65話 彼の名は
「・・・・・・・何だあれは。」
『ファイン帝国』。
その帝都にある城。
広い謁見の間の中央にある王座に座っている皇帝ファイン・ハートは、巨大な魔法鏡から映し出される『名もなき島』の様子を見て呟く。
魔法鏡に映っているのは、魔物なのかモンスターなのか精霊なのか。・・・・・見た事のない四人の者達。
周りの重鎮や幹部達、そして将軍達も首を傾げる。
「只今戻りました。」
「戻りましたっと!」
大きな扉が開かれ、七大将軍のエリオットとレヴィが入ってくる。
二人が、皇帝の前に跪くと同時にハートは言う。
「・・・・・二人ともご苦労だった。色々と聞きたい事はあるが、まずはお前達二人が帰還した事が一番の吉報だ。」
「「 吉報?? 」」
「あぁ。・・・・・あの後、我が帝国部隊は全滅した。・・・・・・隊長も・・・・・そしてギガン将軍もだ。」
二人は目を見開いて驚く。
「まず最初に聞きたいのは、エリオット。・・・・・あの者達はなんだ?」
ハートが魔法鏡を指して映っている四人の者達を見て言う。
「?????・・・・・・・・・はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ???・・・・・・・・・・・なっ!嘘だろ!あれは!!!・・・・・・いや、そんな!!!・・・・・・ありえない!!!!!」
エリオットは突然叫んだ。
いつも冷静沈着なエリオットは、周りが驚いているのに気づくと、一度落ち着いてから話始めた。
「・・・・・・・陛下。精霊には序列があるのはご存じですか?」
「あぁ。私も座学で学んだが。それがどうした?」
『精霊』。
世界の万物を司る者。
その者達には属性ごとに序列がある。
下位精霊:具現化する事は出来ず、全ての物に宿るとされている。言葉を話す事は出来ない。
中位精霊:自身を具現化できる。属性を操る事が出来る。召喚士が精霊を召喚できるのは、この『中位精霊』のみとされている。
上位精霊:自身を具現化できる。属性を操る事が出来る。人間では召喚する事は出来ないとされていたが、初めてエリオットが召喚した。
最上位精霊:遥か昔の文献にあるだけ。存在するのかも分からない。信仰対象。
エリオットは立ち上がると、皇帝に向かって静かに答える。
「陛下。我が帝国が信仰している者。・・・・・それは?」
「『光』を司る者・・・・・【アレイユ】だが?それがどうした?」
「・・・・・・・【ミレ】、【ディーレ】、【フェイ】、【グリーン】。あの者達は他の国々が信仰している者達。・・・・・我が【アレイユ】と同じ最上位精霊。そしてその属性の頂点に君臨する者・・・・・・・『司る者』です。」
ザワッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!
周りがざわつき始める。
「エリオット。それはどの位、脅威なのだ?」
「私が呼ぶ事が出来る『上位精霊』を使えば、街の一つや二つは破壊する事が出来ます。しかし、『最上位精霊』なら国の半分位を・・・・・そして属性の頂点に君臨しているあの『司る者』なら、一人で国を簡単に滅ぼす事が出来るでしょう。」
「・・・・・・・簡単に国を滅ぼす事が出来る者を、あの男が召喚したと?・・・・・・・しかも同時に四人も?」
「そう言う事になります。」
魔法鏡を見ながらエリオットは答える。
・・・・・私があの時『上位精霊』を召喚して、言う事を聞かずに、契約を破棄してまで戦う事なく帰って行ったのはこういう事か。
ありえない。・・・・・・ありえないのだ。
人が召喚できる事象ではないのだ。おそらく、人以外のどんな種族でも召喚する事は絶対に出来ない。
あの青年。
いったい何者だ???
暫くして、魔法鏡の画像が突然消える。
おそらく撮影していた魔術師達が殺されたのだろう。
「・・・・・・・ふぅ。」
ハートは王座に座りながら小さなため息をついた。
誤算だった。
数十年間、あちらの世界を調査した。
そして、異界の者達は我々に比べて圧倒的に劣っていた。
『探索者』と呼ばれる者達のみ脅威だったが、それでも一握りを除いて、魔物や兵士達よりも劣る者達ばかりだ。
エリオットは消えて真っ暗になった魔法鏡を見ながら皇帝に言う。
「・・・・・・・まさかとは思いますが、もし・・・・・・・もしですよ?彼が【エリア】を召喚できるとしたら・・・・・・・・。」
!!!!!!!!!!!!!!
ここにいる全員が押し黙る。
この世界には一つの有名な話がある。
全てを統べる者。・・・・・・・曰く、『神』と呼ばれる者。
その名は【エリア】。
その者の怒りを買えば・・・・・・・世界が滅びる。
そんな話。
ハートはもう一度ため息をつくと言う。
「ふぅ・・・・・そんな推測をしても今は無駄なだけだ。・・・・・だが、方針を変更しないといかんな。」
一人。
たった一人のせいで、全てがひっくり返ってしまった。
ハートは真っ暗な魔法鏡を見ながら言う。
「・・・・・・・あの男の名は?」
☆☆☆
「ヨシッ!!!」
「何と!!!」
「「「「「「「 オォォォォォォォォォォォォ!!!!! 」」」」」」」
アメリカ合衆国。首都ワシントンDC。
【D8】と他の主要国の首脳達が巨大なスクリーンに映る『空ちゃんねる』を観て、椅子から立ち上がりながら騒いでいた。
最初は衝撃的だった。
第一陣の無残な姿。そして『レベル0』でも勝てないファイン帝国の強さ。
それを首脳陣たちは観ていて絶望していたが、【星空】がそれを救ってくれた。
今は歓喜の声に包まれていた。
アメリカ大統領チャーチは椅子に座り直すと、皆を見て言う。
「第一陣の被害は計り知れない。・・・・・・しかし、そのおかげで異世界の『ファイン帝国』と対等に交渉する事が出来るだろう。・・・・・【星空】か。・・・・・あのチームのリーダーの名前は?」
------------------ 数ヶ月後 --------------------
「とうとうこの学校ともおさらばですな!」
「ですな。」
「ですなぁ。」
ミノル氏が教室の窓から外を見て、マサキ氏と僕に向かって呟く。
外の校門周りは桜が綺麗に咲いている。
そして沢山の学生が卒業証書や花束を持って笑顔で話しをしていた。
春。
僕は高校最後の卒業式を迎え、陰キャ仲間のミノル氏とマサキ氏の二人と教室でくっちゃべっていた。
二人の話を聞きながら、僕は窓の外を見る。
・・・・・・・『名もなき島』から帰ったその日の夜は大変だった。
『幽霊さん』の一番の甘えん坊さん。【エリア】が突然現れたかと思うと、「ソラを傷つけたあの世界などいらんわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!滅ぼしてやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」って、物騒な事を言っていたので頭を撫でてやったら、すぐに機嫌が直った。
ホント、チョロいな。
数週間後には僕は大学生だ。
もちろん、動画配信者として『空ちゃんねる』はこれからもずっと続けるつもりだ。だけど、いかんせん僕は一般人。いつ稼げなくなるか分からないから、ちゃんと選択肢を作っとかんといかん。だから、大学は行っといたほうがいいと思ったのだ。
何故か、クウガもエイセイもアカリも同じ大学に通う事になっている。来年はココセもスピカも僕が進む大学を狙っているらしい。
・・・・・君達、僕より全然頭いいんだから、もっといい大学行けばいいのにって思ったけど、ツッコむのはやめた。
「そう言えばソラ氏。これを見てくれたまえ!」
ミノル氏はそう言うと、自信満々に制服を見せびらかす。
そこには、ボタンが2個程付いてなかった。
「こっ!これは!!!」
「ソラ氏!私の方も見るがいい!」
マサキ氏がそう言うと、自信満々に制服を見せびらかす。
そこには同じ様に、ボタンが3個程なくなっていた。
僕は全開にボタンが付いている。
「なっ!なんとぉぉぉぉぉぉぉ!!!ふっ二人とも!私達は同志ではないかぁぁぁぁぁぁ???」
二人は僕の肩に優しく手を置くとニヤリと笑う。
「ソラ氏。これも定め。」
「ソラ氏。人生弱肉強食なのだよ。」
「ノォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」
僕の絶望の雄叫びが教室内に響き渡った。
「おうソラ!どうした?」
「・・・・・・なんだサトルか。」
見ると、サトルが笑顔で近づいてくる。
サッカー部のキャプテンで陽キャでリア充。
もちろん、制服には一つもボタンが付いてなかった。
「何だはないだろ。何だは。まぁいいや、もう終わったんだから帰ろうぜ。他の二人も。」
「ほら。ソラ氏。帰ろうではないか。」
「ソラ氏。行こうではないか。」
「いやだ!いやだいやだいやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ニヤニヤしながら僕を連れて行こうとする陰キャ仲間の二人と陽キャの一人。
誰にもボタンを渡せる事が出来なかった陰キャの僕は、抵抗したがそのまま引きずられて教室を後にした。
僕は肩を落としながら学友達と外へ出ると、一人の女の子が僕の目の前に現れた。
ショートボブ位の銀の髪。空の様に真っ青な大きな瞳。お世辞抜きで、誰が見てもめちゃめちゃ可愛い。
ココセだ。
「・・・・・・先輩。」
ココセは片手を前に出して言う。
「・・・・・・ボタン。」
「えっ?僕の?・・・・・いいの?」
ココセは頷く。
僕は1個ボタンをとると、ココセに渡す。
にぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
氷姫と呼ばれている彼女は満面の笑みを浮かべる。
「ありがと~♪大事にするねぇ~♪」
そう言うと、嬉しそうに校門の方へと走っていった。
僕はゆっくりと隣を見る。
そこには唖然として立ちつくしている学友達三人がいた。
「ココセ!ズルい!私も!」
「ちょ!待ちなさいよ!私が先よ!」
「あっ!ソラ先輩!」
僕の元へ駆け寄る三人。
一人は、黒く美しい髪をしていて、瞳は吸い込まれそうな程に黒く澄んだ目をしている。そして顔もとても整っており、まさしく美少女だ。
もう一人は、髪は綺麗な赤色で、瞳は大きく海の様に青い。肌はとても白く、お人形みたいな超絶美少女。
そして最後に、白い髪の美しい女の子が、笑顔で僕の方へと駆け寄って来た。
アカリに、スピカ。そしてごわす・・・・・ハルカさんだった。
三人共僕の前にくると右手を出す。
「ソラ!私にもボタン頂戴。」
「フッ、フンッ!可哀そうだから、私が貰ってあげる!」
「ソラ先輩。私にボタンをくれませんか?」
僕は3個ボタンをとると、三人に渡した。
三人は飛び跳ねて喜ぶと校門へと走って行く。
僕はもう一度ゆっくりと隣を見た。
そこには、完全に時が止まっている学友達三人がいた。
先に我に返ったサトルが、両手で僕の首襟を掴むと揺らしながら叫ぶ。
「おっおい!!!何だこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!どうなってんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ???」
ミノル氏とマサキ氏が我に返る。
「・・・・・ハッ!今、突然変な夢を見たのだが気のせいかな?」
「・・・・・うん?今記憶が飛びましたが何か?」
僕は笑っていると、三人が同時に僕に言った。
「「「 ・・・・・・・まさか・・・・・『ソラ』って・・・・・・あの??? 」」」
僕は校門を見る。
そこには先程のココセ、アカリ、スピカがいる。
そして周りの生徒に囲まれながらエイセイとクウガも。
僕はゆっくりと歩き出す。
・・・・・・・高校を卒業。そして数ヶ月後には19歳になり大学生だ。
完全に大人だ。
自分に責任を持てる年だから、もう顔を隠すのは今日でやめた。
心地いい風が吹く。
桜が舞ってとても綺麗だ。
僕は手を上げて親友達に言う。
「みんな!お待たせ!」
☆☆☆
「よし!準備完了!」
僕は撮影機材を取り出して、スタンバイが完了した。
目の前には【ゲート】がある。
ここはアメリカ。ニューヨーク。ダンジョンがある場所。
そして今は下層の最終地点。
【深層】(監獄島)へ行く【ゲート】の前だ。
『名もなき島』の探索から暫くして、【D8】の首脳と、異世界の『ファイン帝国』の皇帝、ファイン=ハートの会談が実現した。
そこで決められた事は色々とあったらしいが、基本的には友好関係を結んだみたいだ。
『名もなき島』にある【ゲート】付近に検問を設置し、お互い特別な審査や許可を得て、限定だが行き来する事が出来るようになった。
しかし、何故か特例として僕達【星空】だけは、自由に異世界へ行ける権利を得た。
それは、ファイン=ハート皇帝が提案した事だった。
だから、すぐにでも一番先に異世界に行ってライブ動画をしたい所だけど、それは後に取っておくことにした。
僕のライブ動画はこれからも続く。
あれから視聴者数も落ち着き、ライブ動画を観てくれる人は大体平均で数百万人。そしてチャンネル登録は七千万人程だ。
まだまだ僕の『空ちゃんねる』は伸びる。
フフフフフ。
これからもっと伸びる為のストーリーを描いているのだ。
僕は親友達を見る。
「おっ!終わったか?なら行こうぜ!」
「だな。」
「新しい【深層】はどんなモンスターがいるのか楽しみね。」
「行こ~♪行こ~♪」
「ソラ!いつもの様に私の後ろにいるのよ!」
僕の名前は武藤 空。
何もない。
本当に何もない至って普通の一般人だ。
でも、かけがえのない親友達と、よく分からないが何故か好かれている『幽霊さん』がいる。
・・・・・・・さぁ!これから僕の次のステージの開幕だ!
「さてっと。」
片手にカメラを持ち、儀式の様に僕は大きく深呼吸をする。
「すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
そして配信をスタートさせた。
「みなさぁぁぁぁぁぁぁぁん!観てますかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
僕の声がダンジョン全体に響き渡った。
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~あとがき~
これにて前編が終了となります。
次回からは後編のスタートとなります!
後編もどうぞよろしくお願いします!(^_-)-☆




