第29話 暖炉に潜り込むのをやめようと思いました
「ぶぅふぁっ!」
飛び散る〔巨大なスライム〕を真正面から浴びて、おじいさんもわたしもびしょ濡れになった。
「……びしょびしょな上に…………こりゃ、寒いのぅ」
「こういう時は、暖炉の灰の中が温かくてオススメですが、今日はまだ早いのでお風呂がいいですね」
「え?
アイビーちゃんが、よく“灰かぶり”になっとるのは、まさか______」
「はい。
魔物と戦ってびしょ濡れになって寒いとき、温まるために灰の中に潜ります」
「つまり、ここのところ毎日じゃないか!
そんなに苦労しておったのか______」
「何やってんだ!!」
勇者さまが来た。
どうやら、スライムと戦っていた時のバタバタした音が気になったらしい。
「おぉ! 勇者殿!!
なんと、今、排水溝からスライムが次々と現れてのぅ______」
「スライム相手に、本気で戦って台所をこんなにしたのか!」
見れば台所は飛び散った〔巨大なスライム〕で、びちゃびちゃだった。
暗めの水色の液体が、天井に、壁に、流しに、食器棚に、床にと、色々な所に飛び散っていた。
「すみません」
「いや、待つんじゃ! アイビーちゃん!!
アイビーちゃんは悪くない。
台所にスライムが現れたことが問題じゃ。
勇者殿。
山小屋の結界は地上だけで、地下まで結界がないようじゃ。
これでは排水を使って魔物が______」
「なら、聖水でも撒いておけばいいだろ!
______ったく、そんなことにも気づけないのか」
勇者さまはブツブツ言いながら、二階の自分の部屋に帰って行った。
「すまんのぅ、アイビーちゃん。
勇者殿は強いから、弱い人のことがわからんで気が使えんのじゃ。
ん?
アイビーちゃんは弱くないのぅ。
さっきは見事な戦いぶりじゃった」
「ありがとうございます!
もっとレベルを上げて、一緒にダンジョンにも行けるようになって、お役に立ちたいです!!」
「アイビーちゃんは、えぇ子じゃのう。
しかし、無理はせんようにのぅ」
それから、おじいさんとわたしは台所をそうじして、順番にお風呂に入って、それぞれの部屋に戻った。
「疲れた~」
ベッドに倒れこむと、外から波の音がする。
耳心地の良い音だなぁ、癒される……って思ったけど、これはまさか!
「【灰色ドシニア】!!」
今夜もなの!?
わたしは飛び起きて、外に出た。
今回は、昨夜より楽に倒せた。
二回目となると戦い方もわかっているし、朝までかからなかった。
レベルだって、きっと上がってる。
だから早く倒せたのかも。
でも、また暖炉の灰に潜り込むことになったので、次の日の朝、勇者さまに怒られ、おじいさんは顔を青くしていた。
「アイビーちゃん! 無理はいかん!!
夜に魔物が出たら、みんなを起こすんじゃ!
それが無理なら、ワシにだけでも声をかけてくれ!!」
あまりに心配してくれるので、もう灰の中に潜り込むのはやめなければいけないと思った。
今度からもっと早く倒そう。
今日はみんなを見送ったあと、買い出しがるので町に行った。
ポーションと聖水を買わなければならない。
その前に、魔石の換金をしてもらわなくちゃ。
わたしは荷車を引いて、換金所によった。
「やぁ、お嬢ちゃん! また来たね」
「あの、魔石に土がついてても買い取ってもらえますか?」
あとで洗おうと思っていたけれど、そこまで手が回らなかった。
土がついているから、安くなってしまうかもしれないけれど仕方ない。
「あぁ、いいよ。どれかね?」
「店の外の、荷車に乗せてあります」
「?」
おじさんは不思議そうな顔をした。
「ちょっと、見てもらえますか?」
わたしは、おじさんに外の荷車を見てほしいとお願いした。
「あぁ、もしかして店のカウンターが汚れるのを心配してくれているのかね?
そんなの気にしなくても______」
店の外に出て、荷車を見て、換金所のおじさんは目を丸くした。
「う、おおお、おおおおぅ、おおおぉうぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぅ!!
国がぁぁぁぁぁぁ!
国が、国が、国が、国がひっくり返るぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉ!!!!」




