[隠すか、現るるか、白日の下にさらすか](新ep41)
「この行動はどういったことかねライル」
ウェイドの重々しい声がライルの心を突き刺す。
「え...その...被害の拡大をなるべく止めるため...」
「違う。覚醒アプリは何で使わなかったのだ」
手を組んで机に座っているウェイドを見てライルは怖気づく。
「覚醒アプリが無かったからです...他のアプリで戦うしか...」
「覚醒アプリがない...か...」
ウェイドは言うと深くため息をついた。
何度か咳をし、ライルを見つめて言い始める。
「良いかライル。あんな派手な...というか...無鉄砲な動きをしたらなぁ...」
「無鉄砲...」
呆れて何も言えないようなウェイドを見てライルはクレイドを思い出した。
自分でもわかっている無鉄砲さは、長所でもあり短所でもある。
ライルはしみじみとその自分の癖を恨んだ。
「あのな...良いか...もうアホみたいなことはするな。決してな」
「はい...」
ライルは頷くと静かに部屋を後にした。
ウェイドの後ろで雷の音が鳴り響く。
そしてウェイドはゆっくりと後ろを見つめるのであった。
ドアを叩く音が聞こえた。
ウェイドは振り返ってドアを見ると、ひとりの職員がいた。
「失礼します。今回の件で...少々お話が...」
「後にしてくれ...助手のヘンバース君はどうなったんだ?」
ウェイドは椅子の上に手を置き、クルクルと回っている。
外はすっかり真っ暗でビルの光がウェイドを照らす。
[今週の天気は雨が...]
「医務室で現在治療中です。軽度の火傷であると医師が言っておりましたので、消毒を少しやってからの様子見でしょう」
ウェイドはしばらく固まってから男の肩を叩いて口を開いた。
「そうか。良かった」
男はウェイドの行動が少し変だと気付く。
男は少し躊躇ってウェイドに聞いた。
「...どうしましたか?」
「ん?」
ウェイドは無理やり作った笑顔で男の方に振り向く。
男は何回か咳をしてから言った。
「元気...無さそうですね」
「...」
ウェイドは黙り込んで少しその場で下を向いたまま黙ってしまった。
[以上、天気予報のコーナーでした。次は最近話題のあの事件...]
テレビから聞こえる音声に気付きウェイドはゆっくりとテレビを見上げた。
男は少し口を曲げて何も言えず気まずそうに立っている。
[「僕のお兄ちゃんは死んだよ。マンションに住んでいたんだ」「彼の事?彼は私の夫よ。目の前で...体が粉々に...」]
テレビには様々な人たちが写真や看板を持って集まっている様子が映っていた。
人の写真やメッセージボード。ラクガキのようなものも。
[「我慢の限界だ。この腐りきった世の中で何もしない肩書だけのニートたちにはうんざりだ!」
「我々に平和を!自由を!」
このように、世間は混乱に包まれています。この事件の背景には...]
男は目をパチパチさせながらウェイドを覗き込んだ。
ウェイドはどこかを集中して見続けている。
[謎の怪物とは...また、その怪物の正体は...]
テレビ画面の中。
ラクガキのような文字のメッセージカード。
"Freedom for us! And death to the government!"
[世間では怪物に関して、政府が何も発表していない点や、対策を取っているといった発言から、隠蔽していたのではないかとの推測が出ています。また...]
テレビの音声は永遠に続くように感じられた。
ウェイドはため息をつきながら再度座り込んだ。
「...私の責任だよ」
「え...」
男はウェイドの言葉に動揺する。
「私が何かと慌てたんだ。民間人にバグの存在を知られないために隠蔽しようとして慌てさせたんだ」
「それは大事なことですよ。隠蔽していなかったらどうなっていー...」
「汚い隠蔽だ。市民の安全を考えると言っておきながら混乱に落とさせている」
「...」
ウェイドは再度テレビの画面を見つめてため息をつく。
そして小声で呟いた。
「...Freedom for us! And death to the government!...ね...その通りだよ」
男はウェイドの声を聴こうと近づいたがウェイドの様子を見て静かに部屋を去っていた。
部屋ではウェイドが下を向きながら椅子を回していた。
「...公表するしか...道はないぞ...」
「...」
ドア越しに聞こえるニュースの音とウェイドの声が重なる。
ライルは目を大きくして手で顔を押さえる。
「お...俺のせい...なのか...?」
「我々に平和を!!」
「我々に平和を!!」
ライルは雨に当たりながら走っていく。
だが大勢の声にライルは耳が痛くなった。
「くそ...あいつらうるせえな...」
走るたびに水しぶきがライルにつく。
水は透明感が無く、どこかにごったようにみえる。
まさに泥水だ。
「我々に平和を!!」
痛む。
「政府何てゴミだ!死ねばいい!自由を我らに!!」
痛む。
ライルは目をつぶって走る。
頭が痛くて死にそうだ。
頭には稲妻のようなものが走り何度も咳をする。
「黙れ黙れ黙れ...」
ブツブツと言いながら路地裏へと回る。
(あんな派手な...というか...無鉄砲な動きをしたらなぁ...)
「黙れ黙れ僕のバカバカバカ...」
(我々に平和を!!)
「黙れ黙れ!!」
(アホみたいな無鉄砲のクソガキなんかにもう構っていられん)
「分かってるってうるさいうるさい!!」
(...公表するしか...道はないぞ...)
「ぁぁぁぁぁ!!」
夜の空にライルの声が響き渡った。
ライルはその場で崩れ落ち、子供のように泣き叫ぶ。
泥が服につくがそんなことは気にしないで泣き叫ぶ。
ただ何も考えずに。
「...」
ピチャ...
近くで泥を踏む音が聞こえた。
ライルは横目で泥を見るが気にせずに鼻をすする。
ピチャ...
音はどんどん大きく鳴っていく。
ライルはそのゆっくりとした音が気になる。
「うぅ...」
ピチャ!
泥が自分にも跳ね返ってきた。
何も見たくない。
ライルは手で視界を遮り泣き続けている。
「くそ...!くそ...!」
音は止まった。
辺りは一気に暗くなり、とある影がライルを覆う。
「あの...」
聞きなれた声だ。
女の声。
ライルは少しずつ視線を上げる。
見えたのは見慣れた顔。
見慣れたというか、前に合っている顔。
1人の少女はライルを除くように見て言った。
「大丈夫...?」
ライルの目に一筋の光が舞い降りた。
ナイリーだ。
ナイリーはそっと、ライルの肩に手を置いた。
ライルはじっと泥なんか気にせずに手をつき、固まってしまうのであった。
「お食事でございます。坊ちゃま」
カチャカチャと高級な皿の音が鳴り響く。
坊ちゃま...ローラーはドアを開けて執事を見つめた。
「ありがとうウイス」
ローラーはまたベットに戻るとウイスを見ながら言う。
偉そうに。
「ウイス、もう坊ちゃまって言うのをやめてくれる?」
「それはそれは、何故でしょうか坊ちゃま」
ウイスは少し"坊ちゃま"を強調して言った。
ローラーはしばらく黙った後口を開ける。
「少し大人になりたくてね。坊ちゃまは少し幼くて...」
「大人ですか坊ちゃま...」
ウイスは静かに食器をローラーの前に置きながら言い続けた。
「そう簡単には大人にはなれませんよ。自分で食器を並べないんですから」
「あ...ウイス大丈夫だ僕がや...やるよ」
ウイスは少しため息をついて後ろへ下がった。
ローラーは食器をぐちゃぐちゃに並べていき、ウイスは再度口を開ける。
「人に言われてやっとやるのは大人とは言いません。それはただの真似をしている子供です」
「ちっ...うるさいよ!」
ローラーは荒々しく拳を握りウイスに向かって怒鳴った。
ウイスは目を細くしてローラーを見つめている。
「僕はただ赤子のように坊ちゃま坊ちゃま言われ続けるのが嫌なんだ!」
「...それでは、約束をしましょう」
ウイスは片手を出して笑顔で笑った。
ローラーは眉を潜めて訊く。
「約束って?」
「あなたが私から見て立派に大人になったら、ローラー様と呼びますよ。でも立派な大人になっていないときは...坊ちゃまと呼び続けます」
ローラーは初めて見るウイスの顔に戸惑いを隠せていない。
あまり言葉が入ってこないでローラーはしばらく黙ってしまった。
「わかった...ところでウイス...お父さんはどうなんだ?」
奥から足音が聞こえてきた。
ドタドタと大人数いる音だ。
ウイスは少し後ろを見つめてまたローラーを見た。
「...誰の足音だ?」
「メイドたちですよ。慌てています」
ドアがゆっくり開いた。
ギーという木の音を立てながらゆっくりと。
正確に言うとドアは元々開いているがさらにあけられている。
ローラーは固まって上を見上げた。
「ドアはちゃんと閉めろ。ウイス」
「これは、大変申し訳ございません」
ローラーは太い声を聴いてさらに固まった。
太い声を出している男はゆっくりとローラーを見つめた。
「ローラー...お父さんがなんだって?」
デカい身長。
成人男性でひげは生えていないが年はかなり上。
冷たいまなざしでローラーを見つめる姿。
まさに父といった感じだ。
「お...お父さん...」
「ローラー。」
ウイスは黙って部屋を出て行った。
「お前、お父さんがなんだって言った?」
「え...あ...その...」
ローラーは口が詰まって言葉が出なくなってしまう。
「お父さんが、なんだ?」
張り詰めた空気でローラーは震える。
低くて、迫力のあり、冷たい声。
体中に響き渡りローラーは目を大きく開ける。
エドワルドの顔はローラーの目の前にある。
「私の息子はそんなお父さんの陰口を言う子か?」
「ち...違う...」
「私が求めている息子は言えないようなことをお父さんの影で言っている子か?」
「違うんだ...お父さー
「銀行強盗の件は助かったが、それ以外は君は私が求めている存在か?」
どんどん声は低くなっていく。
エドワルドの顔の冷たい温度がこちらにも伝わってくる。
「聞いて...お父さん...違うんだ...」
泣きそうな声でローラーは言った。
「質問しているんだ。答えろ」
「...僕は...お父さんが求めている存在ではない...」
「自分でそう思うか?」
「...はい...」
ローラーは声を震えさせている。
エドワルドはどんどん続ける。
「そうか、じゃあお前の話を聞こう」
「...メイドたちが...ウイスは言ってないけど...お父さんが...部屋の中で一人で何かしてるって...」
「...」
エドワルドは話を聞くと満面の笑顔になってローラーの頭を撫でた。
「そうか」
その一言を言うとエドワルドは部屋から出て行った。
静かな部屋でローラーはゆっくりドアを閉めて、冷めきった食べ物を口に頬張る。
同時にローラーはリモコンの電源ボタンを押しテレビに視線を移した。
[今、世間を騒がさせているバケモノ。被害者が最後に取ったとみられるバーチャルレコードがネット上で公開されました。被害者は...]
(...バケモノ...)
ローラーはスプーンを口に銜えて泣きそうな顔を腕で擦った。
[それでは、公開された映像を見ていきましょう]
「...」
ローラーは無言でリモコンの音量ボタンを連打する。
テレビには爆発とうるさい雄たけびを上げているバケモノの様子がくっきりと見えた。
[「4444444!」バァン!「はぁ...はぁ...ちくしょうどうなってるんだ!ちくしょう!」]
被害者の声が音割れじみた音質で聞こえる。
[「戦ってるのかよ...なんだよあのガキ!くそ!」]
ローラーは眉をひそめてテレビ画面を凝視する。
テレビには戦っている一人の少年の姿が見えた。
[「待て...やばいやばいやばい!やめてくれ!ギャアア!!!」ザー...]
画面が乱れて少年の姿だけがテレビに残った。
ローラーは目を大きく開けて口に手を当てた。
「...こいつ...」
そして睨みつけるようにテレビ画面を見た。
呪いと殺意の目。
独裁者の目だ。
「...」
テレビ画面の少年はライルであった。
乱れる画面を、ローラーはじっと見つめていた。
「...ライル...」
殺意。憎しみ。憎悪。
すべてが混ざった表情で何も言えず、そのままスプーンを銜えて、
じっとテレビ画面を見つめた。
「Freedom for us! And death to the government!」
民衆の声だ。
「Freedom for us! And death to the government!」
どんどん声は大きくなっていく。
「Freedom for us! And death to the government!」
ウェイドの耳には声がはっきりと聞こえた。
「Freedom for us! And death to the government!」
ウェイドはガラス越しに聞こえる声を無視し、資料を手に持った。
「Freedom for us! And death to the government!」
「Freedom for us! And death to the government!」
「Freedom for us! And death to the government...」
「Freedom for us! And death to the government!...」
「Freedom for us! And death to the ...」
「Freedom for us! And death to...」
「Freedom for us...」
「Freedom f...」
「Freedom...」
「F...」
「...」




