第68話 見捨てられたようです
下を見ると、みんなが喜んでくれていた。
村のみんなを、絶対守る!
そう思ったとき、何かが視界に入った。
仲間の少し下を飛んでいたから、直撃を免れた【ガーゴイル】。
その個体はフラフラと下降して、村を囲む高い壁に止まり、石になった。
「まるで、石像みたい……」
(そういえば【テンジン卿】は「どこかの冒険者が【ガーゴイル】の巣を攻撃したから______」と言っていた)
住処を追われたんだよね……。
この村のあたりの石が良いらし……。
たぶん、石像になることで回復している……。
「……ねぇ、フェン…………交渉って出来るかな?」
「ウォ?」
「村の人を傷つけないと約束してくれたなら、共存できるんじゃないかな?
この辺りの石が居心地良いんでしょ?
ちょっと、村のみんなに聞いてくるから、『待ってて』って伝えてくれる?」
「ウォウォ、ウォ、ウォン!」
【ガーゴイル】に「ちょっと待って」と伝えてもらったつもりなのに、残った【ガーゴイル】たちが村の外壁に次々降り立ち、石になっていった。
まるで、外壁の飾りみたい。
回復しながら、待つつもりなのかもしれないから、気にせず村のみんなに相談しに行くと「村人を攻撃しない」という約束で受け入れることになった。
この日の夜は、村のみんなでお祭り騒ぎだった。
「【ガーゴイル】の心配がなくなった!!」
「村に外壁が出来てから、魔物の心配もなくなった!!」
「これも全て、アイビーちゃんのおかげね!!」
「ありがとう! アイビー!!」
「お前は、この村の誇りじゃ!!」
次の日、王宮から手紙が届いた。
お父ちゃんが受け取り、中を確認するとクシャクシャにしてしまった。
「お父ちゃん? なんて書いてあったの?」
「【ガーゴイル】が村を襲う根拠がないから、援軍を出せないと書いてあった」
「でも、【ガーゴイル】と共存することになったし、問題ないんじゃない?」
「それは、アイビーとフェンがいたから解決しただけで、お前たちがいなければ村は全滅していた。
わかるか?
…………国は、〔ペラルゴニウム村〕を見捨てたんだ!!」
***
「……シクシクシク」
誰かの泣き声が聞こえる。
そう思うが、勇者は目を開けることができなかった。
たくさんの【灰色ドシニア】から受けた毒で顔が腫れあがり、瞼が動かないのだ。
しかし、本人は気づかない。
毒で意識が朦朧として、考えることができなかった。
ただただ、身体が重い。
「もう、元の姿には戻れないんですって……」
泣いているのはエスメラルダのようだった。
「毎日、献立を一生懸命考えて作り上げた、頼もしく美しい体の見る影もない……」
勇者の体は、顔だけでなく体全体が腫れあがっていた。
まだらに紫色に変色している。
暗い雰囲気の漂う部屋に、ヒーラーが勢いよく入って来た。
「エスメラルダさん!
もうすぐ教会の神父様が到着します!!
ガイツさんの毒を消してもらえますよ!!」
「……毒が消えたところで、完全に元の姿には戻らないでしょ?」
「それはそうでしょうけど、普通の生活はできるようになります!」
「普通じゃダメなのよ!!
せっかく、時間をかけて作り上げた美しい体なのに!!
こんなことになるなんて!!」
エスメラルダは椅子から立ち上がり、ドアの方に向かった。
「……さよなら……私のイケメン______」
次に、勇者が目覚めた時、エスメラルダの姿はなかった。




