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23.占いとカード

「占いをやりましょう!」


何の脈略も無しにシャルルは言った。

一体どうして何のためにと思ったが、

すでに彼女の手には占いの本が握られており、

どうやら新しくやってきたティファとの

親睦を深めることが目的のようである。

相変わらずの距離感の近さだが、

特に反対する理由もないので

私はシャルルの話に乗ることにした。


「いいわね。みんなでやりましょうか。」


「俺も…私もやるんですか……?」


しかし、当の本人であるティファは

突然のことに理解が追いつかないようだ。

彼女の顔が困惑に染まっている。

無理もない。主とメイド、執事たちというのは

その絶対的な立場を揺るがさないように

一線を引いていることがほとんどだ。

主が子どもの時ならまだしも、

私はもう立派な大人だ。

それがメイドからの発案で

みんなで占いをすることになるなんて、

ティファには想像もできなかったはずだ。

おそらくだが、もしここにお母様がいたら

貴族の娘が何をやっているのだと

叱られてしまうことだろう。


「こういうのはみんなでやる方が楽しいのよ。

もしかして、占いとか苦手?」


「い、いや…そういう訳じゃ……。」


「なら一緒にやりましょうよ。」


目的はあくまでもティファと仲良くなるためだ。

私やシャルルたちのことを

ティファに知ってもらい、

私たちも彼女のことを知りたい。

そのためなら多少強引だって構わない。


「…あぁ、分かった……分かりました。」


ティファからの了承も得られたところで、

シャルルは占いの本を開く。

その本には星占いや花占い、水占いなど

様々な占いの方法や見方が書いてあり、

初心者でも簡単に占うことができる。


「では、今日はこれにしましょう。」


本の中身を見ながらペラペラと捲り、

シャルルは目当てのページを見つける。

その内容を覗いてみると、

それは占いの定番であるカードだった。

私もあまり詳しくはないのだが、

この本によると、カード占いとは

合計21枚のカードを使うもので、

引いたカードとその向き、組み合わせによって

様々な意味を暗示する占いのようだ。

今日はシャルルの割に用意が良く、

カードもきちんと準備されていた。


「最初は言い出しっぺの私から占いますね。

サー、カードを切ってください。」


シャルルが用意したカードをサーが切り、

それを魚の切り身のようにテーブルに並べた。

そこから二枚のカードを選ぶのだが、

ここで一つの重要な決まりが存在する。

それは選んだカードは必ず両手の

薬指で引かなければならないということだ。

薬指は古の時代より血と契約の象徴であり、

婚姻を結んだ男女がお互いの左手の薬指に

指輪を嵌めるのもそれが起源とされている。

故にこういった占いや儀式においては、

何かと薬指を使うことが多いのである。

そして、シャルルは二枚のカードを引くと

一枚だけカードの向きを変えて、

サーがそれらを同時にひっくり返す。


「えーっと、出たのは魔力と罪人で

罪人の方が逆位置だから、

この二枚が暗示しているのは……。」


このカード占いの面白いところは、

任意で変えたカードの向きによって

その意味が大きく変化することだ。

引いたカードの向きを変えないのか、

片方だけ変えるのか、両方変えるのか。

たった21枚のカードであっても、

たくさんの可能性があり、未来がある。

今回シャルルが引いたカードは、魔力と罪人。

ただし罪人の向きが逆さまになっているので、

それに応じた意味を暗示することになる。


「『あなたの努力は決して報われない。

しかし、理性を保ち、不屈の魂で時間を重ねれば

いつかその時があなたを救うだろう』…ですって!」


なるほど。占いらしい答えだ。

具体的なことは何も言わず、

僅かな限定性を帯びている。

しかし、この結果を引き寄せたのが

シャルルというのが面白いところだろう。

彼女は普段から積極的に私に詰め寄り、

その度にあしらわれている。

努力というには少し違うだろうが、

主とメイドである以前に私たちは女同士だ。

彼女が抱く想いの全てに

応えてあげることは私にはできない。

それが報われないということだろう。

なんともシャルルらしい結果だ。


「私にはよく分かりませんが、

今のまま不屈の精神で頑張り続けていれば、

いつか夢が叶うという意味ですね!」


「頑張ってね。」


「はい!」


シャルルの夢というのが何なのか。

私には知る由もないが、

これからの彼女に何ら影響はない。

今まで通りの彼女であるはずだ。


「では次はお嬢様を占いましょう。」


引いたカードを元に戻して

シャルルはカードの束を切ると、

それをテーブルの上に並べた。

こういった占いをするのは

初めてではないのだが、

私は少し緊張してしまう。

私の魔力がいつ目覚めるのかを

過去に占ってもらったことがあるが、

今までは胡散臭い道化のような占い師や

頭のネジが外れた宣教師のような

信じ難い者ばかりだったため、

最初から最後まで彼らの言葉を聞かなかった。

しかし、今日の占いはあくまで気楽なものだ。

当たっていても外れていても、

その結果は大して重要ではない。

だから私はあまり考えずにカードを引いた。

カードの向きを変えるかどうかだが、

私はどちらの向きも変えなかった。


「出たカードは道と塔、

どちらも正の位置なので……。」


出たカードの意味を探して、

シャルルは本に目を走らせる。

やっと見つけたその結果を読んで

シャルルは少し頭を捻っていたが、

やがてそれを読み上げてくれた。


「『あなたの選択はとても慈悲深いが、

その結果として大きな災いが訪れるであろう。

後悔のない選択をした時、あなたは後悔する。』

……えっと、どういう意味でしょうか…。」


後悔のない選択をした時に後悔するとは、

いくら占いの結果と言えど含みが多すぎる。

ただ、それが私の運命だというのなら、

遠くない未来にそのような事態になるのだろう。

後悔するなんてことは生きている限り

誰にでも起こりうる当たり前のことで、

避けて通ることなんてできない。

しかし、それでも自分が後悔しないように

いつも最善を尽くすことはできる。

そして、私はいつもそうしているつもりだ。

後悔するというのなら、

魔力を持たずに産まれた時から

ずっと後悔しているといってもいい。

それでも私が今を生きているのは、

死んだ時に悔いが残らなければいいと

心から願っているからである。

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