表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
33/35

33.銀とデビルハンター

吸血鬼の伝承というのは色々ある。

地域や時代によって違うこともあれば、

読み手の解釈によって違うこともある。

その中からあえて有名な物だけを

摘みあげて吸血鬼の弱点を語るなら、

やはり太陽の光と銀の杭の二つだ。

吸血鬼は太陽の光を浴びると

瞬く間に体が灰となってしまうため、

昼は暗い洞窟の奥に潜んでいるという。

銀の杭を心臓に刺すという手もあるが、

よく考えれば大抵の生き物は

心臓を刺されたら死ぬだろう。

ただ、これはあくまでも伝承の中で

語られている真偽不明のおとぎ話であり、

事実はどうかは検証の余地がある。

……が、太陽の光は語るまでもないだろう。

ティファは普通の人間と同じように外に出ているし、

特別外が苦手という表情もしないのだから。

外へ出ると肌が焼けるだとか、

そんなことは今までに一度もなかった。

だからこれから彼女が話すのは、

もう一つの可能性についてのことだろう。


「銀以外の素材でできた武器の傷なら、

少し魔力を使うだけですぐに回復できる。

……こんな風にな。」


ティファが教えてくれた吸血鬼の弱点。

それは銀でできた武器での攻撃だ。

彼女はキッチンから持ってきた包丁で

自身の腕に深い傷をつけて見せたが、

言葉通り、瞬く間に傷が塞がってしまった。

次に銀製のナイフでホンの少しだけ肌を切ると、

彼女の口元が痛みで歪み、

切った部分だけが木炭のように黒く焦げていた。


「たったこれだけの傷でも、銀でできた武器なら

回復も遅いし痛みも激しい。」


確かに包丁の傷より治るのは遅いようだが、

それでも数分のうちに傷はなくなった。

人間なら少し肌を切った程度でも

一日や二日かかってしまうが、

これが吸血鬼という種族が持っている

回復能力が優れている証だろう。

この回復能力こそ吸血鬼が古の時代で

最強の種族と謳われていた所以だろう。


「銀を操るデビルハンターの男に

村にいた吸血鬼は皆殺しにされ、

生き残ったのは俺一人だけだ。

あいつらも吸血鬼のプライドだとか

逃げるのは恥だとか言ってなきゃ、

俺みたいに逃げられただろうぜ……。」


吸血鬼が持つ最強の種族としてのプライド。

それはどれだけ時代が流れても変わることなく、

同時に彼らを縛る枷となっていた。

たった一人、ティファだけがデビルハンターから

逃げ仰せることができたのは、

彼女が幼い頃から周りの吸血鬼たちに

お前は吸血鬼ではないと言われ続けたからだろう。

敵に背を向け、尻尾を巻いて逃げ走る。

吸血鬼の中の忌み子だと蔑まれたことが

彼女が生き残れた理由とは、皮肉もいいところだ。


「あとはあんたも知っての通りさ。

俺は貴族の屋敷に拾われて教育された。

あの当主様だけは俺のことを最初から

吸血鬼だって見抜いてたようだが、

他の人間と同じように接してくれたぜ。

全く、あの人には頭が上がらねぇよ。」


ティファが当主様と呼ぶのは私のお母様だろう。

村を襲われ、家族を亡くし、居場所を失くし、

ただのたれ死ぬのを待つだけだった彼女を

お母様は何も聞かずに拾いあげて、

この世界で暮らしていけるだけの教育を施した。

ティファにとって私のお母様は

彼女を救った神のような存在なのだろう。


「あなたも大変だったのね……。」


私は自分の境遇とティファの過去を重ねる。

魔法を持たない忌み子の私と、

赤い炎を持たない忌み子の彼女。

住んでいた屋敷を追い出された私と、

住んでいた村を襲われた彼女。

お母様も姉妹も元気な私と、

家族以外の同胞まで殺された彼女。

屋敷と従者に恵まれている私と、

救世主に巡り会うことができた彼女。

似ている部分も確かにあるが、

大きな悪意によって家も家族も

失ってしまった彼女の方が何倍も

辛い経験をしていることだろう。

私以外にもそれぞれ思うところがあるようで、

シャルルはティファの悲惨な過去を

嘆くように涙と鼻水を流し、

サーは亡くなった吸血鬼たちを偲ぶように目を閉じ、

そしてロアンは何やら思案顔をしている。


「一つ、お聞きしてもよろしいですかな?」


経験も知識も豊富なロアンのことだ。

私では考えつかないような何かに

気がついたのだろう。

主張するように手を挙げてロアンは聞いた。


「なんだ?俺の説明に不満でもあったか?」


「いえ、不満などあるはずもございません。

ティファ君のお話はとても簡潔でしたので。

ただこの老骨が気がかりに思いましたのは、

ティファ君の村を襲ったというデビルハンターは、

吸血鬼の生き残りがいると知れば

全てを根絶やしにするためにこのお屋敷まで

追ってくるのではないかということなのです。」


そうだ、ロアンの言う通りだ。

デビルハンターの目的は人間以外の

種族を狩り尽くすことにある。

もしも吸血鬼であるティファの存在が

どこかに知られるようなことになれば、

ティファの村を襲った男以外の

デビルハンターがこの屋敷まで

やってくるかもしれない。

それはとても困ることだ。

そんなことになれば周辺から注目されて、

私という魔法の使えない人間が

この屋敷にいるということまで

白日のもとに晒される可能性があるのだから。

一般人に知られるくらいならまだいいが、

お母様やリーゼ姉さんと関わりのある貴族に

私のことを知られてしまったら、

もう今のような生活を送れなくなってしまう。

忘れてはいけないのだ、私が忌み子であることは。


「……そうだな。あいつらは狂ったように

俺たちを狩ることを生業にしてる。

俺がここにいることが知られたら、

間違いなく乗り込んでくるだろうな。

まぁ、そうなったら俺は一目散に逃げ出すだけだ。

あんたたちに迷惑はかけねぇ。

その時は別れの挨拶ができなくても許してくれよ?」


そして困ったようにティファは顔を逸らす。

貴族屋敷のメイドとして以前に、

一人の人間として別れというのは告げるものだ。

彼女もそれを分かっていて、

だからこそ『その時』がきてもそれができないことを

こうして事前に断っている。

……けれど、それはそれ、これはこれだ。

私は忌み子で、存在を隠すべき存在。

お母様もリーゼ姉さんもルヴィアもロアンも

本家の屋敷にいる執事たちも、

双子の忌み子であるサーもシャルルも、

私がこの屋敷にいるのは外界から

私を切り離すためだと知っているし、

私と同じような境遇にあるティファが

私たちを守るために言っているのだと理解している。

……それでも。それでも私は───。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ