24.哲学と料理の腕
「私にもよく分からないけど、
ただの占いなんだからいいじゃない。
深く考えてもあまり意味はないわ。」
そう、これはあくまで占いだ。
未来が決定する訳ではない。
結果のことを考えても意味がなく、
無理に知ろうとするのは強欲なことだ。
今を生きている人間に大事なのは今であり、
占いなんてただの気休めに過ぎない。
「お嬢様のおっしゃる通りですね。
では、気を取り直してティファを占いましょう。」
「ほ、本当にやるのか…。」
「いいではないですか。
ほら、早く二枚選んでください。
必ず薬指で取るんですよ。」
「わ、分かった……。」
渋々とした表情を浮かべながらも、
シャルルが言ったルールを守って
テーブルに並べられたカードから
ティファは二枚を選んだ。
少し考えた末にそのうちの一枚だけ向きを変え、
シャルルがそれらを裏返す。
ティファが引いたカードは、
正位置の雲と逆位置の悪魔だった。
怖い顔の悪魔が描かれたカードを見て
少し強ばった表情を浮かべるティファだが、
自分の手を胸の前で固く握り締める。
そして、その二枚のカードが暗示する
ティファの未来をシャルルが読み上げた。
「『近い未来にあなたは解放される。
何も掴めない過去とは別れ自由になり、
遥か彼方の遠い空まで行けるでしょう。』
……ですって。ティファは自由ではないんですか?」
「自由……?」
自由、という言葉を聞いて私は考える。
そもそも自由とはなんだろうかと。
何にも縛られず、何にも囚われない状態を
自由と呼べばいいのだろうか。
ルールも常識もない世界で生きられたら、
それこそが自由と言えるのだろうか。
しかし、それではかえって雁字搦めになるだけだ。
人間という生き物は選択肢が無限にあれば、
より良い選択をしようと必死になるものだ。
無限にある選択肢の中から
最も良い何かを懸命に探し続け、
そしていつしか無限の思考の檻の中に入る。
人間は傲慢で、強欲で、上を求めたがる。
そんな状態は決して自由とは言えないだろう。
「ほっほっほ。まさに哲学ですな。」
私が過去に読んだ物語の中に、
神に認められた男という話があった。
ある時、神さえも魅力した男がいて、
神は男に望む物を何でも一つだけ与えると言った。
大地に縛られることを嫌っていた男は
大地を離れて自由に空を舞うための
翼が欲しいと神に頼み、神はそれを与えた。
こうして男は自由に空を飛び回れるようになり
鳥のように大空を駆け巡ったのだが、
男はこの空さえ狭く感じるようになると
やがてその果てに太陽を目指してしまった。
古代から太陽とは神と同等の存在であり、
人間が近づくことなど決してできない。
しかし、翼を与えられただけの
ただの人間だった男は
分不相応にも太陽へと手を伸ばし、
翼ごと体を焼かれてしまったのだ。
自由に物を与えられた結果、
男は身の丈以上の要求をして死んだ。
自由の先に待っていた破滅の未来。
果たしてこれは自由と言えるのだろうか。
……否である。
死んでしまっては自由も不自由もないのだから。
ならば、自由とは何か。
「私は今の生活で十分だ……です。」
あれこれ考えたところで、
結論が出る前に考えることをやめた。
結局は占いによって出た結果であり、
頭を悩ませても無駄だから。
そもそも従者たる者、
自由など望んではいけないのだ。
従者とは尽くすべき主のために生きる者。
お母様に拾われて、メイドとして生きると
ティファが決意したその瞬間に、
彼女は全てを捨てたのだ。
「次はサーを占いましょう。」
その後もシャルルによる占いは続き、
サーは両方とも正位置の女王と世界を、
ロアンは両方とも逆位置の財と審判を引いた。
サーの未来には新たな出会いと
それに伴った新たな責任がやってくるらしく、
ロアンはお金の使い方に気をつけるようにと
警告めいたことが書いてあった。
考えてみれば屋敷にある魔道具のほとんどは
ロアンが買ってきた物なので、
この調子で買い続けないようにと
釘を刺してくれたのだろう。
占いもたまにはいいことをする。
こうして楽しい時間が過ぎていくと、
夕食にはサー監修の下でティファが
温かなシチューを作ってくれた。
ティファは料理をするのが苦手なようで、
最終的にはメイド長から見限られて
厨房に入ることすら禁止にされたとか。
あのいつも忙しそうにしているメイド長は
色々と立場故の責任もあるので、
本当に苦労していると思う。
そのメイド長も諦めたというティファの料理は
野菜も肉の大きさも不揃いだが、
それでもシャルルと比べれば
きちんと食べられる物を作っている。
私が知る中でシャルルの最も酷かった料理は、
小麦粉と塩を間違えたばかりか、
玉ねぎの皮を剥くのを忘れて
削った木の煮込みのようになっていた。
毒味をするまでもなく
そもそも料理と呼んでいいのかも不明なそれが
人間の食べ物ではないと分かるのだが、
食材を無駄にしたいためにサーは口に入れた。
……後にも先にも、サーの顔が病人のように
青白くなったのはその時だけだ。
シャルルもティファを見習って
もう少し料理の腕を研いて欲しいのだが、
それはまたの機会にしておこう。
まだこの屋敷での生活に慣れていないティファが
シャルルの料理を見てしまったら、
それだけで屋敷から逃げてしまうだろうから。
今はただ、冷めないうちにこの温かなシチューを
喜びと安心と共に堪能したい。




