ディアーヌ③
回復魔法とは「傷付いた体を健常な状態にする魔法」である。
つまり「傷付いていない」のであれば、なんら効力は発揮しない。
「ディアーヌの現状は「何も問題ない」よ。少なくとも、俺の判定では、そうなっている」
リュカも、現状を良しとする訳ではない。
ただ、魔法的に問題のある状態か否かを判定しているだけだ。
その結果が「問題ない」のである。
こればかりは、本人の認識と確実に一致するものでもない。
「いったい、どうしてこんなことに……」
「回復魔法を、自分基準で考えたからだな。あとは魔力のごり押しだ」
マリアンヌの疑問に、リュカはあっさり断言で返す。
ジェラールの回復魔法は、ジェラール本人の体が健康の基準となる。人体の知識が足りない子供では、どうしてもイメージの基準は自分なのだ。
そして通常であれば特に問題のない回復魔法でも、大量の魔力があると、とんでもない結果に繋がってしまう。
本来発生するはずのなかった「若返り」が起きてしまったのも、それが理由だ。
「あれ? それなら、リュカも同じことが――」
「出来ない」
「え? でも――」
「出来ない」
そこでセレストが何かに気が付き、リュカに視線を向けるが、リュカは食い気味に否定を重ねる。
この件については有無を言わさぬ断固とした態度で、出来ないと繰り返す。
リュカも同じことが出来る。
だが、リュカに同じ事は出来ない。
技術的には出来ても、倫理的には出来ない。そういう事だ。
自身の良識と常識で、やってはいけない事だと決めて、やらないのだ。
不老不死に手が届くかもしれない技術など、リュカには悍しいものとしか感じられない。例え誰に求められようとも、手を出すべきではないと考えていた。
実際に、ディアーヌがこんなことになって得た感情は、喜びなどとはほど遠い。
リュカは回復魔法の悪用を、絶対にしてはいけないと思いを新たにする。
「ねえ、リュカ。リュカでも、ディアーヌはどうにもならないの?」
「可能だと、言いたいんだけどね。ディアーヌ次第なんだよ。
今のディアーヌが俺たちのように、それを望めば、可能。
でも、拒まれれば、どうにもならない」
疑問を一先ず横においたセレスト。
当面、一番の問題であるディアーヌの復活が望めるのかと、リュカに確認する。
それに対し、リュカは曖昧な言い方で、やや否定的な言葉を口にした。
どうにもならないだろうと言うかのように。
リュカは、ディアーヌが復活――元の年齢に戻ろうとしないだろうと、そのように予見した。
そしてこの予見は現実となる。
15歳のディアーヌは、結婚して二児の母親になった自分を受け入れきれず、若返りに対する治療、加齢を拒んだのである。




