【テンジン卿】
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雑用係のアイビーが、自分の部屋に戻る少し前。
山小屋から西にある、白い石灰岩が点在する山の中。
そこにある、ダンジョンの入口に〔黒い影〕があった。
「マズイな。
私が連れてきたモノが、逃げ出そうとしているのか?」
テンジン卿は、木の上で〔月光浴〕をしているところだった。
人間が〔日光浴〕をするように、魔族は〔月光浴〕をする。
自分の領地から出て、せっかくキンタイ卿の領地まで来たのだから普段とは違う環境で月光を浴びて、旅を楽しもうとしていた。
「魔王様に怒られるから、連れ戻さねばならぬ」
木の上から軽やかに飛び降りて、〔黒い影〕の元に行く。
そこで、気づいた。
黒くて、バサバサの毛。
大きくカーブしている立派な角。
足の筋肉がしっかりついていて、ヤギにしては大きすぎる体。
「〔ブラック・アイベックス〕か」
自分が連れて来た魔物ではなくて、ホッとした。
テンジン卿が連れてきた魔物に角はない。
「確か、お前は昼間に勇者と戦ったと聞いた。
やり返しに行くのかな?
これは、面白そうだ」
魔物の活動時間は、夜。
昼は力が弱まる。
人間に有利な状態で、戦いを挑まれた。
今度はこちらが攻める番というわけだ。
面白そうなので、テンジン卿は〔ブラック・アイベックス〕についていくことにした。
夜の方が魔物は強い。
本来の強さを目にしたとき、勇者がどんな顔をするのか見てみたいと思った。
勇者の匂いをたどって、山の中を進んでいく〔ブラック・アイベックス〕の後を、テンジン卿は空を飛んで追いかけた。
テンジン卿の背中にコウモリのような黒い大きな羽があり、彼は移動の時は空を飛ぶ。
近い距離なら、翼を出さなくても飛べた。
(この先に、弱い結界がある)
〔ブラック・アイベックス〕を追っていると、山の中に弱い結界があるのを発見した。
レベルの低い魔物しか弾けないような、とても弱い結界だった。
(まさか、あれが勇者の拠点か?)
笑いがこみ上げてくる。
確かにこの辺りの魔物は弱い。
が、あまりにもバカにしてないかと思った。
ダンジョンから近すぎた。
これなら、夜にダンジョンから勇者の所まで臭いを辿るのが簡単すぎる。
夜もダンジョンの中で、魔物が大人しくしていると思っているのだろうかと不思議に思う。
しかも、この山は瘴気が濃いので、何かの拍子に魔物は変化して強くなる。きっと、ひと月も立たないうちに、あの結界は壊れるだろう。
結界なんて、無駄な努力だ。
「クックックックック」
テンジン卿が〔ブラック・アイベックス〕の邪魔をしないように笑いを抑えようとしていると、雨も降ってないのに雷鳴が轟き、大きな雷が落ちた。
見ると、木が真っ二つに裂けて黒焦げになっており、そこに女の子が剣を持って立っていた。
(あれは、川で見た〔面白き娘〕!!)
朝、川で見かけた彼女が手にしている剣は、血にまみれた蛇のような波紋があった。
(シーガルスホルムか!!)
〔シーガルスホルムの剣〕と名付けられた剣。
名前がついているということは、もちろん普通の剣ではない。
〔禍の剣〕とも呼ばれる黄金作りの剣は、殺傷能力がとても高いが故に神に嫌われ、抜くたびに〔神の怒り〕、すなわち〔雷〕が降り注ぐ。
「ほほう。
〔神の怒り〕を身に受けても、立っていられるのか」
普通の人間は、〔シーガルスホルムの剣〕を抜いた時の雷で死ぬか重症になる。
だが、まだ成人していないと思われるが、〔神の怒り〕に耐えた。
テンジン卿の胸が躍る。
ちょっと〔月光浴〕をしたら、ここより東の自分の領地に帰ろうと思っていたが、それどころではなくなった。
「面白い。
帰るのは、もう少しあとだ。
この戦いの行く末を見守らねば!」
切っ先には恐怖が宿ると言われるその剣を、娘はどのように使いこなすのか、テンジン卿は見てみたくなった。




