第43話 どれを選ぶ?
「……どうした?
私を、それで殴るんじゃないのか?」
黒いローブの魔法使いたちに城壁からおろしてもらいながら、王妃様がこちらを見た。
今なら、チャンスなんだけど……水に流されて、弱っているところを殴ったら死んじゃうよね?
「あ、は、はぁ~ん?」
ニヤリと王妃様が笑う。
わたしが考えていることを見透かしているような、嫌な笑顔。
「お前、木の枝で殴ると、私が死ぬと思っているな?」
見事に言い当てられて、言葉も出ない。
「そうだなぁ。
太い枝だものなぁ?」
王妃様のドレスは所々やぶれた上に、びちゃびちゃになって体にはりついている。
それがやけに色っぽかった。
「お前は愚かだな。
守りたいものがあるなら、人殺しなど、ためらっていてはいけない。
私は息子のために、ソラル王子を殺せるぞ?」
地面におり、ゆっくりとこちらに進んでくる。
「あぁ、かわいそうに!
お前のせいで、あの銀色狼は死ぬのかぁ。
羽が生えて、あきらかに希少種なのに、お前のせいで絶滅だな。
でも、人殺しは怖いよなぁ?」
ニタニタ笑いながら、わたしの顔を覗き込むように歩くのが不気味だった。
「それで殴れば、「私を殺した」という確かな手ごたえが、木の枝を伝ってくるぞ?
その感触は気持ちのいいものではない。
罪の意識に苛まれて、これから先、何年も、何十年も、悪夢を見るようになる」
王妃様に言われ、殴った時のことを想像してしまう。
わたしが強い魔物と戦うようになったのは最近で、人とは戦ったことがない。
力加減が全くわからない。
失敗したら、殺してしまう。
その時の手ごたえは、決していいものではない。
「お前は【王妃殺し】で牢屋に入る!!
私がソラルを殺そうとしたのは、ここにいる者しか知らない!
舞踏会に参加した者たちは、わけもわからず逃げただけ。
事実を告げられても、国民は理解できず怒りの声を上げるだろうから、お前が牢屋に入るのは必須!!
じゃぁ、殴らなかったら?
目の前で、銀色狼が、私の【アッフェクトゥス・オーロックス】に殺されるだけ。
どちらを選んでも、銀色狼とはお別れだ!!」
ついに、王妃様は、わたしの目の前まで来た。
「あぁ! 寂しいなぁ!!
かわいい銀色狼はここで死ぬのだ!!
だが、お前は牢屋に入らなくて済むし、罪の意識に苛まれることもない。
ん?
おやおや、泣いているのか?」
王妃様は、イジワルだ。
イヤなことばかり想像させる。
涙が止まらなかった。
確かに、人殺しをする勇気がわたしにはない。
でも、フェンとお別れするのはイヤだ。
「ここは、こどもが出てくる所ではない。
さっさと、銀色狼を連れて家に帰りなさい」
王妃様は見逃してくれると言った。
(でも、それってソラル王子の暗殺を見逃せと言ってるんだよね?)
「_____王子さまを見殺しにするか……、殺してしまうかもしれないけど、王妃様を木で殴るか…………何もしないで、フェンを見殺しにするか…………」
「あははははははぁん。
悩むわねぇ?
あなたは、いったい、どれを選ぶのかしらぁ?」
わたしは涙を拭いて、木の枝を握りしめた。
そして、王妃様の視線をしっかり受ける。
目はそらさない!
「わたしは、あなたの提案する〔誰かが死ぬ選択〕なんてしない!
あの〔大きな牛〕は、わたしが倒す!!」




