100話 ある親の一時
「雁雄様。お嬢様のお誘いの手紙です。」
「そうか。・・・・・・・近藤さん。そこに置いといてくれ。」
「かしこまりました。」
メガネをかけて、大人っぽい女性のアカリの専属秘書は、両手に沢山の手紙を持って現れると、居間の中央にあるテーブルの上に置いた。
そして頭を下げると、そのまま居間から出ていく。
ここは星グループ一族の本家。
アカリの実家である。
父親の雁雄は、居間でウイスキーを片手に飲みながら、1,000坪以上ある庭をうんざりしながら眺めていた。
「フフフ。あなた。またお誘いの手紙ですか?」
「琴葉・・・・・・・あぁ。断っても、断っても毎日の様に来る。・・・・・・・困ったものだ。」
笑顔で聞く妻に返事をしながら、山の様に置かれている手紙を見る。
一年ちょっと前に、アカリが高校を卒業してからというもの、会わせて欲しいだの、食事をしたいだの、お見合いをさせて欲しいだの・・・・・・・多くの財界人、そして政界人まで、ほぼ毎日の様にお誘いの電話や手紙が来ていた。
アカリは今は大学生で、ソラ君達と一緒のマンションに住んでいる。
たまに家に戻った時に聞くのだが、決まって同じ事をアカリは言った。
「お父様。その縁談が星家として必要なら、形だけはお会いしてもいいですよ。」
星家として、そして親に気遣った事を言われれば、断るしかない。
何故なら、その顔が、あまりにも興味のない顔をしているのだから。
品行方正。才色兼備。・・・・・・・そして世界一の探索者。
あまりにも完璧に育ったアカリ。
今は必ずと言っていい程、仕事先の会食やパーティなどで話題になる。
琴葉はテーブルに置かれた手紙を見ながら嬉しそうに言う。
「フフフ。本当に立派に育ってくれて。・・・・・・・私達の自慢の娘だわ。」
「そうだな。」
雁雄はウイスキーを一口飲みならが思う。
「ところで、ソラ君とはどうなんだ?」
「えっ?・・・・・・・・えっ??? なっ!なっ!何言ってるの?お父様??? ソッ、ソラ??? ソッ、ソッ、ソッ、ソラは・・・・・・・うん。うん。うん!!! 元気にしてるよ!!!」
ソラ君の話を振ると、いきなりポンコツになるアカリ。
真っ赤になってうろたえているアカリの姿を思い浮かべながら、自然と一人笑いをして大型テレビを見る。
「・・・・・・・あそこまで真っすぐに、そして純情に育ってくれたのは、ソラ君のおかげだ。このままうちのアカリを選んでくれるといいのだがな。」
「そうですね。」
雁雄が座っているソファーの横に琴葉は座ると、一緒にテレビを見る。
大型テレビに映っている『空ちゃんねる』を。
☆☆☆
「スズちゃん。ごめんなさいねぇ。手伝わせちゃって。」
「ホントホント!まったくうちのお兄ちゃんは!スズちゃんをよこしたらこうなるのを考えないとね~!」
「気にしないでください。私は一人っ子なので、とても楽しいですよ。」
ここはクウ君の家。
今は、お母様と妹のコトミちゃんと夕食の準備をしていた。
今日はクウ君に頼まれて、家に伺ったのだ。
探索者チームは、探索の為に家を空ける事が多い。
その為、その探索者チームの担当は、探索中のフォローもしなくてはならない。
今回は、仕事というより、プライベートに近いのだが。
一家の大黒柱として、この家族を支えているクウ君。
家をここまで長期に空ける事はないので、定期的に見に行ってやって欲しいと頼まれた。
「フフフ。・・・・・・・クウ君に頼まれなくても行ったけどね。」
料理を手伝いながら楽しそうに私は呟く。
「「「「「「「 いただきま~す♪♪ 」」」」」」」
「「「 うま~い! 」」」
「これ!スズちゃんが作ってくれたんだよね!」
「ほら!しゃべってないで、よく噛んで食べるの!」
「コトミお姉ちゃんうるさい~!」
「何ですって~!」
賑やかな食卓。
毎回、クウ君の家に来てこの光景を見ると、嬉しい気分になる。
コトミが食べながら、楽しそうにスズに聞く。
「でも、スズちゃん。よくお兄ちゃんと付き合う気になったよね!あんな鈍感なお兄ちゃんと!」
「フフッ。そう?・・・・・・・・まぁ、確かにクウ君は少し鈍い所はあるけど、とても優しいし、カッコイイと思うよ。」
「あ~!いいな~!それってソラさんのおかげなんでしょ~?」
「えっ?・・・・・・・そっ。そうね。」
一年前の【星空】オフィス。
他のスタッフはみんな帰り、後は、私と【星空】メンバーだけの時にそれは起こった。
ソラが言う。
「スズさん!・・・・・・・好きです!」
「「「「 えっ???? 」」」」
私を含む女性陣全員が固まった。
空気が一瞬で冷たくなる。
嬉しいとか、ドキドキしたとか、そんな感情ではなく、まず真っ先に思ったのが・・・・・・・あっ。私、死んだかも。・・・・・・・・だった。
アカリちゃん。ココセちゃん。スピカちゃん。
皆がソラ君の事を大好きなのは流石に分かる。
・・・・・・・見ると、茫然としている子。泣きそうな子。時が止まっている子。・・・・・・・様々だった。
私はパニックになった。
すると、ソラが続ける。
「あっ!僕じゃないですよ!こいつこいつ!・・・・・・・クウガです!」
「おう!」
バンバンとクウガの肩を叩きながら嬉しそうに話すソラ。
クウガが前に出ると言う。
「スズさん!俺はずっと貴方の事が好きでした!俺と付き合ってくれませんか?」
「はい。」
条件反射だった。
だって、ハラハラドキドキしていて、それどころではなかったのだ。
だから、思わず「はい。」って言っちゃたのは、私だけの秘密。
今ではクウ君と付き合えて、とても良かったと思っているから。
私はクウ君のご家族と一緒に食事をしながら、恨めしそうにテレビを見る。
「・・・・・・・でもソラ君?貴方は本当に困った人ね。」
スズは、テレビに流れている『空ちゃんねる』を観ながら、小さく呟いた。
☆☆☆
「王手!」
「おや?・・・・・・・ないのぉ。ワシの負けだ。本当に日野さんは将棋が強いねぇ。」
「ハッハッハ。将棋は趣味みたいなもんじゃからな。」
昼時。
近くの公民館で、老人達が集まる集会に、いつも参加している日野夫妻。
おじいさんは、少し離れた所でフラダンスを踊っているばあさんを見る。
「・・・・・・・孫にな。ずっと元気でいて欲しいと言われているからの。体を動かしたり、頭の体操は常にしとかんとのぉ。」
「そうか、そうか。でもお主の孫は、本当に可愛くて綺麗になったもんだ。・・・・・・・ここにいる爺さんや婆さん達からよく言われるのだろう?」
「そうだのぉ。」
ここ最近。
町内を散歩したり、こういった集会に参加している時には、必ずと言っていい程、ワシの孫を自分の息子や孫に合わせて欲しいと、声を掛けられる。
たまに、昔働いていた会社の部下が尋ねに来て、一度食事をさせて欲しいと頼まれる時もあった。
だが、その度にうまくはぐらかして断っていたのだ。
「・・・・・・・分かってないのじゃ。・・・・・・・ワシ達の孫は大変じゃぞ。」
「そうなのか?あんなベッピンさんじゃ。少しクセがあったとしても問題ないじゃろ。」
「お主・・・・・・・『ヤンデレ』って、知ってるかの?」
「『ヤンデレ』?何だそれは?ヤリイカの言い間違いかのぉ?」
「・・・・・・・知らないんならいいんじゃ。・・・・・・・それじゃ、もう一勝負しようかの!」
おじいさんは町内の友達にそう言うと、将棋の駒を並べ始める。
・・・・・・・ワシの家は、ばあさんと孫のココセの三人で住んでいる為に、部屋があまっていた。
前に、ココセがもう一部屋使いたいと言ってきたので、使わないので使っていいと許可をだしたのじゃが・・・・・・・ある日覗いた時にビックリしたものじゃ。
一つは、いつもの使っている可愛らしい部屋。
そして、新しく使っていいと言った部屋には・・・・・・・写真。写真。写真。そして写真。写真。写真。・・・・・・・壁や天井には、いたる所に写真が貼られていた。・・・・・・・何千、何万枚あるのだろうか。もの凄い数の写真が。・・・・・・・そして床には大きな人形があって、人形の顔にも顔写真が貼られている。・・・・・・・ソラ君の写真が。
それを愛おしそうに抱きしめながら悶えている孫。
ワシもばあさんも、流石に引いてしもうた。
だが、孫の趣味を注意するわけにもいかないので、一度だけ言った事がある。
「ココセ。その・・・・・・・・この部屋は、絶対にソラ君に見せてはいけないよ?・・・・・・・嫌われたくないじゃろぅ?」
「え~♪ やっぱり~♪ そうかな~♪ うん~♪ 分かった~♪ 絶対に見せない様に~♪ ソラが遊びに来たらカギ閉めるね~♪」
嬉しそうにソラ君の顔写真の人形を抱きしめながら答える孫。
「ワシが先行だな。それじゃ、やるぞい。」
そう言いながら【歩】を前に出す。
「・・・・・・・ワシの孫をあそこまでにしたのはソラ君のせいじゃ。・・・・・・・・男なら責任を取るのじゃよ?」
おじいさんは、公民館に置かれているテレビに映っている『空ちゃんねる』を観ながら呟いた。
☆☆☆
「えぇ。・・・・・・・えぇ。・・・・・・・いいんじゃないかしら。でも・・・・・・・息子が了解したらだけどね。ええ・・・・・・・帰ってきたら聞いてみるわ。それじゃ。」
そう言うと、携帯の電話を切る。
私はリビングのソファーでくつろぎながら、息子が主演のドラマを観ていた。
視聴率20%を超えている大人気のドラマだ。
私の名前は、山崎 彩芽。
今、日本で一番人気のある俳優であり、モデルであり、歌手あり、そして・・・・・・・世界一の探索者であるエイセイの母だ。
息子は、まさしく私が望んだ理想の男性へと変貌を遂げてくれた。
「はぁ~・・・・・・・だから気になるのよねぇ。」
一人で呟く。
我が息子のエイセイは、今は絶大な人気を誇っている。
周りから、ファンはもちろんの事、同業仲間達にも告白されているのだが・・・・・・・全然女性に興味を持たないのだ。
たまに一緒について行って様子を見ても、女性に対して仕事の話をするだけで、あまりにも素っ気ない。
「・・・・・・・ソラ君と一緒にいるときは、本当に嬉しそうなんだけど・・・・・・・ちょっと心配ね。」
ソラ君と幼馴染だけだ。
息子が一緒にいて楽しそうなのは。
でも、幼馴染の女の子達には興味がないらしい。
だからとても心配だった。
「でも・・・・・・・あの二人にはやさしいかな?」
唯一、女性として見ている子達。
ミドリとミズナちゃん。
ソラ君の妹達。
前にソラ君が連れてきて、家で一緒に遊んだ時は、エイセイが女性に対して気を遣うのを初めて見て驚いたものだ。多分、一番大好きなソラ君の妹だからかもしれないけど、もしかしたら・・・・・・・。
さっき携帯で話したエイセイのマネージャー。
今度、特番でエイセイの密着番組を作りたいと相談があった。
ドラマが終わったので、すぐにネットをつなぐ。
「・・・・・・・結局。エイセイはソラ君が中心なのよね。まったく私の息子を・・・・・・・ソラ君。分かってるの?」
テレビに映っている『空ちゃんねる』を観ながら、アヤメは笑顔で呟いた。
☆☆☆
「ほう。・・・・・・・この寿司はうまい!流石、ニコルCEOのおすすめするレストランですな!」
「気に入ってくれましたか。ここは私が出資している店でしてね。この店の料理長には、わざわざ日本から来てもらっているんですよ。」
ここはフランス。
パリ。
その首都の一等地にある店で、ニコルは大企業の取引先と会食をしていた。
取引先の会長が嬉しそうに言う。
「しかし・・・・・・・あれですな。貴方の企業は飛ぶ鳥を落とす勢いで成長して、今、IT業界で貴方の会社に肩を並べる企業は二社しか思い浮かびませんな!」
「そうですかね?まだまだですよ。」
「ハッハッハ!またまた!ご謙遜なさらなくても!」
寿司を食べながらヨイショしている取引先の会長。
ニコルの会社は、この10年で大きく成長を遂げた。
IT業界で、三本の指に入る企業に成長したのだ。
長者番付でも世界で十本の指に入っている大金持ちだった。
「しかし・・・・・・・貴方の娘さんは本当に綺麗になられて。間違いなく世界一の美しさでしょう。それでですね・・・・・・・どうでしょう。私の息子と一度、お会いする時間を取ってくれませんかね。どうしても会いたいとせがまれましてな。・・・・・・・私の息子は、ハーバード大学を首席で卒業して、探索者の経験もある強い男でしてね!今は、私の後継者として学ばせているのですよ。」
日本酒を飲みながらニコルは答える。
「そうですか。それは立派な息子さんですね。ですが・・・・・・・会長と同じ様に、様々な業界の人達から同じ様に誘われるのですが、私は娘の意思を尊重しておりましてね。娘が言うには、『私より強い人なら会ってもいい』と言われているのですよ。」
「ハ~ハッハッハッ!それは手厳しいですな!スピカさんより強い人など・・・・・・・この世界では【星空】のメンバー位でしょう!・・・・・・・あぁ。リーダーは除くから二人だけか!」
ピクッ。
会長の言葉を聞いて、黙って聞いていたニコルが反応する。
「・・・・・・・リーダーを除くと言うと?」
「だってそうでしょう?あの男は一般人と同じ『レベル1』だ。なぜあの最強の探索者チーム【星空】のリーダーになっているのかさっぱり分からないが、あの男が弱いのは明白でしょう!おそらく探索者経験のあるうちの息子よりずっと弱いはずだ。貴方の娘さんに一番不向きというわけですな!」
「・・・・・・・。」
「ん?どうかされましたかな?」
「いえ。何でもありません。おや、もう結構な時間になりましたね。それでは私は約束がありますのでこれで。」
「そうですか!・・・・・・・ニコルCEO。今後ともよろしくお願いしますね!それと機会があったら是非、うちの息子にスピカさんを会わせてもらえるよう取り計らってくれると助かりますな!」
ニコルは立ち上がると、笑顔で後にする。
ニコルが歩いているのを黙って付いて来ている秘書の男が言う。
「CEO。・・・・・・・よく我慢しましたね。」
「・・・・・・・まぁな。もう私も昔と違って、多くの人達を抱えているからね。」
秘書の男は思う。
昔のニコルCEOなら、あの会話でキレて、すぐに席を立っただろう。
でもそれをしなかった。
世界最大の企業の一つとなった責任感はあるみたいですね。
「だが!・・・・・・・あの企業との取引はストップだ!!!いいな!!!」
歩きながら真っ赤になって怒っているニコル。
「・・・・・・・了解しました。」
やっぱり成長してないみたいですね。
この数年。
娘さんが世界に知られる様になり、商談や会食の時に、必ずと言っていい程話題になっていた。
ニコルCEOは、今では普通にその話題を流しているのだが、唯一流せない事があった。
【星空】のリーダー・・・・・・・ソラ。
彼の話題が出ると、どうしても感情が表に出てしまう。
最近はおとなしかったが・・・・・・・我慢する事を覚えたらしい。
「まったく。・・・・・・・・『強さ』をまるで分かってない。」
歩きながらニコルが呟く。
私は娘の話題になると必ず言っている。
『私より強い人なら会ってもいい』・・・・・・・と。
それは別に力が強いだけを言っているのではない。
私は、今まで大勢の人達と出会った。
経済人や財界人。政界人や探索者まで。
だが、娘より『強い者』は見た事がない。
たった一人を除いては。
小さい頃から『強い』彼は、心の底から初めて敵わないと思った。・・・・・・・この私がだ。
きっと娘も同じだろう。
娘はずっと、彼の『強さ』に憧れて・・・・・・・そして近づきたいと思っている。
ずっと一緒に肩を並べる為に・・・・・・・娘が一生懸命、強くなろうとしているのを見るのは本当に辛かった。
ニコルは外で待っていた自家用車に乗ると、携帯を見る。
「・・・・・・・だがな!絶対!・・・・・・・絶対に認めないからな!・・・・・・・スピカは私だけのものなんだ!ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
隣で座っている秘書は、ため息をつきながらCEOを見る。
そこには『空ちゃんねる』を観て、いつもの様に文句を言っているニコルがいた。
☆☆☆
「「 いただきま~す! 」」
ミドリとミズナがいつもの様に元気よく言うと、夕食を食べ始める。
ここはソラの実家。
一人暮らしをはじめたソラを除いた一家全員が、夕食を楽しんでいた。
ミドリが言う。
「ねぇねぇお母さん!知ってる?今ね、うちのお兄ちゃん。結構人気者なんだよ!」
ミズナが言う。
「ホントだよね~!私のクラスの女子も、お兄ちゃん紹介して欲しいって言う可愛い子が多いよ!」
父親は黙って、娘達の話題にお酒を飲みながら笑顔で頷いている。
母親は笑いながら答える。
「ア~ハッハッハ! ソラが??? モテる??? ないない!!! あんなゲームやアニメばっかり観ている子を好きになる娘なんて、いないに決まってるでしょ!!!」
チーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン。
妹達二人は、テレビを観る。
「「 あっ。・・・・・・・・くしゃみした。 」」
テレビには『空ちゃんねる』が。
そして、そこにはソラが盛大にくしゃみをしている光景が映っていた。




