が足りません、闇の道だけでは無く、もっと大きな目的への布石だと思います。予想できる物は魔王城には存在しなかったはず…やはり正教国家を詳しく調査するしかないですね…」
「目的のもの?それは何だ?」
「話すと長くなるので、まずは当面の目的を終わらせましょう。この場所の力場を破壊して闇の道が構築できないようにします」
「俺に出来ることはあるか?」
「パルテ様は敵の襲撃を警戒してください」
「わかった、周囲を見回しているよ」
「まずは、ソウルクリスタルに閉じ込められた人々の魂を解放して闇の力が蓄積する仕組みを破壊しましょう」
ライラは片膝を付き両手を眼の前で重ねまるで神に祈りを捧げるように目を閉じる。
静かに彼女の羽が大きく開き、まるで全ての人達を包み込むように慈愛に満ちた声で静かに告げる。
「万物の源なる神よ、ここに眠る数多の命の灯火を献じます。苦しみより解放し、慈しみの座へと迎え入れたまえ」
ライラの言葉により壁に埋め込まれていたソウルクリスタルより赤く光輝く球体が飛び出す。
飛翔した光は宙を舞いながら静かに天高く飛び立って行き全てが見えなくなっていった。
先程まで赤く輝いていたソウルクリスタルは光を失い、ただの黒い石へと変貌して力を失い地面へと崩れ落ちていく。
彷徨える魂を天に送る彼女の姿に俺は見取れてしまった。
とても落ち着き安らぎを感じる声。本当に天使なんだなと再認識してその身に感じる。
祈りを捧げていたライラは、静かに立ち上がってこちらに笑顔を見せて安堵を見せた。
「襲撃は何もなかったですね、先程のシエルが切り札だったのかもしれません。それでは戻りますか」
「え、この暗黒結晶このままでいいのか?」
「はい、パルテ様に最後ドカーンとやってもらいますので大丈夫です」
俺達は二人揃って儀式場の階段を登り入口まで戻り着く。
敵も待ち構えていなく扉を開き表に出て、外を見回したがルコットとリブラはいない。
どうしたのかと考えていたところ、ルコットがリブラを背負った状態で全力で走りながら物凄い勢いで俺達に向かって大声で叫ぶ。
「パルテ様!リブラさんが…私の身代わりにフォルマールが放った死の呪いを受けてしまいました、助けてあげてください!」
彼女はそう言って背中に抱えていたリブラを静かに床におろして寝かせる。
呪法のせいだろうか、何時も元気なリブラが酷く苦しそうな表情を見せて呼吸が酷く荒く息づいていた。
「死の呪い!?ライラ解除してやってくれ!」
ライラは、軽く頷きリブラの体に手を当てて体にかけられた呪法を読み取りはじめる。
全身を調べて何かが解ったのか厳しい表情を見せながら俺へ静かに告げた。
「これは魂の呪い…自身の命をトリガーとして相手の魂を道連れに消滅させる禁呪法です、解除する方法は…ありません」
「なんだって!?いつもみたいに、リブラの体を再構築して魂を移し替えられないのか!?」
「ダメです…魂に呪法が刻まれているため、この呪法を消去するには刻まれた肉体から魂が消滅する以外の解除方法がありません」
「それじゃあ…リブラはこのまま死んでしまうのか!?俺に何もできないのか」
「残念ながら…私では何も助ける手がありません。死の禁呪法とは一度発動すると解呪できない恐ろしい呪いなのです」
「お願いだライラ!助けてくれよ、なんだったら俺の魂と替りでもいい!なんでもいいからリブラを助けてくれよ!」
「パルテさん!私からもお願いだ!彼女は私の身代わりに死の呪法を受けてしまったんだ、私の命と引き換えでもいい助けてやってくださいよ…」
ルコットは大粒の涙を零しながらライラの肩を掴み嘆願していた。
俺も同じ様にライラへ必死に詰め寄っていた所でリブラが静かに答えた。
「…パルテ様…替りなんてだめです…ボクはパルテ様のためにいるんだから」
「リブラ!ダメだ!俺の命と引換えにでも助けてやる!」
「ボクの命はパルテ様と共にあります、貴方様の命があってこその従者です、ここで消えられたら、ボクは一生後悔します…」
「いやだ!リブラは俺と結婚すると約束したじゃないか!こんなところで志半ばで消えるなんて絶対に許さないからな!!」
必死の呼びかけていたところでリブラはライラへと視線を移し右手を差し出してあるお願いを告げてきた。
「ライラ…お願い、手を差し出して…これを受け取ってください」
リブラは右手を差し出し光の小さい玉をライラへ手渡す、と同時にそのまま彼女の体に吸い込まれていく。
「これは…もしかして…」
「私の命の全てです…あなたが持っていてください…」
「…パルテ様…最後のお願いがあります」
「なんだ!最後なんていうな生きるんだ!!」
「…最後に私と…熱い口付けを…していただけますか?」
「わかった!何度でもしてやるだから死ぬんじゃない!」
俺はリブラの体を抱きかかえ、彼女に顔を近づけ自分の意志で熱い接吻をして強く願う、頼む死なないでくれ。ここで終わりなんていやだ!
時間にして何分経っただろうか、静かにリブラが顔を離し俺に言葉を告げた。
「…ありがとうパルテ様…これで心置き無く…い…ける」
そう言った瞬間リブラの手から力が抜け床に落ちる
彼女は、最後の言葉を残して静かに息を引き取った。
一日置き(隔日)の21時から22時頃更新予定、筆が乗ったら他の日も投稿します。
今週は月、水、金、日更新予定です。




