リュカの傷
女主人の帰還は、ハーレムの誰もが喜びを見せた。
それは仲間でありライバルでもある3人も同様だ。
最初こそリュカに強制されてだったが、長い共闘関係が続いた事で、彼女たちの間には損得とは別の絆が結ばれていたのだ。
彼女たち4人の関係は、何か決定的な敵対関係に至る前だったからこそ、こうも上手くいっている。
リュカと本格的に顔を合わせる前に何かあるという事も無かったし、顔を合わせた後はコレットの一件以降にそういった事を禁止されている。
それに、生まれ、身分という枠が4人の上下関係を作っているので、相手のマウントを取りに行くなど揉める事もあまり無い。
4人は、互いの無事を喜べる程度には仲が良いのだ。
「お母様! ごめんなさい!!」
ディアーヌの帰還を一番喜んだのは、言うまでもなく長男のジェラールだ。
自分の魔法が母親に迷惑をかけ、もう帰って来ないような事になったのであれば、一生モノのトラウマになっただろう。
それが回避され、抱き合う二人を見たハーレムで働く多くの者が胸をなでおろした。
逆に、喜んでいて、悲しんでいるのがリュカである。
結局、若返った時のディアーヌを消してしまった事が尾を引いている。
しかし、あの時はああするべきであった。
リュカも知らない事であるが、若返ったままではディアーヌの精神が崩壊する恐れがあったのだ。
人間の記憶は脳に保管されるだけではない。魂にも刻まれているのだ。
下手に記憶ごと若返りを行い、そのままでいると、肉体と魂のミスマッチにより、死んでしまう可能性も有った。
過去にはその事に気が付いた研究者がいて、そんな研究者からの情報で回復魔法による若返りは禁忌とされていたのだ。
そうでなければ回復魔法による若返りはもっと研究され、権力者のみだろうがもう少し普及していただろう。
禁忌とされている事。
正しい情報が今も伝わっているわけではないが、それには相応の理由があるのだ。
リュカがそうやって複雑な感情を抱き、ディアーヌの帰還を喜びながらも悲しんでいる。
流石にリュカも表情を取り繕う事を覚え、それが周囲に分からないようにしているが、リュカがディアーヌの記憶を戻すことに積極的ではなかった事はみんな知っているので、隠すだけ無駄であった。
リュカの真意。それは分からないでもない。
ちゃんとディアーヌの帰還を喜び祝っているので、夫の務めを果たしている、ディアーヌへの情が無いわけではないというのも分かる。
普通に考えれば良き夫であり、人としての情もあるように見える。
ただ、それでも周囲はリュカに対し、僅かに隔意を抱いた。
やはり万難を排して嫁を助けようとして欲しかった、リュカならそれが出来たのではないか?
いや、実際に命令されればやってのけることができる、できたのだから、なぜもっと早くに動かなかったのか?
魔法においては万能なリュカだからこそ、期待され、求められ、そこから外れると失望される。
ハーレムにおける最高権力者、絶対者であるリュカ。
その信仰に、揺らぎが見えた。




