第56話 【テンジン卿】が言ってた魔物
言い方がちょっとキツくても、何だかんだで勇者さまは優しいなと思いながら眠りにつくと、外から変な音が聞こえた。
「ザッ、ザザッ。ザザザザ。ズズズッ。ザッザッ」
巨大な何かが動く音。
歩いているような、引きずるようなザラザラした音。
二日間、夜に魔物が出なかったので、緊張する。
たぶんフェンがいるから、魔物が出なくなってた。
なのに、また現れたということは、フェンの強さも気にしない魔物か、魔獣!
「身体強化!!」
わたしは〔シーガルスホルムの剣〕を握り、部屋をとび出した。
フェンも元気についてくる。
山小屋の結界の外に出て辺りを見渡すと、川のある方角から全身が黒い羽毛で覆われている巨大な鳥が歩いてきていた。
“黒い”と言っても真っ黒ではなくて、顔の下半分は白だし、羽も横一直線に色が薄い所がある。
大きさは山小屋の三階に届きそうなぐらい。
〔鳥〕としては、とても多きい。
「ギャウギャウギャウギャウ」
何か文句を言っているみたいに見えた。
____マクラフィッシュを枕にする魔物が川の上流にいるから、気をつけたまえ
なぜか、前に【テンジン卿】が言っていたことを思いだした。
たぶん、この鳥のこと。
そんな予感がする。
「この〔黒い鳥〕が、〔マクラフィッシュ〕を枕にしている魔物?」
フェンが「当たり」と言っているかのように、「ウォン」と答えた。
それを聞いて、〔黒い鳥〕が羽ばたき、こっちに何かを吐き出してきた。
「ギュウワッ!!」
何か大きな物体が凄い速さ飛んできて、対応が間に合わない!
両手で防ごうとすると、わたしの前にフェンが飛び出して、叩き落してくれた。
落ちたソレは、「ビチビチ」と跳ねている。
(え、コレ、〔黒い鳥〕が吐き出したものだよね? 生きてるの?)
何より、驚いたのは、吐き出された《《ソレ》》を知っていることだった。
「コレ、マクラフィッシュじゃないの!!」
川で洗濯するたびに会うマクラフィッシュ。
毎日のように見るマクラフィッシュ。
「枕のような形の魚の魔物を、丸のみしてたの!?」
枕にするぐらい仲がいいマクラフィッシュの仇を打ちにきたの?
いや、そうでもなさそう。
だって、普通は友達を飲み込まないし、吐き出して攻撃するなんて、もってのほかよ。
「好き勝手できるマクラフィッシュの量が減ったから、八つ当たりに来たのね?」
「ギュウワッ、ギュウワッ!」
「ワガママなガキ大将みたいなヤツね!
フェン! 行くわよ!! 遠慮はいらないわ!!」
「ウォン!」
返事をしたあと、フェンは体を本来の大きさに変えた。
背中の黒い模様は、黒い翼になった。
「……ギュウワワッ!!!!」
〔黒い鳥〕が、ものすごく驚いた顔をした。
フェンが【漆黒の羽交いフェンリル】だとは思わなかったみたい。
慌てて、たくさんマクラフィッシュを吐き出してきた。
それをシッポでなぎ払うフェン。
その隙に、わたしは〔シーガルスホルムの剣〕を〔黒い鳥〕に突き立てた。
雷が、わたしと〔黒い鳥〕に落ちる。
「ギュウワッワワワワワワワワワワワワワワワワッワワ!!」
わたしは〔身体強化〕をかけているので、何ともない。
一方、〔黒い鳥〕は剣と雷が致命傷となり、魔石に変わった。
魔石を拾うと、どこからか笑い声が聞こえてきた。
聞いたことのある、大人の男性の声。
「ははははははははは!! 強くなったな。面白き娘よ」
黒く長い髪。
白い肌。
金色の瞳。
空から現れたのは、【テンジン卿】だった。
お読みくださりありがとうございました。
次回は、08/10(月)までを目標に投稿したいと思います。
夏休みの牛乳チャレンジでアイスクリームを作りました。写真はXに投稿しました。




