第42話 〔死〕しか見えない
「ブモォォォォォォォォォォォォォォォォオォォォォォォォォォォ!!!!」
【アッフェクトゥス・オーロックス】が突進してくる。
まるで、山が突進してくるようだった。
「身体強化!」
フィリアさんが、この場にいた全員に〔身体強化〕をかけてくれた。
でも、それでも、どれだけ耐えれるかわからない。
今、死ぬか。
次の攻撃で死ぬか。
〔死〕しか見えない。
「【ミクマリ卿】! みんなを助けて!!」
思わず叫んだ。
王妃様の話では、とても強いようだった。
鵜呑みにしたわけじゃないけど、藁にも縋る思いだった。
「洪水!!」
【ミクマリ卿】が呪文を唱えると、大地が割れた。
お城の庭が、ぐちゃぐちゃ。
花壇が割かれ、土が盛り上がり、植木は大地の裂けめに落ちていく。
そして、大地の裂けめから、滝のような水が溢れだした。
【アッフェクトゥス・オーロックス】の叫び声を打ち消すほどの音をたてて、水が流れた。
「ぐぼぉっ!!」
殴られるように水に流され、流れの強さに、身動きが取れない。
水の流れるまま、身体がグルグル回る。
(これが、魔物同士の戦い!!
人間が入る余地もない______)
「ウオォォォォォォン!!」
フェンが、流されるわたしを咥えて、夜空を駆けあがった。
水に濡れたドレスが重い。
履きなれないヒールのある金色の靴も重く感じる。
「おぉ!
すまぬ、すまぬ。加減を考えておらなんだ」
「グルルルル!」
「まぁ、そう言うな。漆黒の。
あいつを止めるには、仕方なかったんじゃ。
【アッフェクトゥス・オーロックス】は、呼び出した者の感情に、そのまま左右される。
王妃は激怒しとるじゃろ?
あの執念深い怒りを受け、【アッフェクトゥス・オーロックス】は暴走モードで、ちょっとやそっとの攻撃じゃ止まらんのじゃ」
【ミクマリ卿】は、困った顔をした。
フェンは、咥えたわたしを「ブンッ」と振って、背中に乗せてくれた。
びしょびしょに濡れてても、さわり心地の良い毛だった。
「魔物なら、一撃なんじゃがのぅ。
あいつ、お主と一緒で、異常な瘴気を受けた【魔獣】じゃから、時間がかかるぞ」
「……み、【ミクマリ卿】。
わたし、長期戦は得意です」
「なんと! 小娘よ!!
お主も闘うというのか!!
ほんまに、根性のある娘じゃ」
フィリアさんが〔身体強化〕をかけてくれたから、まだ魔力は残ってる。
〔正義の光〕が二回は使えると思う。
少しでも戦力になりたかった。
「では、お主には、王妃を頼もうかの?
王妃が気絶でもすれば、【アッフェクトゥス・オーロックス】が今より大人しくなる。
わしは【漆黒の羽交い】と共に、【アッフェクトゥス・オーロックス】と戦う」
「ヴヴヴヴヴヴヴヴゥ」
「これ、これ、不満を言うな、漆黒の。
今日は満月じゃけ、あいつ暴れまくりじゃで?
早よ倒さんと死人が出るじゃろう?」
しぶしぶ納得した様子のフェンを確認して、【ミクマリ卿】は言った。
「終わったら、〔ウイロウ〕追加じゃで?」
「はい! 山小屋の倉庫に、いっぱいあります!!」
「ウォン♡」
フェンと【ミクマリ卿】が、【アッフェクトゥス・オーロックス】と戦いを始めた。
互いにぶつかり合い、お城の壁が崩れる。
「う~ぬ。
周りを傷つけず、人間に配慮するのは難しいのぅ」
「ウォンウォン!」
「そうじゃのう。ウイロウのために、がんばるかのう」
二人のためにも、早く王妃様を気絶させないといけない。
わたしは、重たいびしょびしょのドレスで走った。
意外にも王妃様は近くにいて、水に流されたあと、城壁の内側に引っかかったらしい。
黒いローブの魔法使いたちに、黒いドレスのほどけたレースの糸を城壁の石の飾りから外してもらっていた。
(よし! 王妃様を気絶させるぞ!!)
そう思って、【ミクマリ卿】の出した大量の水のせいで折れたと思われる〔木の枝〕を拾った。
そして、気づいた。
細い手足。
色白の肌。
(木で殴ったら、王妃様、死ぬんじゃないかな?)




