36. 逃亡してきた勇者を俺は助けたい
──場所は代わりドイラム村
俺は勇者襲来による村の状況を確認するため全員を集めて被害報告を聞いていた。
早期にリブラがアルタイルの大森林に全員を避難させてくれたおかげで人的被害はほぼ無しだった。
エルフのルナリーが軽く怪我を負ったがリアの回復魔法でもう完治したとの事。
建物の被害は勇者セレネが壊した家一軒と、必殺技で地面に空けた大穴くらいだな。
「みんな無事でよかった、とりあえず勇者は今回何とか追い返すことが出来た」
「バル様の的確な指示のおかげでもあります!」
リブラが俺の采配を褒めてくれた、何だか少し照れくさいな。
「以前にも言った通り俺は村のみんなを守ると約束したんだ、まさか勇者という強大な力を持つ人物が来るとは思ってもいなかったが、ある人物のお陰で助かった。みんなに紹介しようバルザードだ」
俺は椅子に堂々とそれで優雅に着席していた人物を手で指し示して紹介した。
「ワシは龍王バルザードだ!よろしくな!」
流石に龍王というだけあってバルザードはなんだか偉そうだ、まあ助けられたから今は目を瞑っておこう。
「彼のお陰でピンチを脱することが出来た、皆もご存知かと思うがヴァレリアの親父さんだ、強さはかなりのもので二人とも頼りにしている」
「よろしくおねがいします!」
皆との顔合わせも済み、バルザードは明日にもリアの元に連れて行って謝罪させよう。
勇者との戦闘もあったので今日はここで解散して皆で休む事にした。
──時間は代わり日も落ちて夜に入る時間
自分たちの家に戻ってきてゆったりと過ごしていたところ突如としてとてつもなく大きな音が響き渡る。
──ドォオオオン!
なんだ?凄い音がしたぞ?いつもならリブラが教えてくれるが今回何も言って来なかったな。
村中に響き渡る轟音を聞いてから少し遅れてリブラが寝室から飛び出てきた、俺に伝えてきた。
「バル様!なんかすごい音が!」
「ああ、聞こえた、リブラの感知に引っかからなかったのか?」
「いえ、ちょっとウトウトとしてて見過ごしました」
そういえば、ここ最近村で色々あって疲れてたみたいだからな。
たまに寝過ごすのもしょうがない。
「とりあえず、音がした方向に向かってみよう」
「はい!わかりました」
音がしたのはなんとなく村の入口近くだったのはわかる。
二人で入口方面に向かっていくと地面が抉れた状態で誰かが倒れてるのが見える。
誰だ?なんか様子がおかしそうだが、近くに寄って見てみるとつい早朝に来た勇者セレネだった。
なんだ?再戦に来たという訳ではなさそうだが…地面に倒れたまま動こうとしない。
全く動かないのでとりあえず声を掛けてみる事にした。
「おい!セレネ!起きろもう夜だぞ、こんなとこで寝たら風邪引くぞ」
「バル様…何だかこの人様子が変です、凄く弱ってる感じがします」
「弱ってる?飛んできて体力が落ちて落下してきたとかか?」
「いえ、弱ってると言うのは命に危険が迫っていると言う意味です」
「なんだって?リブラちょっと調べてもらえるか?」
「はい、わかりました」
リブラが本を使いセレネの体を調べている、どんどんとページが捲れていき、あるページのところで止まって何かが解ったようだ。
「これは…死の呪いがかけられているようです…バル様、彼女の鎧を外して背中を見せてもらえますか?」
「え、いいのか?仮にも女性だが裸見ちゃうことにならないか?」
「前は外さないでくださいね、外したら怒りますよ…?」
リブラの圧を感じながら鎧を止めているバンド見たいな所を外し背中の鎧だけを外す。
体の正面を下にしたまま胸を見ないように細心の注意を払い、洋服を脱がすと豊満な胸が横から見える。
結構着痩せするタイプなんだな、かなりの巨乳に見える。
「バル様…?何を見てるんですか?」
リブラの冷たい視線を感じながら何とか誤魔化そうと彼女の光ってる背中について質問してみた。
「い、いや…何もみてないぞ?ところでこの背中に刻まれて光っている紋章はなんだ?」
「これは…刻印断罪ですね、発動すると人の命を奪う死の呪法です」
「解除することはできないのか?」
「この人の肉体に入れ墨として埋め込まれているので無理です…」
「入れ墨を傷つけて効力を奪ったり出来ないか?」
「ダメです、破壊すると即死呪文が発動してすぐに命を落とします」
このまま彼女が死ぬのを放置するしかないのか?何があったか知らないが死の呪いを掛けられてここに逃げ込んで来たという事は、王国に戻った時に呪文をかけられてた?いや背中の入れ墨ということは発動させられたという事か。
理由は不明だが、もしかしてこの村で起きた事を正直に話したら、勇者が反乱したとか疑われて死の呪いを発動させられたそんなところか。しかし自分たちを守る勇者に死の刻印を刻んでるとはえげつないな。
何とかして助けてやりたい俺はそう思った。
「リブラ、これは人の命を奪う呪法だと言ったな?だったらバルザードのように魔族の体へこの勇者を憑依させて新しい種族に生まれ変わらせたら呪いから逃れられるんじゃないか?」
「…」
珍しくリブラが無言だ、何でだろう。
俺のアイデアだったら直ぐ答えを返してくるのにいつもと様子が違う。
しばらくすると彼女は静かに口を開いて問に答えてくれた。
「…それはオススメできません…この勇者は備え持ってる力が段違いです、もし魔族召喚でこの人を魔族にした場合、バル様の力を殆ど奪われてしまい、下手をすると存在が消滅する可能性があります…」
「だがこのまま何もしないと、彼女が死ぬんだろ?助けられる命があるなら何とかして助けたい」
「ですが…バル様が消えてしまうのはイヤです!貴方あっての私なんですから…」
「リブラ…俺の事を気遣ってくれるのはわかる、だがこの者を助けたいんだ…頼む力を貸してくれ」
彼女は悩んでいるようだ、俺の存在が消えるかもと言っていたからか、従者としての使命もなくなり自分の存在意義が無くなってしまうからだろう。
だが、彼女は力強く答えてくれた。
「わかりました、バル様を信じてお手伝いします」
「ありがとうリブラ…では、前回のおさらいだな」
「はい、こちらも準備します」
「いくぞ魔族召喚!セレネとそっくりな女性魔族の肉体を作り上げろ!」
魔族召喚の魔法陣から闇の力で女性の肉体を形どった黒い体が出来上がる。
ほぼ形が出来上がったところでリブラに合図を送る。
「リブラ出来たぞ!次を頼む」
「では、いきます!霊肉転換」
リブラの掛け声と共にセレネの地面に魔法陣が現れ彼女の肉体が発光し霊体へと転化させる。
肉体が球状の状態になり魂の塊になったところで最終確認を告げる。
「バル様!では彼女の霊体を移します!お願いです、耐えきってください」
光の弾が闇の体に入り込んだところで魔族召喚の仕上げの言葉を告げる。
「新たな魔人として生まれ変われ!セレネ・ヴィクトリアスよ!」
魔族召喚を実行した後、闇の体が実体を作り上げていくが、それと同時に全身から闇の力を物凄い憩いで吸い取られていく感じがする。
まるで掃除機に吸い込まれるような感じで全身のパワーが抜けていくのを堪えて必死に叫び声をあげる。
「うおおおおおおおおぉ!」
「バル様!耐えてください!」
闇のオーラからセレネの肉体が徐々に出来上がり、魔人となった姿を表す。
容姿は彼女そっくりだが、聖騎士という容姿から一転、暗黒騎士ダークナイト風の姿に変貌している。
魔族召喚の儀式が終了したのか、魔法陣は消えて彼女はその場に倒れ込んだ。
行き絶え絶えだった俺は、消滅の危機から耐えきって安堵の声を漏らす。
「な、なんとか耐えきったぞ…」
「バル様、流石です!」
セレナの同意無しに魔人へと変えてしまったが、死んでしまうよりはマシだ。
目を覚ましたら反発しそうだが、説得するのに難儀しそうだな。
このまま彼女を空き家に運んで寝かしておこう、こうして、新たな魔族を召喚して今日一日を終えた。
一日置き(隔日)の21時頃更新予定、筆が乗ったら他の日も投稿します。
今週は月、水、金、日更新予定です。




