101. ライラの裏切りの真意
パルテセスの住人は全員が無事だったのを確認した。
ルコットが機転を利かせ住人をガヴェリアに退避させてくれたおかげだ。
だが、主力の防衛メンバーは負傷していてしばらくは戦闘が無理だろう。
今後の事は先に考えるとして、まずはやらなければならない事がある。
それは皆を裏切り逃亡したライラを探して真意を問わなければならない。
外に出て彼女が向かう場所は考えてみた。
恐らくだが一度裏切った魔王城に戻ることはありえないと思う。
「もしかしてあの場所か…」
俺はある場所を思い出し飛翔魔法で飛び立つ。
目的は、ウンディーネのティナが居たラグナ湖近くにある山の頂上。
魔王の肉体を取り戻した時に最初に彼女が逃亡した場所だ。
空から周囲を見渡し山にかかる僅かな霧の中に人影を見つけた。
背格好からして間違いない。
「……居た」
俺は、ライラの側に飛び降りると、こちらに気付いた彼女は何時もより大人しい感じで声を掛けてきた。
「パルテ様…見つかっちゃいましたね」
「ここはリブラが最初に逃げた場所だからな、何となく予想出来たよ」
「パルテ様に見つけて欲しかった気持ちもありましたから…」
「ライラ答えろ!なぜ皆を裏切って全員の能力を制限して新しい魔王に加担したんだ!?」
こちらの問いかけに対して彼女はしばらく答えを出さなかった。
そして意を決したように目的について静かに語りだす。
「…それが私が生まれた意味だからです」
「生まれた意味…?どういう事だ。魔族召喚で生み出した時に、新魔王の手伝いをするためにリブラの体に乗り移ったのか?」
「それは違います。私の狙いは、新魔王が誕生して戦うことになった時に、パルテ様以外に彼女を倒させたくなかったんです」
「新魔王と俺でタイマンの勝負をさせたかった?でもライラの行為で仲間全員が命の危険を犯すことになってもか!?」
「皆に対して申し訳ないと思っています。ですがどうしても止めなければいけなかったのです」
「それはなぜだ?」
「パルテ様がいない状態で、突然敵が現れたら好戦的な皆の動きを止めるのは不可能です。特にセレネさんとヴァレリアさんはその傾向が強いので動きを封じるため力を制限するしかありませんでした」
「皆を新魔王とを戦わせたくなかったから力を封じたという事か?」
「はい、新しい魔王がパルテ様以外に倒されてしまうと長年掛けて進めてきた計画が水泡に帰する可能性があるため、緊急措置として力を封じたのです」
「だったら事前に説明して話し合うとかあっただろう、何故それをしなかったんだ?」
「本来は万全の体制で挑むつもりでした。パルテ様の不在を狙って新魔王が早く攻めてくるのはこちらも想定外だったのです」」
「想定外だって?ライラは魔王が攻めて来る時期をある程度予測していたというのか?」
「私の予想では、パルテ様が戻って来るまで大丈夫だと思ってました。」
新しく生まれた魔王は、こちらに攻めて来る予定ではなかった。
だけど突如スケジュールを早めて攻撃を仕掛けてきた…もしかしてシエルと遭遇して、パルテセスに俺が不在だと言う事が知られたからか。
ちょっと待て、何かが引っかかる。
神滅の秘宝との接触で魔王としての力が更に強化された、つまり俺が魔法都市に飛んだのは対策の一環でもあった?
それに俺が戻って来る時期まで読んでいた、なら魔法都市へ飛ばした犯人は明白じゃないか。
「もしかして、俺を魔法都市に飛ばしたのは、ライラだったのか?」
「お気づきになりましたか…」
「話が出来すぎてるからな。魔法都市国家に飛んで結果として魔王の力が更に強化出来たけど、それが目的だったのか?」
「その通りです。パルテ様の封じられた力を解放するには、神滅の秘宝との接触が必須だったのです」
「だけど、突然裁判で死刑を言い渡されたり、四天王やシエルと戦って神滅の秘宝で死にかけたり色々あったぞ…生きて帰ってきたのが奇跡みたいなもんだよ」
「私は、パルテ様ならどんな困難でも成し遂げて戻ってきてくれると信じていました」
その溢れんばかりの自信は、どこから出てくるんだ?
一回死にかけたの詳しく説明してやろうかと思ったがやめておいた。
そういえば、神滅の秘宝からの頼まれた事がある。
手渡された物で、ライラの素性を確認しなければならない。
「そう言えば神滅の秘宝という奴からこの巻物を預かってきたんだ、ライラはわかるのか?」
俺は預かった巻物を開いて見せてみた。
日本語で書かれた『貴方は鍵か』この質問に答えられるかが重要だ。
ライラは文字を呼んで首を振り否定した。
「残念ながら…今の私は違います」
「ひとつ聞かせてくれ、何故ライラが日本語を読める?」
「これは暗号文です」
「暗号文どういう事だ?」
「この世界で日本語を読める人にしか解らない質問。だから暗号文として成立するのです」
なるほど、日本語を読める人にしか解らない文章。
だから暗号文という事か、さっぱり解らないぞ。
「でも、それだけではライラが理解できる意味にはならないぞ」
「それは時期が来たらお話します」
「ちなみに聞かせてくれ、長年かけて進めてきた計画とは何だ?」
「理由は…『機密情報に該当…情報統制により開示不可』」
「機密情報って…それに情報統制って言ったか?」
「やはり駄目ですか…実はつい先日から、私が重要な情報を話そうとすると、制限により言葉が出せなくなったのです」
「もしかして、それは天使に対する情報統制の縛り…」
「パルテ様、何故その言葉を知っているんですか!?」
「先日、魔法都市国家で魔王軍のシエルと遭遇して、ライラが話してたことを問いかけたらそんな言葉を言ってたんだよ」
情報統制の縛りは、シエルが言っていた言葉。
もしかして、俺が彼女との遭遇でライラに対して情報統制が有効なのがわかり、天使の行動に強い制限を掛けたのだろうか?
「つまり、ライラは今まで天使の情報網で色々引き出せていたけど、情報統制により話せなくなったのか」
「恐らくですが…その通りだと思います」
「ちなみに行動の制限や誰かに操られるとは起きていないのか?」
「今のところは大丈夫ですが、その可能性がないとも言い切れません」
「なんだって、それなら今後どうするんだ?」
ライラは真剣な表情ではこれから起きる事態について願いを伝えてきた。
「パルテ様、貴方は近いうちに新しい魔王と戦う事になります」
「再度廃墟となったパルテセスに俺を殺しに来るってことか?」
「そうです、でも新魔王を殺めたり倒してはいけません。戦いの中で彼女との会話から真実を引き出して懐柔してください」
「相手を倒さずに真実を引き出す?どういう意味だ」
「今はその言葉だけを心に刻んでおいてください」
「ライラは一緒に戦ってくれないのか?」
「私は理由があって、新しい魔王と顔を合わせることができません」
「何故だ?」
「理由は…まだお話しできません」
「それだけじゃわからないよ、ライラはこれからどうするんだ?」
「パルテ様の危惧の通り、新魔王との戦い前に私が情報統制で操られた場合に備えて、戦いが終わるまで自分自身を封じます」
「自身を封印する…つまり俺に全部丸投げなのか、責任重大だな」
「これから先に進むには、パルテ様に新しい魔王の正体を突き止めてもらうしかないのです!今更信じてくださいとお願いするのは筋違いだと思いますが、是非お願いします!」
「解った…そこまで言うのならやってみるよ」
「ありがとうございます。それでは『障壁監獄』!」
ライラは魔法障壁を使い丸い結晶の牢獄を作り上げ、誰も干渉できないよう自分自身に石化したような状態を作り上げ無言になった。
彼女がここまで必死に頼み込むという事は、これは俺が絶対に成し遂げなければならない事項なのだ。
新しい魔王の正体を突き止める?
ライラはその人物と顔を合わせられない?彼女が知っている人物?
一体誰なんだ、全く予想がつかない。
全くのノーヒントで戦いを挑まないといけないとか無茶振りが過ぎるよ。
俺は一旦皆の元に戻るためガヴェリアへと帰還した。
火、木、土、日の19時から21時頃で更新予定。




