77話 ユニティ4
「あら。どうしたの?ボーとして入口なんか見て。」
ここは冒険者ギルド『ユニティ』支部。
その受付で、肘をついて入口を眺めていた私に、仕事仲間が茶化す。
「何でもないわよ。・・・・・ちょっと、最近『フリークエスト』を受けた冒険者が気になってね。」
「あぁ。あの噂の【異人】の冒険者パーティね。」
私は、頷きながら入口を眺める。
『【異界】に通じる【ゲート】が『ファイン帝国』に出現した。』
20年前。
そんな情報が世界中を駆け巡った。
それが真実だとすぐに分かり、【ゲート】出現によって、世界各国に対する『ファイン帝国』の怒涛の侵攻が止まり、停滞期に入る。
そして世界は、ホッと胸をなでおろし、また来る侵攻に備える準備を始めた。
まさか、その【異界】に終止符が打たれるとは思いもよらなかった。
侵攻ではなく、融和として。
たった一つのパーティが、あの『ファイン帝国』皇帝ファイン=ハートの考えを変えさせた。
【星空】。
【異界】にある探索者チーム。
今、この世界で最も注目されている冒険者パーティだ。
見た目は、普通の冒険者達だった。
特にリーダーのソラという子は、強そうにはとても見えない。
「・・・・・・・不思議な子。」
ポツリと私は呟く。
バンッッッッッッ!!!
入口から勢いよく、顔を真っ青にして冒険者が入ってくると、大声で叫ぶ。
「大変だ!龍だ!・・・・・・・龍が現れたぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
私はすぐに立ち上がり、同じ仕事仲間の子と一緒に、外へと出る。
冒険者ギルドの前は広い広場になっていて、そこに巨大な龍が降り立っていた。
「あれは・・・・・・・龍?」
青い鱗。そして巨大な長い体。
数百年前に一度現れて、大洪水を引き起こしたと言われている『司る者』の使徒と呼ばれている者。
私は唖然としながら見上げていると、その龍の頭の上から一人の青年が飛び降りる。
「あでっ。・・・・・・・結構高けぇな!サンキュー!ソイレン!それじゃまたな!」
青年が叫ぶと、一度水龍は咆哮をあげ、そのまま天空へと飛んで行った。
尻もちをついていた青年は立ち上がると、いつの間にか降りていた他の仲間達がその後ろへと続く。
青年は私に気づくと笑顔で言う。
「あっ!お姉さん!『フリークエスト』達成しましたよ!精査お願いします!」
龍から降り立ち、私の元に向かってきたのは、【星空】のリーダー。
ソラだった。
☆☆☆
「これは・・・・・・・。」
目の前に置かれた大量の光り輝く紫色の花。
素材図鑑の情報を見ると、特徴が全て一致している。
「ソラさん。すぐに依頼主を呼ぶから!もうちょっと待っててくれる?・・・・・・・すぐにマイクさんに連絡を!」
冒険者ギルドの受付が一斉に慌ただしくなった。
ついでに鑑定してもらおうと、出したソイレンの【鱗】が更に拍車をかけた。
結論として、この鱗を売るなら1億ギル以上の価値があるとの事。
『フリークエスト』の報酬並じゃん。
今回報酬が貰えるだろうから、急にお金が必要になった時や、何かの時の為に、売らないで取っておこう。
僕はエイセイに言って、ソイレンの【鱗】を星空オフィスの倉庫へと転移してもらった。
そして、そんなに時間がかからない内に、マイクさんがすぐに駆け付けた。
テーブルに置かれている大量の【浄聖花】を見るや否や、僕の両手を握って言う。
「これは間違いなく【浄聖花】!ソラ様!そして皆様!ありがとうございます!とにかくすぐに持ち帰って薬を作り、グレン王とそのご家族に飲ませたいので、後ほど・・・・・後ほどこのお礼は必ず!!!」
「あっ!マイクさん!作る時に少しだけ、解呪できる薬が出来たら分けてくれませんか?」
「・・・・・もちろんでございます!・・・・・それではまた。」
そう言うと、【浄聖花】を部下に持たせて、急いで冒険者ギルドを後にした。
まさしく、嵐の様な時間だった。
☆☆☆
「・・・・・・・恩人よ。普通にしてくれ。」
そう言われて、片膝を付いていた僕達は立ち上がる。
ここは『ユニティ』の七つの王族が集まっている王城。
謁見の間。
七つの豪華な椅子には五人の王様と二人の大貴族が座っていた。
その内の一人、【浄聖花】で全快したグレン王とその家族。そして、同じ様に苦しんでいたルカレフ王とその家族が笑顔で僕達を見ている。
専属執事のマイクが前に出て読み上げる。
「この度、不可能と言われていた『フリークエスト』を見事に達成し、グレン王とルカレフ王。そしてそのご家族の死の呪いを解いた功績はあまりにも大きい。よって、当初の報酬一億ギルに二つの王族を救ってくれたので、プラス一億ギル。又、この国を自由に行き来できる権利を授ける。」
「あっ。ありがとうございます。」
二億ギル?
いきなり報酬が倍になった。
ビックリしていると、グレン王が言う。
「冒険者【星空】よ。私は・・・・・いや、家族全員この呪いを受けてからというもの、正直諦めていた。もうすでに二つの王族が亡くなっていたのでな。・・・・・しかし、この呪いを解く【浄聖花】を大量に採取してくれた。これで、また同じ様に呪いを受けても大丈夫だろう。ここに、『ユニティ』国を代表してお礼をさせてもらう。【星空】よ。本当にありがとう。」
グレン王と一緒にルカレフ王とその家族が頭を下げる。
「王様!頭を上げてください。僕達は冒険者です。報酬が良かったから受けたまでですよ!逆に報酬を倍にしてくれてありがとうございました!」
「フム・・・・・・・。マイクが言っていたが、本当に謙虚な御仁だ。」
そう言うと、グレン王は他の王や大貴族達を見る。
「・・・・・・・まぁ、三つの王族が何故か呪いにかからなかったのは気になるがな。」
「「「 ・・・・・・・。 」」」
専属執事は黙ってグレン王の後ろでその様子を見守っている。
七つの王族。
その内の二つの王族が呪いで死に、大貴族が後任に。
そして我がグレン王とルカレフ王が同じ様に呪いにかかった。
残りの三つの王族は今だ呪いにはかかっていない。
「・・・・・・・裏があるでしょうな。・・・・・・・調べるか。」
マイクは誰にも聞かれない様に、小さく呟いた。
☆☆☆
「ほう・・・・・・・これはこれは。面白い展開ですね。」
『ユニティ』の首都『ティレン』。
その大聖堂の屋上。
首都を全て見渡せる巨大な建造物の屋上に、二人の男女が立っていた。
その一人。
仮面を被り、黒のスーツを着ている男が続ける。
「あれが【異界】からきた最強の探索者チームですか。・・・・・・・まさか、あの『フリークエスト』を攻略するとは驚きです。あの川に潜るのは私でも骨が折れますからねぇ。」
隣に立っている美しく妖艶な女性が言う。
「私の部下・・・・・グレースを倒した者達と聞いてレランジェに付いてきたが、なるほどね。あの者達が【星空】。・・・・・・・覚えたわ。・・・・・・・さて。私はあの者達に興味があったからちょっとだけ立ち寄ったけど、もう帰るわね。貴方はどうするの?」
仮面を付けたレランジェという者が答える。
「そうですねぇ。まずはアッシュ。貴方には申し訳ございませんが、『魔国』に帰る前に『ファイン帝国』に寄ってもらって、大臣にこの事を伝えてください。せっかく、ここまで計画通りに進んでいたんですが、まさかあの呪いを解かれるとは思いませんでしたからねぇ。」
そう言うと、漆黒の輝く宝玉を取り出す。
「まぁ、我々の目的は達成していますが、『ファイン帝国』とは同盟関係です。プラン2に移行する様に提言と・・・・・・・私は面白いので遊びがてら、【星空】を監視しますよ。おそらくあの者達は『アルフリーン』国へ向かうでしょうからね。・・・・・・・あそこもそろそろ計画を実行する時期でしょうから、邪魔されると困りますからねぇ。」
「そう。・・・・・・・それじゃ、帰るついでに『ファイン帝国』へ寄ってから『魔国』に戻るとするわ。それじゃあね。」
そう言うと、アッシュと呼ばれた妖艶の女性は、黒い靄となって消えていった。
消えたのを見たレランジェが呟く。
「よろしくお願いしますよ。アッシュさん。・・・・・・・さて、私も行きますか。ここの名物料理とお酒をまだ楽しんでないですからね。」
仮面を付けた男は、そのまま自分の影に沈んでいき消えていった。
☆☆☆
「どう?首輪が取れた感想は。」
「はい!ソラ様!皆様!とてもスッキリしました!本当にありがとうございます!」
テルミが嬉しそうに笑顔で答える。
王城で報酬を貰った後、グレン王の専属執事マイクさんから【浄聖花】で作った解呪の薬を3本ほど貰った。
冒険者ギルドに寄った後、宿屋でアカリがテルミの首に付いている【隷属の首輪】を斬り、その瞬間黒い煙の様な物が出たが、すぐに解呪の薬を飲むと、黒い煙はテルミの体を避けて、そのまま消えていった。
大成功だった。
まぁ、もし失敗したとしたら、どんな事をしても助けようと思っていたけどな!
今は、魔導列車の車内。
僕は開けた車窓から、異世界の景色を眺めながら気持ちいい風を浴びている。
『ユニティ』で、当初目的のお金稼ぎが十分に出来た。
二億ギル。・・・・・・・二億ギルだ。
これで、これからの旅は、お金の心配はもうしなくていいだろう。
そして、テルミの【隷属の首輪】も外せた。
言う事のない最高のスタートだった。
冒険者ギルドでは、攻略不可能と言われていた『フリークエスト』を達成した事で、僕達【星空】のランクが、一気にランクBまで昇格。綺麗な受付のお姉さん曰く、今までにない異例のランクアップだそうだ。
僕は、嬉しそうに親友達に囲まれながら話しているテルミに、カメラを向けながら見ている。
<コメント>
■テルミちゃん!良かったね!
■テルミちゃんの嬉しそうな笑顔!最高!
■やっぱり可愛いなぁ~。
■幼女エルフ最高~!!!
■いや~!おじさん心配してたんだよ!
■隷属の首輪ってw マンガじゃねぇんだからw
■実際そんなのがあるのを見ると、結構エグイよなw
■奴隷なんて、日本じゃ考えられないからなぁ。
■まぁ何にせよ、助かって良かった!
■ソラ!よくやったぞ!
■ソラ!褒めてつかわそう!
■ソラ!もっとテルミちゃんアップで!
■ソラ!携帯の待ち受けにしたいから、テルミちゃん立たせて!
合間合間に、視聴者さんにサービスショットや話題を提供する様にしている。
この長いライブ動画。
飽きさせないのも【クリエーター】としての使命だからな!
「テルミ。ちょっとフードとって、僕の前に立ってよ。」
「はい?・・・・・・・これでいいですか?」
テルミは、座席から立つと、可愛いネズミ柄の薄いピンクのパーカーのフードを外して、ちょこんと立つ。
カメラをテルミに向けて、上半身アップで撮影する。
とても綺麗な金色の髪。宝石の様なエメラルドグリーンの瞳。エルフ独特の尖った耳。・・・・・・・そして幼女。
ある意味完璧です。
<コメント>
■きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
■きたきたきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
■ナイッスぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!
■ソラ!ナイスぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!
■あぁ!!!おじさん、一片の悔いなし!!!
■いや!もう可愛いすぎだろ!!!
■こんな子供がいたら、絶対外なんて出さねぇ!!!
■ちょっとソラ!このままで!!!
■もうちょっと待って!撮りだめするから!!!
■スクショ撮ってるからそのままで!!!
めっちゃ盛り上がった。
「おわっ!」
キィィィィィィィィィィィィィィィ・・・・・・・・・・!!!
突然、魔導列車が急ブレーキで徐々にスピードが落ちて、止まる。
見渡すと、ここの車両の人達は、皆ざわついている。
暫くすると、音声が天井から聞こえてきた。
「只今、数キロ先に魔物の大群が現れ、道を塞いでおります。軍を呼んでおりますが、来るまでの間、守ってくれる冒険者様や兵士の方はいませんでしょうか?繰り返します・・・・・・・・・・。」
僕達は顔を見合わせる。
クウガとアカリが立ち上がろうとするのを、先に立った美青年が言う。
「数が多いみたいだから僕が行くよ。」
そう言うと、かっこよく開いた車窓の上部を掴むと、そのままくるりと回って、魔導列車の天井へと飛び乗った。
僕も慌てて、よじ登る。
エイセイが優しく僕を掴んで、天井へと上げると、一緒に先頭へと駆けた。
「うぉ~!結構いるな!!!」
先頭車両の天井へと着くと、カメラを前方へと向ける。
どこか見た事のあるモンスターの大群が、こちらへと土煙をまき散らしながら向かってくる。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!!!!
突然。
隣でもの凄い爆音が響き渡る。
見ると、先頭車両の天井に固定して、重機関銃を撃ちまくっているエイセイがいた。




