37. 勇者が目覚めた後の話
──勇者セレネ視点
なんだか眩しい……暗闇の中に微睡んでいたら窓から差し込める光で私は目を覚ました。
ここはどこだろう?いわゆる死んだ後の世界だろうか?
いや……心臓の音、口から吐く呼吸…間違いなく私は生きている。
脳裏に王城での出来事がリフレインし次々と疑問が浮かぶ。
どうしてだ?仲間と思っていたマルガリータどヒルダに呪いをかけられて私は死んだんじゃなかったのか?
体を起こして周囲を見回す、どうやらどこかの家にあるベットの上で寝ていたようだ。
立ってみると鎧は外されて上着一枚に下着だけのようで、薄着になっている理由も誰が脱がしたのかも解らない。
鎧は見当たらないが長年愛用した剣だけが部屋の角に立てかけられている。
足を降ろして部屋の上で立ち上がる、何だかいつもと体の感じが違う。
自分の身体ではあるがまるで別人のような感覚、いったい何で違和感があるのか確かめたい。
部屋を見回すと窓がある、近くに寄って窓に映る自分の姿を見て驚愕した。
見た目は確かに自分だ、だけど頭には髪留めの様に角が巻き付いている。
髪の色も僅かに黒みがかり明らかに人間の姿ではない、これはもしかして今まで私が討伐してきた…そう魔族の姿に自分自身が変貌していた。
「何故!私がこんな姿になってるんだ!」
ひとつ思い出した、こんな芸当が出来る人物、それは先日戦った魔王だ。
もしかして、ここはあの魔王がいた村なのか?何故自分を魔族に変えた!?
頭に血が登ってくるのが解る、強烈な怒りだ、勇者だった自分を魔族に変えた人物に対する憤怒の感情。
部屋に置いてあった剣を手に取り魔王の元に向かうことにした。
──村にいる魔王視点
俺は先日勇者が来た後片付けの段取りを考えていた、壊れた家の修復はルコットとドワーフ職人軍団におまかせすることにした。
建物の事では彼女に頼りっきりだ、何か別のお礼したいなと考えている。
ここの所、村に対するトラブルが耐えない、まあ原因は俺なんだけどなるべく皆には迷惑かけたくないので、今後も頑張ろう。
色々考えていたら、突然家から飛び出したセレネが俺を見つけ剣を構え切りかかって来る。
以前と同じ様に自分の杖で相手の剣を防御したが、彼女はかなり怒ってこちらに問いかけてた。
「貴様ッ!なぜ…なぜ私をこんな姿にした!!」
「落ち着けセレネ!下着丸出しで何切りかかってるんだ!」
俺の言葉を聞いて下半身を見ると下着が丸出しの状態に彼女は気付く。
剣を落として両手で急いで上着を伸ばし下着を隠して俺を追求してきた。
「貴様が脱がしたのか!?」
「いや、エルフの女性たちに頼んだよ…俺がやると後でリブラが怖いのでな」
セレネはエルフの女性たちに脱がされたと聞いて安堵したのか少し落ち着きをみせた。
俺は、自分の家を指さしてセレネに場所を教える事にした。
「まあ立ち話もなんだ、さっきの家に鎧が置いてるから着替えてから、右の方角にある大きめな家まで来てくれ、こうなった経緯を話してやる」
「わ…わかった、着替えて直ぐ来る」
セレネは下着が見えないように、そそくさと先程の家に帰っていく。
最強の勇者といいながらこんなところは女性らしい恥じらいを持っているんだなと少し感心した。
彼女と待ち合わせしたので家に戻って椅子に座って待っていよう。
しばらくして、鎧に着替えた彼女が先程の勢いはどうしたのかと思えるくらい大人しくやってきた。
「や…やってきたぞ」
「少しは落ち着いたか?まあ、そこの椅子にでも座ってくれ順を追って話そう」
「わかった。何故こうなったのか聞かせてくれ…」
椅子に座った彼女に昨日起きた出来事について語りだす。
「お前は昨日の夜、ドイラム村に突然落ちてきた、身に覚えはあるか?」
「いや…全く覚えていない」
「恐らくだがガンギルダ王国から逃げてきたんだろ?」
「なぜそう思う?」
「セレネは村に落ちてきた時意識を失っていた。私の相方が体を調べたら死の呪いがかかっていることが解った」
「死の呪いか…それで?」
「ここからは俺の予想だが王国にこの村の事を正直に話して理由を尋ねたんだろう、そして裏切り者と認定され死の呪法を発動させられ無我夢中で逃げてきて、無意識にここに来たんじゃないか?」
「凄い洞察力だな…流石は魔王という事か、この村を目指した訳ではないが概ねその通りだと思う」
「死の呪いは人間を絶対死に追いやる呪法で解除方法はなかった、唯一の方法は肉体を変貌させる…いわゆる俺が召喚した魔族の肉体に、セレネを憑依させ人への呪いを無効化する方法しかなかった」
「その結果がこの魔族としての肉体か……だが何故そこまでして私を助けた?放っておいて死なせてもいいだろう?」
「まあ、最初は敵対したがセレネ自身も王国の命令に疑問を持ってたんだろう?お前は村人を攻撃することに躊躇していたから、村の事を考えて王国に疑問を問いかけた、つまり村の助けをするために行動を起こした違うか?」
「そこまでは考えてなかったが……たしかに王国や司教に対して疑問を持っていたのは確かだ、だけど最初に言われた通り私は勇者という立場を守るため従っていただけなのかもしれない……」
「だが行動を起こしたのは事実だ、だったらそれに答えて助けてやるべきだろう?」
「それだけの事で私を助けたのか、私は助けられる価値などなかったかもしれないのに……」
「そんな事言うもんじゃない、俺はみんなに言ってるが命は大事にしろと、セレネは魔人として生まれ変わった、魔族だけど人間の体と殆ど同じだ、勇者の責務はなくなったし自由にすればいい」
「一つ聞かせてくれ」
「なんだ?」
「なんで魔王様は、この村でみんなを助けているんだ?人々なんて虫けら以下としか考えていないと思っていたが」
「掻い摘んで言うと俺は魔王軍でお飾りの王だったんだ、部下に使われるだけの生活に嫌気がさして魔王軍を抜けてきてな、そうしたらこの村で偶然にもガンギルダ騎士の作物強奪の場面に出くわしてな、そこで村人を助けてから住みだした」
「だから敵であった私も助けたと…フフッなんとなくだが貴方の懐の深さが解った気がする」
「今後はこの村でゆっくりと暮らすといい、生活はまあ以前ほど良くはないが徐々に村の状況も改善していく、その手伝いをしてくれ」
「わかった…その…あの」
急にセレネは恥ずかしそうに何か伝えようとモジモジしている。
「どうした?」
「ありがとう魔王様、私の命を助けてくれて…」
「あ、ああ?それでは俺は村の作業に戻る、今日は村を見回って色々教えてもらうといい、あとエルフのルナリーには謝っておけ、魔法使いが怪我させたからな」
「わかった、後で行ってくる」
なんだ?急にしおらしくなって、まるで女の子みたいな反応だな。
だけど、仲間になってくれたらヴァレリア達に匹敵する強さだから、今後村に敵が来ても楽に対処出来そうだ、味方になってくれる人達は多いほうがいいしな。
だけど、この時点では俺は気付いてなかった。
自分自身の行動でどんでもない危機が降り掛かってくるとは。
一日置き(隔日)の21時頃更新予定、筆が乗ったら他の日も投稿します。
今週は月、水、金、日更新予定です。




