ハーレムの終わりへ③
もともと、リュカは平民であった。
それが魔法能力を買われて貴族となり、ディアーヌ達を娶ったという経歴を持つ。
そんなリュカだから貴族としての振る舞いは及第点程度でしかなく、「様になっている」とは思われても、「板についている」レベルではない。
今まではリュカへの好意的な視線があったから侍女たちも気にしていなかったが、その「好意」が無くなってしまえば評価は下がる一方である。
以前の、普段と同じように生活しているだけで評価が下がるのだ。
皇女や王女の伴侶として、リュカには欠けている物が多すぎた。
大きな功績を挙げてはいるので彼女たちに見合う相応しい人間であるはずが、悪意の前にはそれらが霞んでしまうので、そうは思われない。
リュカの良い所が評価されず、悪い所ばかりが問題視されているのだ。
「リュカ様への、侍女たちの評価が最悪です。これを覆すには、私たちが何を言っても難しいでしょう」
「でも、リュカは動かないわ。諦めるわけにはいかないけど……侍女を刷新した方が良いかもしれないわね。リュカの説得はディアーヌに任せるけど、構わないかしら?」
「そうですわね。子供たちに悪影響が出る前に、手を打ちませんと」
「私の方で侍女の引き締めを引き続き行いますわ」
嫁たちは、現状の危うさを正しく理解している。
侍女達が居なければハーレムの運営は成り立たず、自分たちだけで生活を成り立たせられるとは考えていない。
ただ主婦として生きていくような経験が無いのだ。仕事がなくなり家事に専念したとしても、なんともならない事は彼女たち自身が知っている。
よって、侍女たちを使い続けるのは必須である。
その侍女がリュカに対し隔意を抱いているとどうなるか?
答えは簡単だ。子供たちが、父親であるリュカを尊敬しなくなる。
子供の身の回りの世話をする侍女たちがリュカに隔意を抱けば、隔意が子供に感染するのだ。それは、控えめに言っても最悪の事態である。
リュカの子供たちは、その全員が普通の魔法使い以上の潜在能力を持っている。
そんな子供たちがリュカを敵とみなすような人格に育てば、帝国への忠誠を期待できるはずもなく、ただの危険分子になりかねない。
リュカが帝国への忠義を誓っている事が仇となるのだ。
帝国最強の魔法使い。武力と権力でハーレムの支配者をやっているリュカは、これまで国内で大きな失敗をしてこなかった。
そういった実績がリュカへの期待、求めるハードルを高くしていった。
翻って、その期待が失墜したときの反動も大きくなっている。
ここから挽回するには、これまで以上のインパクトのある実績が求められるが……そんな、リュカでなければいけない仕事など、そうそうある物ではない。
むしろ、あったとしたら、それは帝国滅亡に繋がるような大事件に発展しかねないものである。
そんな危険で都合の良い話など期待するべきではなく、出来る所から確実に積み重ねていこうとディアーヌ達は考え、同時に自分達でもなんとかできなかった時の保険も用意する。
ただ、ディアーヌ達も一つだけ失念していた事がある。
ディアーヌの一件は隠しようもない話で、ハーレム内に留まっていなかったのだ。
ハーレムの外交担当であるディアーヌが機能不全を起こしていた事もあり、マリアンヌとセレストではどうしようも無かった面もある。
ハーレムの外、貴族たちの中にも、リュカの行動を疑問視する声が上がっていた。




