ある少女-6
『これは夢か、はたまた催眠の類か。眼が覚めたら知らない場所。赤い矢印に誘導され、この穴に入ってみれば、見せつけられたのは血肉の洪水と自分の死体。
あまりに非現実的な惨状に、脳はまともな反応を止めてしまったのか、嫌に冷静だ。尤も体は馬鹿正直に、震えと嘔吐を演じているが。しかし、それでも私は進むしか無いようだ。こんな物を見つけてしまっては。
そこにあったのは真っ赤な血文字。震えるような走り書き。
未来の私へ あなたはループしています。死ぬとやり直し。
二時五十分 轟音が鳴る、この穴に潜れ
音が止んだらすぐに出ろ、景色が変わる。白い奴を何とかしろ
三時二十分 には眼を抉られて殺される、それまでに
もし私が穴の外で、眼だけを抉られて死んでいたら
立ち向かってはいけない。ほかの方法を考えて
今はここまで どうか生き延びて 憂より
現在二時四十二分。後八分で何かが起こるということか。
それにしても、眼を抉られるというのは、恐ろしいことをさらりと言うものだ。後ろに転がる悲惨な死体を一瞥する。ループするにしても死に方くらいは選びたい。
今の私がループしているという事を自覚していないという事は、死ぬと記憶を消されるという事だ。
つまりこれは所謂生きるための情報掲示板。ここを活動の拠点として、新しい情報が分かり次第書き込む。そしてこれを信じて行動する以上、最も大切な事は、「誤った情報を書かない」という事。
もちろん私自身がそうするのは当然だが、気になるのはこの「白い奴」。こいつに限らず、この世界にどうやら第三者がいる以上、それにここを見つかり消されたら、いや、誤った情報を書き加えられたのでは堪らない。早いうちに何か対策を講じなくては。
血文字を指でなぞる。血液は完全に乾燥して硬化しており、指に付着することは無い。爪を立て擦るとガリガリと粉が散った。せめて書けるものがあれば良かった。この様子では新しく書き込むのも難儀しそうだ。
轟音が鳴り響く。時間が来たようだ。
あなたかあなたか解からないけど信じるよ、過去の私。二つの死体を一瞥し、身を低くした。
私は生き延びて見せる。例え何回死ぬことになろうとも。
……駄目だ。やはり本物でなければ満たされることは無い。』




