97話 シーファン6
「・・・・・・・確かに頂きました。それでは、これが誓約書となります。」
仮面を被ったスーツ姿のレランジェは、『シーファン』国の王、アルファンに誓約書を渡す。
「フン。あんな物が欲しかったとはな。・・・・・・・だが、これで全ての密約は守った。俺の約束を守れよ。」
レランジェは、右手に持つ漆黒に輝く宝玉を見ながら言う。
「えぇ。アルファン王。貴方はこの【黒の宝玉】と、【魚人族】に島を譲渡してくれました。・・・・・・・その見返りに、我が『魔国』は今後一切、貴方の国に攻撃も侵略もしないと誓いましょう。・・・・・・・それでは、やらなければならない事が残っておりますので失礼します。」
そう言うと、背後に闇の空間が現れ、その中へと消えていった。
陽気で知られるアルファン王は、レランジェが消えたのを見ると、そのまま王座へと座り、悲しい顔をしながら天井を見上げる。
「レミリア殿。・・・・・・・すまない。」
☆☆☆
「ソラではないか。それはこっちのセリフだ。ここは私の住処だぞ。」
「えっ?そうなの?」
僕はソイレンにクエストの内容を説明した。
「前、あの川にいたのは、よく暇つぶしに寄っていただけだ。しかし・・・・・・・ハッハッハッハ!なるほどな。この国の者は私を『海神』と呼んでいるのか。悪い気分ではないがな。・・・・・・・だが、この国の守護をしてもらう様に交渉だったな。それは出来ぬ。私にはたった一人の主がいる。その主に創られ、命を与えられ、ここにいるのだ。息抜き程度でソラの呼び出しには応えられるが、それ以上の事は出来んな。」
「・・・・・・・そっか。んじゃ、しょ~がない!まぁ、とりあえず、最下層まで到達したんだ!」
僕は手を前に出す。
親友達が手の上に自分の手をのせる。
「クエスト『海神』。・・・・・・・達成だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!こんにゃろ~!!!」
「「「「「 こんにゃろ~!!! アッハッハッハ♪♪♪ 」」」」」
全員でジャンプした。
帰りはあっという間にソイレンに送ってもらい、入口まで着く。ソイレンはそこで人間へと変わった。
あれ。これまた付いてくるパターンだ。
「まったく、お主達は。私がいなくてもいいように、この住処を守らせていた者達を全て倒すとはな。結構強い者達を取り揃えたのだが、そなた達ならしょうがない。・・・・・・・また増やすか。」
「ごめんて。・・・・・・・所で付いてくるの?」
「ん?まぁ、ここにいても暇・・・・・・・ソラがいる時位は、付き合ってやろうではないか。」
暇なんだ。
僕達はダンジョンを出ると、クエストが終わったら一度寄って欲しいと言っていたので、とりあえず、レミリアの所へと向かった。
☆☆☆
僕達はソイレンを連れて城の中へと入って行く。
【魚人】の兵士や、文官達とすれ違い会釈する。
ん?
何だろう。
何故か違和感がある。
ダンジョンを出てから、ずっとだ。
その違和感は、謁見フロアに入り、レミリアと会って分かった。
「あれ?レミリア・・・・・・・肌の色が?」
「フフフ。分かりますか?」
「分かるも何も・・・・・・・。どったの?」
親友達も驚いている。
レミリアとはよく会って、見ているからすぐに分かった。
青い肌が、今は薄い水色位になっている。
ぱっと見、【魚人】というより人間だ。
その横にいるアーミット将軍や、他の魚人達も肌が薄い。
レミリアは嬉しそうに言う。
「ソラ様。私達【魚人族】は、年に一度。一日だけ人間へと変わるのです。」
【魚人族】。
魚と人の間の種族。
海でも陸でも生きる事の出来るこの種族は、昔、海の神様が創ったとされる。
そして年に一度だけ、人間へと変わる。
それは、人間の心を忘れない為と古くから言われていた。
「・・・・・・・実は明日、人間になる日なのです。明日になると、肌の色も完全に人間と同じ色となります。私達は、この日を『祈りの日』として、一日だけ人間になった事への感謝と祈りを、家の中で過ごしながら、神様に感謝するのです。」
人間になると、もちろん海の中では息が出来ない。漁もする事が出来なくなるので、民は皆、この日は何もしないで、家族で家の中で楽しく過ごす日となっているのだそうだ。
僕達でいう正月みたいなもんかな?
「へぇ~。凄いね。そんな日があったんだ。でも、僕達が聞いても良かったの?」
「もちろんです!ソラ様達に隠し事何てしたら、神様に怒られます!・・・・・・・所で、ソラ様の後ろにいる方は?」
そこで初めてソイレンに気づくレミリア。
ソイレンは僕の隣に出ると胸を張って言う。
「私か?私の名はソイレン。・・・・・・・お前達には『海神』。・・・・・・・いや、【司る者】の使徒と言えば分かるか?」
!!!!!!!!
レミリア含む、全員が片膝を付く。
「こっ、これは我が神の使徒様。よくぞおいで下さいました。」
「うむ。気楽にしていいぞ。私は、ソラに付いて来ただけだ。」
そう言うと、僕の肩を叩いて、早く飯を食わせろと小声で言いながら後ろへと下がる。
レミリアが立ち上がって、恨めしそうに僕に言う。
「ソラ様。こういうのは早く言って頂かないと。・・・・・・・皆、ビックリするじゃないですか!」
「ハハハ。ごめんて。」
勝手に付いてくるんだもん。
しょうがないじゃん。
その日は、使徒様が来たという事で、豪華な食事が用意された。
ソイレンはめっちゃ満足そうだった。
良かったね。
☆☆☆
「準備は出来た?」
「ハッ。クロエ様に言われた通りの場所に、設置しました。」
『シーファン』国から数百キロ離れた小島。
そこに『魔国』の大幹部、クロエが部下に指示を出していた。
クロエの隣にいるレランジェが聞く。
「クロエ。これで【魚人族】は一掃出来るのですか?」
クロエは心外そうな顔をしながら言う。
「僕の造った魔道具だよ?完璧さ。」
「そうですか。」
・・・・・・・『シーファン』国の王。アルファンに約束させた、友好国だった【魚人族】への島の譲渡。予想通り、戦争から逃れ監獄島から脱獄した王女が、『シーファン』国を頼り、島を譲った事により、王女を中心に世界に散らばっていた魚人達が集まった。そして、『シーファン』の上層部しか知らない【魚人族】が年に一度人間へと変わる日。そこを狙って、大津波を起こし、島を丸ごとのみこませる。・・・・・・・ここまでは、完璧ですね。
「さ~て!それじゃ、そろそろ起動しちゃおうかな!ワクワクするなぁ!・・・・・・・でも、レランジェ。僕は結果さえ見れればそれでいいけど、『シーファン』の王様と約束したんじゃないの?・・・・・・・まさか【魚人族】だけじゃなくて、『シーファン』も狙うなんてね!」
仮面の中でレランジェは、ニヤリと笑う。
「私は、我々が攻撃したり、侵略しないと約束しただけです。・・・・・・・たまたま起こった『自然災害』には関知しませんよ。」
・・・・・・・さて、これをどう防ぎますか?・・・・・・・【星空】・・・・・・・そのリーダー、ソラよ。・・・・・・・楽しみですねぇ。
クロエは、魔道具の起動ボタンを押した。
☆☆☆
「アルファン様。呼んで頂き、ありがとうございます。」
レミリアはアルファン王に深々と挨拶をする。
ここは『シーファン』の王都にある有名な岬。
ここから見える景色は凄い。
真っ青な空。地平線まで続く、見渡す限りの海。
そして左には【魚人族】が住んでいる島だけが見えた。
「ハッハッハ~!レミリア女王よ!そんなかしこまっては困るぞ!我々【海人】と、そなた達【魚人】との仲ではないか!」
「フフッ。そうですね。」
僕はレミリアの後ろに控えながら周りを見る。
岬には沢山のテーブルや椅子が置かれ、おそらくこの国の偉い人達なのだろう。大勢の人達が座っていたが、レミリア達が現れると皆立ち上がり、こちらを見ている。
そして、レミリアの方へと笑顔で近づいて話しかけて来たあの人が、『シーファン』国の王。アルファン。
陽気な事で知られ、平和を愛し、国民達に慕われている国王。そして、逃れてきたレミリア達を保護し、無償で大きな島を譲渡した事で有名だ。
色黒で、逞しい容姿をしている。事前に冒険者ギルドで聞いていた通りの人だった。
「さぁ!久しぶりの友好の証を示す特別な日だ!ゆっくりと食事をしながら語ろうではないか!」
今は昼時。
レミリア達は、案内係に促され、テーブル席へと向かう。
僕は、レミリアやアーミット将軍、ローレット隊長の後ろから付いて行きながら呟く。
「完全に僕達と同じ人間だなぁ。」
皆、肌の色が完全に僕達と同じ肌色になっている。
この日はレミリアが言っていた、年に一度、人間に変わる日。
他の【魚人族】の人達は、皆、島で家族と共に一緒に家で過ごしている。
レミリア曰く、昔、国があった時は、ずっとこの特別な日に、お互いの要人が集まり、人間として親睦を深めていたとの事。
そしてこの一年で、全ての【魚人族】がレミリアの元へと集まり、島も落ち着いて来たので、またこの特別な会食を再開させたみたい。
案内された中央の大きなテーブル席には、アルファン王を含む大臣達四人。レミリア達三人。そして何故か僕が座っている。
僕以外の親友達とソイレンは、隣のテーブル席へと案内されている。
あの。
僕もそっちの席がいいんだけど。
「ハッハ~!聞いたぞ!君があの【異界】から来た冒険者パーティ【星空】のリーダー、ソラ君だな!」
「あっ。ハイ。初めまして。」
「何だ!元気がないな!たった数ヶ月で『A』ランク冒険者になって、我が同盟国の『アルフリーン』を救った英雄だろう!ハ~ハッハッハッ!」
何かめっちゃ陽気な人だな。
嫌いじゃないけどね。
あと、どこでそんな噂を聞いたのか知らないけど、英雄じゃないから。
マジで広めるのやめて欲しい。
そして会食が始まった。
エール片手に、次々に出てくる見た事のない魚料理のオンパレード。
僕は夢中になって飲み食いしていた。
レミリアは食事をしながら嬉しそうにお礼を言う。
「アルファン様。この度はこの様な席を設けて頂き、そして、我が民を住める様に、援助や、島までをも譲渡してくださり、感謝してもしきれません。本当にありがとうございます。」
「あっ、ああ!そんな事か!気にしなくていい!」
元気よく大声で返事をしながらエールを一気飲みするアルファン王。
飲んでいる姿は、何故か悲しそうに僕には見えた。
ズッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!
ゴッ!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
突然。
地面がもの凄く、大きく揺れる。
揺れたと同時に、アーミット将軍とローレット隊長は、レミリアの後ろに回り、辺りを見渡す。
「これは・・・・・・・地震か???」
だが、すぐに揺れは収まった。
見ると、激しい揺れを物語る様に、テーブルの上の料理は地面へと落ちていた。
「王!大丈夫ですか?!」
「アルファン王!」
近くにいる大臣達がアルファン王へと近づくが、アルファンは周りが何も見えていないかの様に、ふらつきながら岬の先までゆっくりと歩いて行く。
そして独り言の様に叫んだ。
「そんなばかな。・・・・・・・・何故。・・・・・・・何故だ!・・・・・・・『魔国』!!!!!!!」
同じ様に王の元へと集まったレミリア達と僕を入れた親友達。
ローレットが海の方を指さして言う。
「何だあれは・・・・・・・・津波か?」
全員ローレットが指した方向を見る。
遠くから見ても分かる。
そこには地平線まで海が広がっていた光景を遮り、この岬よりも遥かに高い、巨大な津波がこちらへと向かっていた。
昔映画で観た、世界が滅ぶ時に襲ってきた巨大津波。
全てのビルを飲み込み、海の世界へと変貌したパニック映画。
僕はこの光景を見た時、あの津波はそれ以上の高さの様に思えた。
アルファン王は、両手を地面へと付いて、頭を垂れる。
「・・・・・・・今、『魔国』と言いましたな。どういう事か。」
アーミット将軍がアルファン王に詰め寄る。
アルファン王は絶望の顔をしながら向かってくる巨大津波を見て、全てを打ち明けた。
「・・・・・・・何と言う事を。アルファン王。貴様、正気か?」
アーミット将軍が腰にある剣を握る。
すぐに王直属の護衛隊が間に入る。
アルファン王は大声を出す。
「あの『アルフリーン』でさえ、もう少しで『魔国』に滅ぼされる所だったのだ!いくら『アルフリーン』と『レグナル』が守ってくれるとしても、自国で何かあったらこの国まで守ってはもらえん!だから・・・・・・・だから仕方なかったのだ!俺は!・・・・・・・俺は民の為を想って!!!」
「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
突然。
貴方は叫んだ。
「・・・・・・・民の為を想ってだと?この国に住んでいる人達は、そんな事望んだのかよ!!! 僕がこの国に来て最初に思ったのは、みんな優しくて、争いが嫌いな人達ばかりだ!!! 仮に『魔国』が攻めてこなかったとしても、裏切られて、滅ぼされた国には必ず恨みが残るだろ!!! 結局争いの種が増えるんだよ!!! 本当に民の為を想うんなら、誰にも恨まれない政策を考えろよ!!! それが王だろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
静まり返る。
「・・・・・・・・終わりだ。何を言われても、もうどうにもならない。あの津波に全てを飲み込まれてしまう。・・・・・・・この国も、そして【魚人族】の島も。・・・・・・・全ての民も。」
レミリアは津波を見ながら、両手を地面に付いているアルファン王の腕を掴むと言う。
「アルファン王!立ちなさい!貴方は王でしょ!一人でも多くの国民を・・・・・・・民を救うの!それが私達王族の務め!どんな事でも絶対にあきらめちゃだめ!!!」
僕はソイレンを見る。
ソイレンは向かってくる巨大津波を険しい顔で見ながら言う。
「いくら私でも、あれは無理だな。防ぐ事は出来ない。・・・・・・・せめてソラ達を含む、ここの数人位は口に入れて海へと潜って難を逃れる事は出来るが・・・・・・・。」
僕は迫ってくる巨大津波を見上げた。
デカい。
超高層ビルよりも遥かに高い津波だ。この国の王都など簡単に飲み込んでしまうだろう。
レミリアも迫ってくる巨大津波を見て唇を噛みしめる。
・・・・・・・・【魚人】なら、津波が来ても海に潜ればいいだけの事。でも、私達が【魚人】から【人間】になるこの日を『魔国』は狙ったんだ。・・・・・・・泣いちゃダメ!私は【魚人族】の女王!一人でも多くの民を守らないといけない!
グッとレミリアは絶望の涙をこらえる。
『監獄島』から逃れ、この島へと辿り着いた事。
その噂を聞いて、【魚人族】の民が集まった事。
そして、今までがんばって復興してきた事が走馬灯の様に思い出される。
・・・・・・・私は、貴方を見る。
それに気づいた貴方は、優しく私を抱きしめた。
私は貴方の胸に顔をうずめる。
・・・・・・・泣いちゃダメ。・・・・・・・私は女王なの。
私は貴方に言う。
「・・・・・・・私は民が大事。」
「うん。」
「・・・・・・・守るの。」
「うん。」
「・・・・・・・一人でも多くの民を。」
「うん。」
「・・・・・・・私の全てをかけて。」
「うん。」
自然と涙が出る。
大粒の涙が止まらない。
こんな事を言っても、貴方を困らせる事は分かっている。
そしてどうにもならない事も。
・・・・・・・でも。・・・・・・・・それでもっっっっっっっ!!!!!
私は、貴方の胸で涙を流しながら顔を上げて貴方に言う。
「・・・・・・・ソラ様。・・・・・・・民を・・・・・・・私を救ってくれませんか?」
貴方は笑顔で私の頭を撫でると、優しく私の両肩を掴んで離す。
そして、いつも持っているカメラに向かって呟く。
「皆さん。ここからは一旦音声を切りますね。」
貴方は、ゆっくりと岬の先まで歩いて行った。
岬の先まで来ると、貴方は何もない上空を見上げながら言う。
「・・・・・・・うん。いるね。」
そして貴方は呟いた。
「【ディーレ】。」




