第45話 ズルイ、ズルイ
「……やった__________」
「クゥンクゥン……」
フェンが駆け寄ってきて、頬ずりをしてくれた。
かわいい!
嬉しい!
だけど、フェンはデカイので、よろめいてしまう。
「うわぁ!! ……っとととと。
うふふふふ。
手加減してよフェンったら!」
フェンの首に抱きついて抗議する。
まだ毛は濡れてるけど、抱きつくと温かい。
そこへ、【ミクマリ卿】が後ろから抱きついてきた。
「やったのぅ! 小娘!!
お主、なかなかやるではないか!!」
「うわぁ! ミクマリ卿!! 濡れますよ?」
わたしもフェンも濡れてるから、くっつかない方がいいと言っても【ミクマリ卿】は全く気にしてないようだった。
この人……魔族だけど、実はいい人なのかな?
王妃様に呼び出されたのに王子暗殺の指示に従わなかったし、みんなを傷つけないように戦ってくれた。
「わしのことは〔ミクちゃん〕でよい。
お主の名前は何じゃ?」
「アイビーです」
「ふむ。アイビーよ、敬語もいらん」
「え……でも__________」
【ミクマリ卿】って、きっとスゴイ魔族だよね?
ため口は恐れ多いというか、申し訳ないというか、なんか躊躇われる。
「一緒に戦った仲ではないか!
それに、漆黒には、ため口じゃろ?
ヤツには、タメ口なのはズルイ」
「わかったよ……ミクちゃん」
そう答えると、ミクちゃんが「ぎゅぅぅ」っと、さらに強く抱きついてきた。
「ふふふ。
いくつになっても、友ができるのは嬉しいのぅ」
「ウォンウォン!」
「おぉ!! お主も、そう思うか。漆黒の!」
「うぅ。ミクちゃんだけフェンと話せるのズルイ」
同じ魔族なんだろうし、つき合いも長いんだろうけど、フェンと会話できるの羨ましい。
できることなら、わたしもお話したい。
「おぅおぅ。言われとるで? 漆黒の!
アイビーとも話をしちゃれい」
「え? できるの?」
「今日は満月じゃからのぅ」
予想外の返事にビックリした。
わたしも、フェンと話せる!
「満月の夜に、人間が狼に変身する〔オオカミ男〕を知っとるかの?」
「昔話で聞いたことがあるよ」
「〔フェンリル〕は、その逆。
満月の夜に、人間になることができる」
「〔力〕が半減するから、戦闘向きではないがな」
低い男性の声。
わたしより、明らかに年上の大人。
【ユニオンスライム】より大きなフェンに抱きついていたはずなのに、気が付くと知らない男性に抱きついていた。
「フェン……?」
キレイな銀色の髪。
線は細いけどガッシリとした体。
勇者さまより大人に見えるこの人が?
「……フェン!?」
「そうだ。
今日は舞踏会でおいしいものをたくさん食べる予定だったのに、残念だったな」
ポンポンとこどもをあやすように頭をなでられた。
待って待って待って。
頭が混乱する。
今まで、わたしがフェンをかわいがっているつもりだったのに、実は、わたしがフェンに可愛がられてた!?
「俺も城で出されるスイーツに期待していたのだが、残念だ」
「……フェンは甘いものが好きなの?」
「そうだ。
ダンジョンは甘いモノがないから抜け出してきた。
そしたら、アイビーが甘いモノをくれた」
「コイツが魔王様の言うこと聞くようになったのだって、〔キビダンゴ〕というスイーツをもらったからじゃ」
「ミクマリだって、甘いモノ好きだろう?」
「おぉ! 甘いモノは、えぇのぅ。
王子に言ったら、暗殺を阻止した褒美に甘いモノをくれるかの?」
ミクちゃんの提案に、みんなで笑った。
平和っていいね。
人間とか魔族とか、敵対する間柄なんて関係なく一緒に笑えるのは素晴らしいことだと思った。
目の前には外壁が壊れたお城が見える。
崩れた壁から、瓦礫の散らばったパーティー会場が見えた。
会場には誰もいない。
フィリアさんのおかげで皆が避難できて良かった。
(ん? フィリアさん?)
そういえば、フィリアさんはどこに行ったんだろう?
戦う前に〔身体強化〕をかけてくれたから、外には出ている。
ソラル王子もいない。
(ミクちゃんの水の魔法で流されたんだわ!!)
どうしよう!?
すっかり忘れてた!!
王子は無事かな!?




