表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/35

34.説得と命令

「ここにいなさい。」


それでも私は言わなくてはならない。

居場所を追われ、追いやられた先であれど、

ここは私が統括している屋敷であり、

彼ら彼女らは私の従者なのだから。


「ティファ、これは命令よ。私が許可しない限り、

このお屋敷から去ることは許しません。

もし私に無断で出ていくようなことをしたら、

あなたがどこにいても探し出して

必ずこのお屋敷に連れ帰ってきます。」


たとえ今は仮の従者だとしても、

お母様が私に託してくれた彼女を

そう簡単に手放すなんてできない。

彼女は私のことを助けてくれたし、

私のことを信じて過去を語ってくれた。

その信頼に私は報いなければならない。

誰に反対されようとも、

私はこの意志を変えるつもりはない。


「……俺は吸血鬼だぞ?

あんたら人間とは違う化け物だ。」


「そんなの関係ない。

あなたは今、私の従者なんだから。」


「もしあいつらがここに来たら、

あんたらまで巻き込まれるんだぞ?

見境のないあいつらのことだ。

あんたらが普通の人間だと知っても、

吸血鬼である俺と関わってるからって理由で

あんたらを殺すかもしれない。それでもいいのかよ!」


「えぇ、私の従者に手を出したことを

心の底から後悔させてあげるわ。」


「魔力も戦う力もないあんたに

何ができるってんだよ!……っ!」


「そんなの私にだって分からないわ。

でも、私は絶対にあなたを諦めない。」


「……あんたらはいいのかよ!

主のわがままのせいで

避けられたはずの争いに巻き込まれるんだ!

そんなの普通我慢できないよな!?」


体が熱い。風邪がぶり返しているのかもしれない。

しかし、目の前も頭の中もとても清々しい。

今の私の心を遮る物は何もなく、

ただ一人の従者と向き合っている。

本心からの言葉を繋いで、

彼女も全力で私に応えている。

最後、バツが悪そうに私から目を逸らして

標的を彼らに移したのは、

きっと彼女が自身の言葉を後悔しているからだ。


「我慢など、するはずもありません。」


静まり返った部屋の中、

ティファに答えたのはサーだった。

静かな口調で、ただし力強くサーは言う。


「あなたのおっしゃる通り、

あなたがこの屋敷にいることで

お嬢様や我々に不利益や不幸が訪れるかもしれません。

しかし、あなたがその不幸以上の幸福を

我々にもたらしてくれるのなら、

いえ、たとえ不幸しか招かなくとも、

我々は嬉々としてあなたを受け入れましょう。

それがお嬢様のご意志なのですから。」


相変わらずサーの表情は分かりにくい。

しかし、その言葉には確かな力と熱がある。

ただ、そう簡単に受け入れる程、

ティファは彼のことを信じていなかった。


「それはあんたたちが従者だからだろ?

命令に逆らえないだけで、本当は嫌なんだろ!」


「確かに我々はお嬢様に忠誠を誓い、

身も心も未来も捧げる覚悟ですが、

お嬢様は我々に傀儡にならぬようにと

堅くご命じになられております。

それはお嬢様の行動や言葉が間違っている時には

間違っていると、お嬢様が悪いことをした時は

甘やかさずに叱るようにということだけではなく、

我々自らの意志とやり方でお嬢様に

尽くすようにという意味も含んでおります。

お嬢様はあなたにもそうおっしゃったはず。」


そう、彼らは決して私を盲信している訳ではない。

私も私の後ろを黙って着いて来なさいとか、

私の意志に反することは言ってはならないとか、

悪い王様のようなことは命じていない。

ただ、彼らには誠実であって欲しいだけだ。

私に対しても自分に対しても、

信念を曲げるようなことはするなと。

たとえそれで対立することになったとしても、

その時は対等な人間として向き合おうと。

荒れていた頃の私が心を開いた日、

私は彼らにそう告げたのだ。

それが人を信じることだと分かったから。

以降、サーもシャルルもロアンも、

私の言うことだからという理由だけで

行動を起こしたことは一度もない。

シャルルに限って言えば、もう少しメイドらしく

自制して欲しい所がないこともないのだが、

それも含めた彼女らしさだから何も言えない。


「我々は我々の意志であなたを

受け入れると決めています。

あなたがこの屋敷に留まることが

お嬢様のお望みであり、

同時に我々の望みでもあるのです。」


私が望んでいるから、という大前提があっても、

それはサーたちが本心を隠す理由にはならない。

サーたちも心からティファの存在を認めている。

でなければ、彼らが私とティファを二人きりで

部屋に置いておくはずがないのだから。

魔道具を片付ける時も、

ティファの正体を聞いた時も、

私と彼女は二人きりだった。

彼らが彼女を認めているからこそ、

私は彼女の正体を聞くことができた。


「……あんたたちには感謝してるんだ。

死にかけの俺を拾ってくれたことも、

こうして気にかけてくれることも、

感謝してもし足りないくらい感謝してる。

でもだからこそ、あんたたちを俺の不幸に

巻き込む訳にはいかない。」


ティファとて自らの不遇を呪い、

それを振り払おうと必死なのだろう。

そして、周りにいる者たちを巻き込むまいと

精一杯突き放そうとしている。

その気持ちは私にもよく分かる。

魔法が使えず本家を追い出された私は

毎日のように自分と世界を呪っていたし、

私を慕うサーやシャルルたちを遠ざけていた。

自分で自分の可能性や未来を否定して、

自分に期待させるようなことを

言ってくる周りの人間が疎ましい。

だから全てを遠ざけたい。

しかし、それでも今の私があるのは

後ろにいる三人の従者のおかげだ。


「ティファちゃん、私はサーやお嬢様のように

気の利いたいいセリフは言えません。

だからという訳でもないですけど、

私は大切にしていることがあるんです。」


いつもなら真っ先に口を開くと思っていたシャルルが

ここまできてようやく言葉を発した。

いつものような明るい口調でも

太陽のような笑顔でもないシャルル。

彼女が心に何かを秘めていたなんて、

私には想像もできなかった。


「困ったことがあったら助けてもらう、です。

お料理もお掃除もお洗濯も

私よりサーとロアン爺の方が上手で、

お嬢様に怒られることだってよくあります。

でも、サーもロアン爺もお嬢様もこんな私を

いつも笑って受け入れてくれるんです。

だから、いつも助けてくれる皆さんのために

私は精一杯お仕事を頑張っています。

それが皆さんへの恩返しですから。

だからティファちゃんも今は私たちを頼って、

いつか私たちを助けてくれたらいいんです。

多分ですけど、デビルハンターが

今どれくらい街にいるのかとか、

ティファちゃんは知りませんよね?

そんな状態でどうやって逃げ切るつもりですか?

御当主様の目さえ誤魔化せないあなたが、

どうやって本業である人たちから逃げるんですか?」


「そ、それは……。」


シャルルの圧を含んだ言葉にティファは言葉を濁す。

いくらお母様が貴族の当主として

人を見る目を磨いていたとしても、

言ってしまえば素人であるお母様でさえ

ティファの正体を看破してしまった。

そんな彼女がどうやってデビルハンターの

目を掻い潜ることができるというのか。

いや、できないのだろう。


「迷惑だなんて、ここにいる誰も思ってません。

むしろティファちゃんの力になりたいって

心から望んでいるんです。

私の目が嘘をついているように見えますか?」


癖で視線を逸らしてしまうティファ。

しかしそれをシャルルは逃がさない。

ティファの顔に自分の顔を近づけて、

どうだ、これで逸らせないだろうと圧をかける。

それでもどうにか逃れようとするティファだが、

サーもロアンも私も彼女から目を離さない。

互いに言葉を尽くした今、

もはやティファに逃げ場なんてなかった。


「分かった……。なら、もう少しだけ世話になる。」


ようやくティファは力を抜いて、

諦めたように笑みを浮かべた。

ホンの少しだけ、ぎこちない笑顔を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ