31. 光の勇者現る、魔王討伐任命を受ける
──勇者セレネ視点
私セレネは、上級司祭からの魔王と呼ばれる存在の討伐依頼を請け負った。
長年従事してきた司祭からの命令はいつも突然でハッキリといって迷惑している。
レガイア領地に現れた魔王軍の攻略をしていたのに突然呼び戻され作戦が中断させられた。
攻略も終盤だったのに、またやり直しになる可能瀬が出てきた、折角攻勢していたのに骨折り損だよ。
ガンギルダ王国に向かう馬車に乗りながら依頼の件を思い出しボソッと呟いた。
「あの司祭一回ぶっ飛ばさないと気がすまないな…」
同乗していた女性の仲間二人、魔法使いのマルガリータと僧侶ヒルダは私の言葉を聞いては笑い出した。
「まあまあ、司祭様の言う事なんですから素直に聞いておこうよ」
「そうね、早く終わらせて帰りましょう」
パーティー仲間の二人は司祭のことになると、何故か意見が反目する。
自分自身は、孤児として拾われ幼少から勇者と呼ばれるまで厳しい修行をしてここまで上り詰めた。
二人の仲間は司祭から充てがわれただけの仲間でしか無い、強さについては信頼しているが昔から私は一人で戦ってきたと自負している。
魔王軍との戦争で両親を失った私は苦しむ人達を助けるのが一番の目的だ。
そして勇者としての最終的な目標、魔王を討伐するべく日々活動を行っている。
ガンギルダ領内に現れたのが魔王軍だとしたらもちろん討伐対象だが何故だか今回はあまり気乗りしない。
「どうせ、魔王とか言ってまたハズレなんだろう、さっさと終わらせてレガイア領地の魔王軍討伐に向かおう」
「たまにはいいじゃない」
「そういや今回なんで馬車移動で、飛翔魔法は使わなかったの?」
「あの偉そうな司祭への当てつけさ、自分らはなにもしないくせに早急に対処しろとか命令しやがって、頭にきたから馬車移動にした、移動の間休憩させてもらう」
「なるほどね」
「納得!納得!」
私達三人を乗せ馬車はガンギルダへと向かっている間、しばらく眠らせてもらおう。
──場所は変わりガンギルダ国
ガンギルダの門に着いたところで馬車が止まり目が覚める。
御者が門番で許可を貰って領内に入り、私は馬車から国の中を見て違和感を感じていた。
国全体が静かで人気があまりない、市場で働く人達もまばらで活気がなく更に人々は痩せ細っている。
街なかを進む馬車の中で通り過ぎる景色を見ていると、突然領内にある巨大な教会の鐘が鳴り始め国中に響き渡った。
眼の前で人気のなかった街から大量の人が突然現れ全員一目散に教会へと向かって歩き出していく。
まるで取り憑かれたような異様な光景を見て自身の心に問いかけた。
なんだこの国は?信仰心が強い?こんなに皆が揃って教会に向かって移動するなんて異変すら感じる。
「なんだ、ここの国民はおかしくないか?皆揃って教会に行くなんて」
「さあ、どこもこんなもんじゃないの?」
「信仰心が高いんでしょ、大したことないよ」
まただ、教会や司祭の事に関しては二人と意見が合わない。
いつもの事だが何故か今回は違和感しか感じないのに、この答えだ。
いずれこの件も含めて二人を問い詰めてみるか、そう考えた。
王城に辿り着いた私達は国王と面会するため謁見の間に向かっていた、所々通り過ぎる貴族と思われる人達は街の人々とはうってかわってブクブクと肥え太って豪華な宝飾品を身に着けていた。
民は苦しそうなのに貴族連中は贅沢三昧か…戦災孤児だった私は庶民の苦労を知っていた。
貴族たちは、己の自己顕示欲ばかり誇示していて、貧困に苦しむ民のことなんか考えていない。
自国の異常さを感じないのかこいつら?そんな事を想いながら私達は国王と面会した。
「よくぞ来た、勇者セレネ・ヴィクトリアスよ」
「セレネ・ヴィクトリアス命により参上いたしました」
「今回の依頼は司祭より伝える、心して聞くのだ」
何故国の問題なのに大臣ではなく、教会の司祭が伝える?本当におかしなことばかりだが、国の命だ従うしかあるまい。
「承知しました」
「では依頼について伝える、ドイラム村に現れた魔王を名乗る存在だ、既に何人もの兵士を送り込んだが近衛騎士団含め全て帰らぬ人となっておる、お主の力で討伐を頼みたい」
「依頼について拝命いたしました、勇者の名にかけて見事魔王を名乗る者を討伐して見せます」
「うむ、頼むぞ」
「それともう一つ、魔王を名乗るものに与した村人は、魔に魅了された危険な存在だ、元には戻らないので全員始末しなさい」
「村人を殺せと…?何故ですか!魔族を討伐すれば魅了も解けるでしょう!?」
「無駄だ、一度魔に魅了されたものは死ぬまで正気を取り戻さない、楽にしてやるのが温情だというものだ、村人全員の殲滅も優先事項だ」
「ですが、ただの村人を殺すなど…」
反論していると後ろにいたマルガリータとヒルダが会話に入ってきた。
「まあまあ、村人たちの処置は私達にまかせて、貴方は魔王を名乗るものの討伐に専念して」
「そうそう、掃除は私達に任せなさい」
村人たちの排除を掃除だと?例え魔に魅了されているからと言って確認もせず無差別に殺すと言うのか。
何もせずにただ殺すという二人の意見に異論を唱えたかったが言い合っても拉致があかない、一旦納得したことにしておこう、そう思った。
「わかりました、本日は時間が遅いため今から村に向かうと夜になります、夜間の戦いはこちらにも不利に働くため宿に一泊してから明日の朝より攻略を開始いたします」
「よい、許そう、配下に宿は用意させよう」
「ありがたき幸せ、それでは失礼します」
謁見の間を後にした私達は、今日の宿へ向かうために城を出た。
入口では兵士が待ち構えていて宿まで案内してくれた。
しばらく歩き宿に到着すると冒険者には場違いなほど綺麗な宿屋に案内された。
連れられて部屋に入るとやたらと豪華な装飾に風呂まである、恐らく貴族専用の宿泊所なんだろう。
マルガリータとヒルダの二人とは別部屋のようだ、一人で静かに過ごせるのは助かる。
そういえば風呂に入るのなんて久しぶりだな。
全身が浸かれるくらいの湯船だから、早速風呂にお湯を貯めて入ろう。
しばらくお湯が溜まるのを待って丁度いいくらいになったところで鎧と服を脱ぎゆっくりと湯船に入る。
体が温まる気持ちよさに自然と声が出てしまう。
「…ふう」
静かに天上を見上げながら明日の攻略について考えていた。
飛翔魔法でドイラム村に乗り込んで魔王を名乗るものを討伐する、ただそれだけだ。
村人の討伐は、二人に任せる…目を瞑るしかないのか…自分の信じる正義とはなんだろう。
苦しむ人達を救うそれが勇者の役目ではないのか?二人は何故司祭の言葉を素直に信じる?
ここといい、王政教会の司祭の言葉についてもだ、パーティを組んだときからの違和感がここ最近は更に強く感じるようになった。
今日は長湯してしまったな、考えることが多すぎるからだ。
風呂から出た私は備えてあったタオルで髪と体を綺麗に拭きローブに着替え部屋に戻る。
もう考えるのは止めよう、明日の攻略を第1目標にするんだ。
このままベットに横になり眠りに入ろう、考えるのを止めた私は静かに夜を過ごした。
隔日(火、木、土) の21時頃更新予定、筆が乗ったら他の日も投稿します。
月曜日は投稿お休みです。




