33話 カメラマン
「いゃ~。やっぱり旨かったな!あのカレー!」
僕はフードフロアにある有名なカレー店から出ると、お腹を手でポンポンしながら、後ろから続いて出てくる親友達に話す。
「オウ!」
「そうだね。クウガは大盛三杯してたよな。」
「確かに旨かった。あとで材料を聞いてみようか。」
「クウガは~♪食いすぎぃ~♪」
「まずまずね。スパイスが効いてて良かったわ!」
「フフフ。皆さん満足したみたいですね。」
日本ギルドビルの70階にあるフードフロア。
世界中の料理店が軒を連ねている。
しかもどうやって引っ張って来たのか、ある世界雑誌の評価星が付いている有名店ばかりだ。
70階という事もあり、景色も抜群にいい。
土日は別の入口から一般も解放されているので、もの凄く混んでいた。
まぁ僕達は探索者専用席で食べられるから、並ばずにすんだんだけどね。
仕事中のスズさんとはここで別れると、僕達は一階へと下りていった。
「つ~か、いつも思うんだけど、何でアカリは刀を持ってきてるんだよ。あとココセも。」
私服姿のアカリの腰には、探索時に装備している白く美しい刀が。ココセもダガーをぶら下げている。
「今日は『星空会議』の日だ。【星空】の時は、常に侍は刀を携えないといけないからな。」
「私も~♪」
「さようですか。」
僕は肩をすくめながら、おどけてみせた。
まぁ、探索者は武器の携帯が認められているからいいんだけどね。
「ねぇソラ。これからどうするの?」
とても広い一階のロビーを歩きながら、スピカが僕に聞いてきた。
「うん?そうだなぁ~。皆、今日は用事はないの?」
「オウ!ないぞ!」
「あぁ。ソラと会う日は、仕事は休みにしているからね。」
「私もないぞ。」
「私も~♪」
「もっ、もちろん!ソラが行きたい所があれば行ってもいいわよ!」
親友達は、いつも集まった日は時間を空けてくれている。
僕もそうだけど、一応聞いておかないとね。
「そっか!それじゃショッピング・・・・・は、みんな有名になって大変な事になるだろうから、今日はゲームセンターとか映画とか行こうぜ!」
「「「「「 オッケー♪ 」」」」」
日本ギルドビルの一階ロビーは、全ての探索者の受付をしないといけないので、とても広くて大きい。
周りを見ると、探索者達が大勢ロビーでたむろしていた。
僕達は、六人で一階ロビーの中央を喋りながら歩いていると、周りの探索者達が僕達を見て話をしている。
「おい。あれ、今話題の【星空】だぞ。」
「マジで?本当だ!」
「トップチームのお出ましだな。」
「いいなぁ~。あんな可愛い子達を連れて。」
「しかも、男達もエイセイとかクウガだもんな。」
「俺達には雲の上の存在だな。」
「サインくれないかな?」
すっかり探索者の中でも有名人になってしまった。
それだけ『空ちゃんねる』の存在が大きかったみたいだ。
親友達を有名にするのは『空ちゃんねる』の目的の一つだ。
よかよか♪
僕は歩きながらニヤニヤしていると、ハッと思い出す。
「あっ!やべっ。カメラ持ってくるの忘れた!みんな!ちょっと取りに行ってくるから待ってて!」
僕の撮影機材は【星空】オフィスに保管している。
だから、撮影前は必ず日本ギルドに取りに来ていた。
明日は配信する予定だから、カメラだけでも取りに行かないとまずい。
皆に声を掛けると、僕はエレベーターの方へと急いで戻る。
すると、近くで少し目つきの悪い探索者集団の一人が、ニヤニヤしながら近くを通る僕に向かって叫ぶ。
「あれぇ~?あいつ、『カメラマン』じゃね?まだいたんだ。探索者に混じっている一般人の寄生虫が。」
ザワッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!
一瞬。
フロア全体がざわついた。
「・・・・・・・。」
『カメラマン』・・・・・そして『寄生虫』。
探索者の中で、僕に対してあまり良く思ってない人がよく使う、侮蔑した僕のあだ名だ。
まぁ、的を得ているから何も言わないけどな!
最初に言われた時は思わず、うまい!って思ったもんだ。
僕は無視して、さっさと高速エレベーターへと乗り込んだ。
☆☆☆
「んだよあいつ。つまんねぇな。」
ソラに向かって吐き捨てた男は、何も反応を見せずにエレベーターへと入って行ったソラに不満をこぼす。
「ん?」
エレベーターを見ていた男は視線を戻すと、そこには綺麗な黒髪をした美しい女性が目の前に立っていた。
カジュアルな服装をしているが、腰には美しい白い刀を携えているという、何とも不格好なスタイルだった。
目の前の女性が、刀の柄を握った。
チンッ。
何も動いた様には見えないが、刀を鞘に納める音が聞こえる。
と同時に、右腕がもの凄く熱くなった。
ボトッ。
ゆっくりと、自分の右腕が地面へと落ちる。
見ると、右ひじから下がなかった。
斬られた右腕からは、血が噴き出る。
「はっ?はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ???」
「・・・・・うるさい。」
右腕がなくなって、血が噴き出ているのを、唖然とした顔で見ていた男の左側で、銀の髪をした少女が冷たい声で囁く。
ボトッ。
同時に、今度は左腕が地面へと落ち、血が噴き出る。
「あっ。あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「オラッ!」
ドンッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!
両腕を斬られた男の前に、いつの間にか現れたクウガが強烈な蹴りを入れる。
「ガハッ!!!」
そのまま男は壁まで吹き飛び、激突して、吐血しながら床へと落ちる。
落ちたと同時に、今度は両足が真っ赤になると、足がドロドロに溶けてなくなっていった。
男は茫然としながら先を見ると、人形の様な美しい赤い髪をした女性が、光を失った冷たい目で右手を前に出していた。
「はっ?はっ??はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?????」
両腕、両足がなくなり、血が噴き出ていてパニックになっている男に、ゆっくりとエイセイは近づき、屈んでその男の髪を掴む。
エイセイのその顔は、人気俳優やモデルで活躍している、優しくてカッコイイ表情とはあまりにもかけ離れていた。
「おい。」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「おいっ!!!」
「ひっ!ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「オイッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!」
「はっ、はっ、はい!!!」
髪を掴んでいる右手は、薄っすらと緑色に光っていた。
「もう痛みはなくなっただろう。」
ハッと気づき、男が冷静になると、自分の両手、両足が元通りになっているのが分かった。
エイセイは、光がなくなっている目をしながら、男の髪を掴んだ手をグイっと上げて、顔を上げさせながら言う。
「・・・・・てめぇ。・・・・・いいかよく聞け。今度またソラに対して同じ事を言ってみろ。今の痛みを延々と繰り返させるぞ。・・・・・お前達チームもだ!!!」
「「「「「 はっ!はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!! 」」」」」
一階ロビー。
沢山の探索者がいて賑わっていたが、今は静寂に包まれていた。
チーン。
音が鳴り、高速エレベーターの扉が開くと、ソラがカメラを片手に出てきた。
「ん?」
一階に着いたが、やけに静かだ。
何でだ?
まぁいいか。
僕は親友達を見かけると、笑顔で手を振りながら駆け寄る。
「お待た~!」
メンバー全員、ソラを見かけると、光がなかった目が、徐々に光を帯びる。
「遅せぇぞ!ソラ!」
「だな!」
近づいた僕に、クウガとエイセイが挟むように僕の肩に腕をまわす。
「ん~?どうしたの?」
「ハッハッハッ!何でもない!なっエイセイ!」
「あぁ!たまには男同士、肩を組むのもいいだろ?」
後ろを見ると、羨ましそうに女性陣が僕達を見ている。
「いや、まぁいいんだけどね。・・・・・んじゃ、行こうか!」
「「「「「 うん!あぁ! 」」」」」
いつの間にか、ロビーの賑わいは元に戻っていた。
日本ギルドの探索者達には、暗黙の了解が多々ある。
その一つ。
【星空】のリーダー。
ソラ。
彼の悪口を、仲間の前で絶対に言ってはいけない。
多々ある探索者達の暗黙のルールの一つであった。
☆☆☆
「いただきま~す!」
お腹が減っていた僕は、ご飯をかっ込む。
武藤家。一家団欒の夕食。
いゃぁ~今日は、親友達とゲームしたり、映画観たりと、とても充実した一日だった。
色々と歩いたせいか、家に帰る頃には、お腹が減る減る。
今は、母さんの作った夕食を堪能している次第だ。
「ソラ。ありがとな。落ち着いたら行かせてもらうよ。」
父親が、お酒を飲みながら笑顔でお礼を言う。
「フフフ。ソラ。嬉しかったわ。ありがとう。」
「喜んでくれて良かったよ。たまにはゆっくりしていってよ。僕達は大丈夫だからさ。なっ、ミドリ。ミズナ。」
「うん!お兄ちゃんからのプレゼントなんだから、ゆっくりしていきなよ!私達なら大丈夫だから!ね!ミズナ!」
「うん!」
この間のスピカの下層ソロ攻略。
結論から言うと、ライブ動画は100万人突破。
チャンネル登録は、何と1000万人だ。
スパチャも今までにない程のお金が入り、目を疑うほどの収入が入った。
正直、一般の高校生が持っていいお金じゃない程に。
まぁ親友達・・・・・探索者に比べたら少ないけど、同じ動画配信者では結構稼いでいるんじゃないかと思う。
大分収入も増えてきたので、両親には豪華温泉ペア宿泊券をプレゼントしたのだ。
僕はまだ学生だから、来年卒業したら、色々と今まで育ててくれた感謝を込めて、何かしたいと思っている。
もちろん、妹達にもね。
父親は大袈裟に泣きまねをする。
「くぅぅぅぅぅぅ!いい子供達を持って、俺は幸せだ!」
「そうね。でも、ソラ。来週は暫くあの子達と一緒に出掛けるのでしょう?大丈夫だと思うけど、気を付けて行ってくるのよ?」
「うん。父さんと母さんには前に話した様に、来週から十日間位、ダンジョン遠征に行ってくるね!」
父親はビールを一気に飲み干すと、気分よさげに話す。
「夏休みだからな。好きにしなさい。まぁ、あの子達なら大丈夫だろう。ソラもしっかりサポートするんだぞ?」
「あぁ!」
すると、食べ終わってお茶を飲んでいるミドリが僕に話しかける。
「ねぇ、お兄ちゃん。ミズナも私も、お兄ちゃんの『空ちゃんねる』観てるけど、アカリさんも、ココセさんも、スピカちゃんも凄く可愛くて、綺麗になったよね!それでいて一流の探索者で収入はいう事なし。将来、三人の誰かがお嫁さんになったら、お兄ちゃんも安泰なんだけどなぁ~。」
ミドリがおどける。
確かに。
あんなに可愛くて、美人だ。
リーダーの僕は、もちろんチームの収支も知っている。みんなは既に大金持ちときたもんだ。
「ハハハ。僕はゲームやアニメをこよなく愛する普通の高校生の陰キャだよ?美人で可愛い、日本の・・・・・いや、今後は世界の人気者になる三人で、高嶺の花もいいところだ。とてもじゃないけど、僕なんてふさわしい男じゃないよ。もちろん、付き合えたら最高だけどね!」
すると、ミドリの隣で聞いていたミズナは大きくため息をつく。
「はぁ~。まったくお兄ちゃんは。今はあまり会ってないから分からないけど、昔はどう見たってお兄ちゃんの事・・・・・まぁいいか。鈍感なお兄ちゃんには、きっと苦労してるんだろうな、お姉ちゃん達は。」
「だね。」
「おいおい。何だよ。意味ありげに。」
「「 べっつに~。バカお兄には教えない~♪ 」」
妹達は二人とも舌を出して挑発する。
いけませんよ。
JKが舌を出したりなんかしちゃ。
そんなこんなで、いつもの様に一家団欒の夕食を楽しんだ。
☆☆☆
「さて、明日は日曜だな!」
好きなだけゲームをした後、お風呂も入って、歯も磨いた僕は、ベットに横たわって呟く。
ここまでは予想以上の成果が出ている。
まさかチャンネル登録が、前回の倍の1000万以上になるなんて夢にも思わなかった。
「フフフフフ。」
思わずにやける。
明日は、初めての僕だけの動画配信だ。
親友達がいないから、どれだけ来てくれるか分からないけど、場つなぎとして軽い気持ちでやろう。
深層攻略の発表をしたら、視聴者はどんな反応をするのか楽しみだ。
すると、天井から『幽霊さん』が現れた。
「おっ。今日は【グリーン】だね。久しぶり。」
『幽霊さん』は嬉しそうに僕の横に寝転がる。
「・・・・・・・・・・・・・。」
「ハハハ。【エリア】がずっと来てるから、中々来ることが出来ないって?他の子も同じ事言ってたよ。」
僕は天井を見上げる。
今は結果も出ていて、とても楽しい。
今後も『空ちゃんねる』をもっと広めて、もっと登録者を増やさないと。
流行で終わらない様にしないとな!
僕は、隣で横になっている【グリーン】の頭を撫でながら呟く。
「おやすみ。」




