第16話 ザコなんかに負けません!
〔黒いヤギ〕がこちらを見て、鼻息を荒くしている。
(絶対わたしを殺る気だ!!)
わたしは〔シーガルスホルムの剣〕に隠れるように構えた。
〔黒いヤギ〕が、左の足で勢いよく地面を蹴り、突進してくる。
「ぐはっ!」
フィリアさんの〔身体強化〕のおかげで痛くはないけど、体当たりされた衝撃で肺の中の空気が強制的に出される。
これは、苦しい。
続いて、大きくカーブしている立派な角でわたしを刺そうとしてきた。
わたしは、剣に隠れようとするので精一杯。
やっぱり、余計なことをしようとするんじゃなかった。
勇者さまみたいに強くないんだから、わざわざ結界から出てようすを見ようとしなければよかった。
「スパァァン!!」
たまたま、わたしが持ってた剣が〔黒いヤギ〕の右の角にふれた。
そしたら、まるでケーキを切るときみたいに「すぅっ」と剣が角の中に入っていき、そのまま勢いよく抜けた。
なめらかに切れる感触が手に残って、何とも言えない気分になる。
「なに!? この切れ味!!
切れすぎて、怖い!! 怖いよぉぉぉぉぉ!!!!」
右の角を切り落とされて怒った〔黒いヤギ〕は、警戒しながら山を駆け、何度もわたしに体当たりをしてきた。
足の筋肉がしっかりついているから山の斜面を利用して飛び跳ね、生き生きと攻撃を仕掛けてくる。
そのたびに、体力を吸い取られていく感じがした。
きっと、草の生気を吸うように、わたしの体力も吸いっとっている。
(〔身体強化〕が切れるか体力がなくなったら、死んでしまう!)
死の予感に、幼いころのことを思い出した。
魔物に襲われ、火の海になった村。
戦う両親。
わたしだけ逃がそうとしてくれたこと。
一人で生きていかねばならないと思ったときの孤独感。
そして、それなら両親と共に死んだほうがいいと涙したこと。
そう。
本来なら、あの時、死んでいた。
でも、勇者さまが救ってくれた。
(勇者さまが救ってくれた命を、ムダにはしない!!)
ただ、勇者さまに憧れて〔雑用係〕になったんじゃない。
わたしと同じ思いをする人が少しでも減るように、何かしたかった。
でも、わたしは強くないから、勇者さまたちがダンジョンの攻略に専念できるように、お手伝いをすることにした。
「勇者さまが相手をする気にもならない〔ザコ〕なんかに負けない!!
お前を倒してレベルを上げる!!!!」
わたしは走った。
何度も体当たりで飛ばされて〔山小屋〕からは離れてしまったけど、この辺りの景色はよく知ってる。
(この先は川!!)
なぜ勇者さまのパンツだけ狙われるのか、不思議だった。
それは、パンツに何かついているわけでも何でもない。
形!!
形が問題だったのよ。
勇者さまのパンツは四角いトランクス。
ジージエおじいさんのパンツはブリーフ!
勇者さまのパンツだけが四角い!!
「マクラフィッシュは四角いものを見ると、同族だと思うんだわ!
そして!!」
河原に着いたわたしは、しゃがみこみ、足をスカートの中に隠した。
続いてエプロンを上にあげて上半身を隠し、川から見て四角になるようにした。
後ろから〔黒いヤギ〕が、突進して来る。
そして、わたしの体は宙をまった。
「同族が襲われていると判断したら、助けようとする!!」
だから、勇者さまのパンツに毎回食いついてきた。
わたしから助けようとして!
数十匹のマクラフィッシュが、次々とわたしの服をくわえて川の方に引っ張った。
それと同時に、他のマクラフィッシュが川から飛び上がり、わたしを中心に水柱が立つ。
守られている安心感。
そして、水柱の中心から少し曇った夜空を眺めながら、わたしは川に落ちた。
✽✽✽
「はははははは!」
テンジン卿は、戦いの様子を空から見ていた。
コウモリのような黒い羽を、優雅に広げている。
「勇者パーティが逃げるほどの敵をザコ扱い!
しかも、倒すと言っておきながら、逃げてザコの魔物に助けてもらっている!
本当に、面白き娘よ。」




