第69話 まさか
「いやぁぁぁぁぁん! 勇者さまぁぁぁぁん!!」
数日後、武闘家のアムールが故郷から一時的に戻ってきた。
勇者が重症だと聞いて、心配になって見舞いに来たのだ。
「体が腫れた上に、所々〔紫色〕じゃない!!
こんなになるまで頑張ったのね!!」
「これでも、かなり腫れは引いたんだ。
色も、ずいぶんと薄くなった」
「そうなの? 良くなってきてるのね?」
武闘家は、勇者の回復を心から喜んだ。
「ところで、アイビーちゃんと魔法使いの美人さんは?
買い物にでも出かけてるの?」
勇者は回復するのに時間がかかると聞いて、占い師が、宿屋ではなく一軒家を借りていた。
だが、そこに雑用係と魔法使いの姿はなかった。
「エスメラルダは……俺に愛想つかせて出て行った。
雑用は怠けてばかりだから、追放した」
「え゛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?
アイビーちゃん、とても頑張ってたわよ!?
しかも、ものすごく強いのに追放したの!?」
武闘家が、声をひっくり返して驚くから勇者は何事かと驚いた。
「あの子、マクラフィッシュを〔一突き〕で倒すのよ!?」
「いや、マクラフィッシュは、こどもでも倒せ_____」
「バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ!!」
「おい、そりゃ言い過ぎだぞ? 過保護にも、ほどが______」
「あの子はねぇ、あの子はねぇ……。
30匹のマクラフィッシュを、〔一突き〕で倒すのよ!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!?!?!?!?」
勇者は驚いた。
30匹ものマクラフィッシュを〔一突き〕で倒すなんて、聞いたことがなかった。
マクラフィッシュは一度に三匹ぐらいまでしか現れないのが普通だからだ。
(あれ?
そういえば【灰色ドシニア】から逃げるとき、川でたくさんのマクラフィッシュを見たな……)
「んっもう!! なに驚いてんのよぅ!!
アイビーちゃんは、勇者さまにおしえてもらったって言ってたわよ! あなたが教えたんでしょ?」
「……なに、言ってんだよ……俺には、そんなことできねえよ。まず、物理的にムリだろ〔一突き〕なんて……」
______聞きましたよ! マクラフィッシュを〔一突き〕だって!!
雑用係を追い出したあと、町で言われた言葉。
嫌味だと思っていたが、そうではなかった。
彼らは、心から勇者を称えていたのだ。
_____【ブラック・アイベックス】や【ユニオンスライム】は、相手をする気にもなれないザコなんでしょ?
(まさか……まさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさか!!)
今まで想像すらしなかったことが、頭をよぎる。
____こんなに強い勇者さまなら、その雑用係が強いのも頷けるってもんです。
雷が落ちる剣を俺たちは見______
(あいつら、なんて言ってた? 雑用係が強い?
なにか〔見た〕と言ってた……〔雷が落ちる剣〕って何だ!?)
「じいさん! ちょっと来てくれ!!」
勇者は、占い師を呼んだ。
占い師は、台所でヒーラーが昼食を作っているのを手伝っていた手を止めて、すぐに勇者のいる部屋に来た。
「雑用係は…………本当に強いのか?」
「うむ。アイビーちゃんは強い。
ワシの微弱なサポートでも、ユニオンスライムを倒せるほどじゃ」
占い師のサポートはたかが知れている。
占う以外は一般人に毛が生えたぐらいのステータスで、戦いに参加するしかない。
もはや、ほぼ一般人。
そんなサポートで、ユニオンスライムを倒すなんて驚きだった。
もしも一般人のサポートで、ユニオンスライムを倒せと言われたら____想像しただけで、そんなことを言う人物に殺意が湧いてくる。
無理だ。
「ほぉらぁ! ね? アイビーちゃんは強いのよ?
帰って来てもらいなさいよ!!」
「しかし____」
「気まずいのはわかるけど、戦力って大事でしょ?
美人さんがいないんだから。
“渡した給料分だけでも働いてくれ”って頼めば帰って来るわよ。
あとは冒険しながら信頼を取り戻すのよ!!」
「でも……」
「でもじゃないわよ!
お願いが無理なら、契約の力で帰ってきてもらうしかないじゃない!!」
「……だ」
「は!?」
「だから、…………いん……だ」
「何、ボソボソ言ってんの!?」
「だから、給料払ってないんだ!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁっ?????????」
***
「アイビーが、勇者のダンジョン攻略の拠点である山小屋を壊したことに怒っているようだ」
「……ごめんね…………お父ちゃん……私のせいで村が見捨てられたんだね」
「謝ることはない。
こんなクソッタレの国はこっちから捨ててやる!」
そう言って、お父ちゃんは王宮からの手紙をクシャクシャに握りつぶした。




