第36話 気にしない
「ソラル王子、お久しぶりです」
「久しぶりだね、フィリア殿。今日は来てくれて、ありがとう。
そちらのお嬢さんは?」
「彼女は、最近パーティーメンバーになった、アイビーさんです」
「チグマ王国、ペラルゴニウム村のアイビーです」
「僕は、マシロ王国の第一王子ソラル・パトリオタだよ。よろしくね」
そう言って王子さまは、わたしに右手を差し出した。
わたしも、そうっと右手を差し出すと、しっかりと握手してくれた。
手袋ごしに伝わる体温。
(すごい。握手しただけで、品の良さを感じる)
後ろでは「きゃぁ! いやぁ!!」とか「なんであの子が」とか、嫉妬の悲鳴が聞こえた。
王子様、大人気。
会場がざわついた。
結婚相手に選ばれたわけでもないのにね。
「アイビー殿は、勇者パーティーではどんなことを?」
「はい! わたしは雑用係です!!」
そう言うと、周りの人達が「なんだ雑用か」とささやきだした。
王子さまは、変わらず笑顔。
「〔雑用〕といっても、勇者パーティーの雑用は大変そうだね」
「そうなんです!
川にはマクラフィッシュがいるし、夜は大きなスライムも出るんです!!」
元気に答えたけど、周りの人たちは「なんだ弱い魔物じゃないか」と、囁きあってる。
あれ?
わたし、毎日がんばっているのに伝わらない!?
「たくさん出るんです……貝もいっぱいザザァッって______」
言ってて、だんだん自信がなくなってきた。
マクラフィッシュもスライムも弱い魔物だもの。
【灰色ドシニア】や【ブラック・アイベックス】はしょっちゅう出るわけじゃないし、掃除は最近やり始めたばかり。
ごはんは、エスメラルダさんが作る。
「あ、あと……買い出しも…………します」
周りからは、敵意を込めて品定めするような視線をあびせられる。
もしかして、胸を張れる仕事をしてないんじゃないかと思えてきた。
勇者さまにはいつも怒られるし、わたしはまだまだだ。
「そうです!
アイビーさんは、とってもがんばり屋さんで助かってます」
うつむいた時、フィリアさんが前に出た。
「レベルを上げて、一緒にダンジョンに行きたいと言ってくれるし、心強いんですよ」
その一言で、会場の空気が変わる。
「勇者パーティーメンバーのフィリア様に、“心強い”と言われるなんて!」
「実はあの子スゴイの!?」
「勇者さまと一緒にって、正気じゃないわ」
「勇者さまが向かう先って、つまり“世界で一番危険な所”じゃない」
「己を知らない子は、とんでもないことを言うわね」
敵意が薄らいだところで、王子さまが言った。
「もっと詳しく聞きたいから、僕と一緒に踊りながら話してくれるかい?」
周りの子が「きゃぁきゃぁ」悲鳴を上げたけど、もう気にならなかった。
知らない人たちの“機嫌”や“言葉”を気にするよりも、わたしを大事にしてくれる人たちの言葉に耳を傾けよう。
フィリアさんが「心強い」と言ってくれたことが、とても嬉しかった。
王子さまが、その言葉を信じて「もっと詳しく聞きたい」と興味を持ってくれたことも。
だから、わたしは「はい」と言って王子さまの手をとった。
***
そのころ、お城の裏庭にて。
暗闇に紛れて、怪しげな儀式を行う者たちがいた。
いったい何が入っているのかわからない〔汚れた水〕が入った壺。
それを、大きな魔法陣の前に置き、ブツブツと呪文を唱える黒いローブの男たち。
その様子を見守る、身分の高そうな女。
「第一王子の結婚相手探しなど、失敗に終わるがいいわ」
黒いドレスに黒いベール。
どす黒い口紅の彼女は、このマシロ王国の王妃だった。
「亡くなった前妻の息子に、王位など継がせない!
この国の次期国王になるのは、私の息子よ!!」




