[メス]
速いタイピング音が聞こえる。
手を痛そうに眼を閉じている女。
手には包帯が巻いてあり、パソコンには資料制作画面が出ている。
解剖の際にやけどを負った助手だ。
「いたたたた...」
火傷のあとがまだ痛む。
助手は肩をグルグル回し、目が痛くなるほどの資料画面を眠そうに見つめる。
「あと2ページ...頑張んないと...」
もう一度指をキーボードに置いた。
そのとき腕を再度助手は見つめた。
何も異変は見当たらない。
内部からつつかれる感覚。
どこかおかしい。
「...?」
パソコンの奥にはガラス越しにブラッドカウントの死体を顕微鏡で見ている職員らが見える。
助手は不思議な表情をする。
そして再度パソコン画面を見つめ作業を開始した。
「大丈夫?」
ライルは固まってナイリーを見つめていた。
顔は涙で濡れては泥まみれ。
しわくちゃな顔を見てナイリーは首をかしげる。
「...僕の事を覚えているのか...?」
「当たり前じゃない。じゃなかったら泣いている見知らぬ人に話しかけている変人じゃない」
ナイリーは表情を険しくしてため息をついた。
「あなた...何かあったのかと思ったら...何もないの?」
「え...いや...」
まどろっこしい会話にライルは慌てる。
手の泥を落とし、後ろのビルの壁によっかかって上を向きながら言い始めた。
「...ナイリーは最近のネオシティーの...世間?いや...状況をどう思う?」
「どう思う?...最悪の2文字くらい...」
ライルは頭を抱えて言い続ける。
「あれは...僕のせいじゃないのかって...思うんだ...」
「...何よそれ。逆あの化け物とあなた、戦っていたヒーローじゃないの?」
ライルの中で一瞬時が止まった。
なぜナイリーがそのことを知っている?
「...何で知っているの...」
「テレビよ。テレビで化け物関連のニュースが流れてきたとき映像が流れて...そこにあなたがいたわけよ」
ライルは悔しそうにしながら言い続ける。
「くそ...僕はあの時戦ったよ...どういう状況でかは言えないけど...仕事でも怒られるし...僕が化け物を興奮させて被害が広がった可能性だってある...」
「呆れるわ」
「え」
ナイリーの言葉に思わず目が覚めた。
ライルは弱虫で情けない。
そんな人だとナイリーの心にライルの印象がつく。
「あなた...悪いけど馬鹿よ...仕事に怒られて被害が拡大したかも?自分は戦ったのにね。凄いね凄いね」
そう言うとナイリーは後ろを向いて歩き出した。
ライルはただじっとナイリーの後ろ姿を眺めているだけだった。
弱虫は、ただじっと。
静かな廊下に足音が響き渡る。
エコーで廊下全体に広がる音はどんどんウェイドの元へ近づいてくる。
[我々に自由を!]
ウェイドは窓から市民の集まりを見ていた。
声が嫌なほど心に刺さる。
「はぁ...」
立ちながら後ろを見て、机の資料らを眺める。
「混乱もこれ以上になる...か...」
ドアが開いた。
ウェイドは咄嗟に後ろを向きドアを開けた人物を睨みつけた。
助手だ。
職員と分かるとウェイドはいつものようにふるまい始めた。
「なんだいヘンバース君。手は大丈夫か?」
返事はない。
顔色がかなり悪く、ふらふらと立っている。
包帯には血がついていて、白い包帯は赤い包帯へと様変わりしていた。
「...血か?」
そう言った瞬間ヘンバースは手を出した。
複数の資料を手に持ちながら。
「...?写真?」
ウェイドはヘンバースが持っている写真を手に取り、眉を潜めて見始めた。
「ブラッドカウントの...でかい弾か?前も見たぞ?」
ウェイドはもう一枚の資料を手に取った。
するとウェイドは目を大きく開けたまま固まってしまった。
殴り書きされた音符の中。
一つの刻まれた文字がくっきりと見えた。
拡大した画像であり、画質は荒いがそれが恐怖感を煽らせる。
「これは...」
ウェイドは写真を見つめて文字を読み始めた。
「S...cr...a...pp...y?」
ウェイドは英単語をつなぎ合わせて、言い放った。
「SCRAPPY?」
2人しかいない空間は無限に感じる。
新たなる脅威に対してウェイドは寒気がした。
咄嗟に顔を上げ、ヘンバースに尋ねた。
「これはいったーーーーー
銃口が目に入った。
肉片が固まった、銃口。
時は止まり一気に空間は静まり返る。
思いっきり銃口は光り、とてつもない音が響き渡った。
スローモーションで倒れる人影。
人影は頭が破裂し、血が窓に飛びつく。
脳細胞、血管。
すべての頭の部位が辺りに転がる。
人影...ウェイドはその場で倒れ、血を出しながら静かにしている。
ヘンバースの手はブラッドカウントそのものだ。
ヘンバースは肉片をつまみ、思いっきりひねった。
その瞬間辺りは光に包まれ、大きな音と共に本部にヒビが入る。
本部は煙をたてながら思いっきり崩れた。
崩れたがれきからは研究員の死体や首無し胴体が転がり落ちる。
光はやむことなくどんどん大きく唸る。
[おい!おい!]
[どうしたんだよクレイド...]
アドナスは眠そうにリアリティーで会話をする。
[本部の方角を見ろ!]
「本部の方角...あ...」
ライルは立ちながら固まっていた。
本部の方をみて、あり得ない顔をしながら。
「なんだよあれ...」
光の中から現れた一つの砲台。
でかい砲台は体中に。
血管は体全身に浮き上がり肉片が鞭のように体にくっついている。
身長は成人男性4人分くらい。
手、頭は砲台で構成されている。
咆哮をあげる
「222222222222222222222222222222222222222222222222222222!!!」
ブラッドカウントのメスだ。
咆哮はネオシティー全体に響き渡り、夜の空を音が走り抜ける。
ハンターらは絶望の表情で、メスを見つめていた。
「14765938599!!!!!!!!!」




