ディアーヌ⑤
過去に一度、このディアーヌではないが、かつてのディアーヌはリュカの事を好きになったのだ。
それはつまり、リュカに対し、好意を抱くことは普通にあるという事だ。
残念ながら既婚であり、自分とは自覚できない未来の自分と結婚しているために伴侶として求める事こそしないが、「結婚しても構わない相手」と思う事はあるのだ。
事実としてリュカは帝国に対し忠実であり、その忠誠を信頼できる相手である。何年もかけて積み重ねた実績がそれを証明しているため、リュカをこれ以上疑う事は部下を見る目が無いという事になる。
ディアーヌは皇族としてリュカを信用することにした。
その結末に今の自分という存在が消え、元の自分が帰ってくるのであれば、その方が帝国にとって利益となると判断した。
ディアーヌは皇族としての誇りを胸に、“本来あるべき状態”への回帰を求めることにしたのだ。
自分が消えることになっても構わない。
それが、ディアーヌの出した答えであった。
――そして、時間が経てばこうなることをリュカは見越していた。
なんだかんだ言って、リュカとディアーヌの付き合いは長い。
ディアーヌの言いだしそうなことは、何となくわかる。
「本人が納得しているんだからそれでいいじゃないか」とか、それで割り切れたら苦労はしないのだ。
リュカは優しい人、真面目に生きている人、正しくあろうとする人には、幸せになってほしいと思うのだ。
それはごくごく当たり前の、人として真っ当な感情である。
今回の件で、ディアーヌにも非が無いわけではない。
子供の魔法はだいたい危険で、制御が甘い。「回復魔法だから大丈夫だろう」と、その危険性を考慮せず、甘い考えで魔法を使わせたことは責められるべきだ。
ただ、自分の子供の善意を無下にせず、理屈でやって良い事と悪い事を区別するのもまた違うじゃないかと思わなくもないではないか。
失敗から学べることはあるし、幼いうちから失敗を経験することは将来に必ず財産となる。
大人の賢い考えだけで、子供の成長を阻害しても良いものか?
リュカはこの件でディアーヌが悪いと考えていないし、責めたくない。
だからこそ、リュカは目の前のディアーヌが消えるという“正しい流れ”に逆らおうとしたのだ。
正しい結末に、どうしても感情が納得してくれなかった。
目先の感情で動き間違っている事をしても、100年先まで考えた正解を実行したくなかった。
だが。
ディアーヌの決断に間に合わなかった段階で、リュカは自分の我が儘を諦めた。
ディアーヌの決意と覚悟、そしてそれだけでは抑えきれない恐怖を知り、その決断を尊重することにした。
ディアーヌは皇族の誇りに殉ずる覚悟を持つことができるが、それでも恐怖を感じないわけでもなく、いたずらに恐怖を長引かせるのもまた、リュカの本意ではない。
ディアーヌ自身の答えを聞いてしまった以上は、それを無視できない。
その日、一人の女性が消えて、一人の女性が帰って来た。
その事にリュカが流した涙は、嬉しさと悲しさの混じった、悲痛なものだったという。




